ツタエ=アクマオ まぞく L8
「触れるな!わたくしに!触れるな!!」
「やめて!近寄らないで!」
「きゃあああああ」
声に、絶望を感じた。
体がすぐに動かない。
ディスクも動かない。
「この駄犬!なにしてんの!動きなさい!固まってないで!」
だが、すぐ我に返った。
めちゃくちゃ殴られたあたりでだが。
オークに掴まれている人の背中を切り裂き、注意を向け、こっちに向けばそれでよし。
そのままならそのままで頭を貫く。
だから、このパターンに慣れたくないのに!
「こんなのに…ちょっとでも触られるの、嫌!嫌よっ!」
ついさっきまで最高に頼りにしていた人が、顔をぼろぼろにして泣いていた。
心の何か必要だったところが、崩れたような感覚に襲われながら、その元を切りつける。
「殺した後落ち着いたら、もう5回は殺してやるからなお前」
オークが倒れたところに、きっちりこめかみに押し当て、地図の人が引き金を引く。
そして、ただの火器ならあり得ない破壊力で、そいつの頭が吹っ飛ぶ。
戦力としても割と大切な人なので助かる。
気になって離れられない、というレベルでないのが。
しかし、何とか近くに置いて守らないといけない人が絶対増えているという現実が。
また、あちこちに聞こえだす悲鳴が。
……もう……あらかた、どうにか、してしまっテ…いいか…?
「おまえ~、聞いてるか~!おい!おいおい!お~い!」
「なんだ?」
「…目の色違うぞオマエ」
「キニスンナヨ」
「ディスクな、供給力が変わりすぎててオマエに使えないって話してなかったろ~、はやくしろ~」
「……へ、へぇ」
何かが壊れたような感じを、この変な会話が冷ましてくれた。
「なんでもいい、なら、みんながいない方に向かって、ソッカータ即時起動、全開放って言えば多分動くかも、頼りにしてるぞ」
かけらも思っていないことを適当に言う。
構ってられないから、それだけ言って、誰かを助けに行く。
時間なんてないんだ。
「や、やめてよ!」
オークに掴まれた足を振りほどこうとしている目の前の女性を助けるべく、出来る限り近づく。
「やめてったらぁぁぁぁ!!」
叫びとともに、オークの片足が吹っ飛ぶ。
あれ?
逆じゃねえ?
痛がり、ふらふらしているオークの頭を潰す。
「あ、ありがとうございます」
「……いえいえ」
釈然としない。
見間違いじゃないのか。
そして、また、別のほうに走っていくと。
「近寄らないでよお!!!」
言ったそばから、覆いかぶさろうとしたオークに抵抗して振り回した腕がオークの首が吹っ飛ばしているのを目撃する。
状況が、見ているものと重なり合わなくてバグりだす。
大丈夫そうだから、他に回ろう…。
そして、数軒回り、助けたものと、何か状況に似合わない暴力もまた何件か目の前に広げられ。
何やら、立ち眩みに近い感覚を感じだす。
理解できない。
その中、さらに。
—目を瞑れ、すぐ。
耳じゃない何かの声が響く。
これは、ちょっと前に聞いた「あれ」の最初の声に似ている。
「オマエはボクと同位的なカウントできるから、いいぞ~?」
なにも頭が使えなくなったように振り返ると、手を引っ張る「あれ」がいた。
「でぃすく、ソッカータきどう~!全力で~」
そんな呼び方でいいんだっけか。
クラクラして曖昧だ。
そして、何か見えた。
「見覚え無いな…これ、なんだっけ」
「ボクに触れすぎて性質変化したんじゃないかなぁ~、まあいいんじゃね」
「そうか…」
人影に見えるが、ぼやっとしてそれが何かはわからない。
ガクガクそれの中央が震えていて、「もや」が上下しているように見えなくもない。
すると遠くのオークがそれを見る。
見ると、一瞬、そいつが震えるのが見えた。
そして次の瞬間、その「もや」がテレポートのようにオークの後ろに現れ、振り回した手がオークの頭部を粉砕するのが見えた。
もう、何もかも、見るものが信じられない気分だ。
そのまま、何も考えず広場っぽいところに出る。
もう「もや」らしいものが数十匹おり、あたり中の生き物を潰している。
どうも、「もや」を直視したら襲ってきて殺される仕様らしい。
知ってたディスク、こんな怖いものじゃないんだけど…。
何も考えず、意味不明な光景に混乱して進み。
目の前に、気が付くと見つけた、魔法陣のような線。
足でこすって一部消す。
そうすると、丸ごとが消えた。
何したんだか。
「終わったんじゃないのかあ~」
「…あ、おまえ、オーク生きてるのどれくらいかわかるか?」
「もう生きてるのがいるわけないよなぁ~」
そうか、そんなになってるのか、周り。
「ディスク、イジェクトていってくれ頼む、耐えられなくて目を開けた人たち死ぬ」
「でぃすく~イジェ~~クト」
物まねっぽいものしました?誰にも通じそうにないやつ。
声とともに、一瞬にして、それらは消える。
本当に夢のように。
死体と、不気味な液体は山ほど残っているが、もうなにがなにやら。
「目はもう開けていいですよー!」
通じればいい程度に、一応大声は出しておく。
現実感がない何かは感じても、ずっとぼーっとしたままだ。
「おわったかんじかしらぁ?」
「がんばってくれたみたい、ね?」
奥から、聞いた声がする。
「お二人ですか…やり尽くしたような合図はないから気を付けて下さ…」
えっ。
「…なんで服を脱いでいるんですか…」
「私たちの必殺の切り札なんだけどねぇ、契約で取り出すもので、一振りするごとに自らの何かを捧げないといけないのよぉ」
「久々すぎて忘れてたから、とりあえず二人で着衣や持ち物を捧げていってたんだけど、ぎりぎりで、ね?」
説明になってるんだか、いないんだか。
とにかく、何とかは…したんでしょうと。
汚れどころか汗もかいていない様子なので、どこにいたんだから不安だが、気にすべきではないと感じる。
「せんせい!ご無事でよかったですー!」
「駄犬、ずいぶん活躍したじゃない!」
「みんな無事かなー!?」
後ろからも、徐々に声が聞こえてくる。
悲鳴や鳴き声が主でないということは、アレで大被害が出てないんだろうか。
心配だが、いまはフラフラで確認する気力がない。
ただ。
「よかった…よかた…」
泣いていたかもしれない。
全くもって、根性なしの行動だ。
心だけすり減ったような、それが溶けて、体に伝わったような。
「よくやったものですネ!!出来損ないどもの分際デ!!」
体ごと地面に落ちそうだった、このタイミングで。
「今回は用意したものは出し尽くしましたのデ、残ってる分だけで勘弁してあげてもイイですワ!」
「だれだよ」
正直言うと、ありがとうが言えるレベルかもしれない。
このタイミングで倒れたら、たぶんしばらく起きれなかった。
口ぶりからすると、今回の襲撃をした張本人っぽいものかもしれない。
しかしまぁ、終わりを伝えてくれるのは温情くらいにやさしい。
ひたすらまだあるぞと言われるだけでこっちは焦燥するわけだから。
「まぁまぁ、わざわざ出てきてくれるなんて、かわいいお嬢さん」
「あれが親玉?結構なんか貧相な…胸」
声からすると上空にいるらしいそれ。
様々な煽りを当然、村の人たちから受ける。
「お前ら私を怒らせたいノ!?私だけでも多分おまえラ、ひねりつぶせ…グワ!?」
先生がいじったのだろう、空にまだ残った渦が器用に誘導され、上の何かを地面にたたき落とす。
これでまあ、間違いなく終わりだ。
「なんだったかしら?わたしに勝てるって言ってたのから、ね?」
服は着てないが、なんだか凄味があるおかあさん。
何人か寄ってきて、素手に包囲されて、タコ殴り10秒前だ。
そして即座に聞こえる、銃声。
「てめぇ何言ってるかわかっていってるなら、指から一本一本千切られてから同じこと言えるか試してやってもいいんだぞカスがよお」
「羽に当たっタ!当たってタ!脅してなイ!?」
マップの人、もうあれ、殺すな。
終わった終わった。
「伝えることあるのニ!魔侯爵のメッセージもってるのニ!いきなり撃っタ!撃ったヨ!このヒト!!!」
「いや、まだ攻めてくるなら撃つだろ?何したかこの前で私たちに言うてみいよ、ホラ、言いながら罪一つごとに目玉これで引っ掻いてやっからさぁ?」
「メはふたつしかないでス!この人殺す気でス!!!」
当たり前だ。
こんだけ周到に荒らしまわって無事だと思う方がおかしい。
「それニ、私をどうにかするにしてモ、外のもう4体いるサーティオーガ止まんないでス!今こんっななことしてモ、村なんか壊れるんでス!!」
「ちょっと待て!!!」
「あらぁ…あれ、まだいたのね…」
「ちょっと見ていない間だけであれ10体潰したの正気じゃないのデス!あまりに意味わからないかラ、魔侯爵に応援を転送してもらったのデス!」
「それはふんじばってください、行ってきます」
「あらあら、男の子ねぇ」
「いってこいゴミかすの意地見せろお!」
「はあい」
言われるまま、ここはしないといけないだろうと村の外に。
ここの空気と混乱する現実感のなさを振り切りたい。
それだけしか、考えてい無かったろうな、僕。
「おぉ、いるわいるわ」
言葉の通り、4体。
あのカタマリみたいな鎧たちが並んでいる。
「ふらっと出てきたけど、そういえばぼく、これに勝てそうだったっけ?」
当たり前のように突っ込んでいくが、そういえば、さっきは鎧に弾かれる攻撃しか…出来てなかったな?
「これ、今思うと、もしかしてまずいんじゃないか!?」
特に規則性もなく殴ってくるカタマリども。
連携もないが、だからちょっとパターンにしにくく調子が狂い、避けにくい。
今は光の棒を展開して一進一退っぽい見栄えになってるが、変だな…相手に何一つできてないようなことしかしてない。
なら同士討ちがセオリー…殴り合わせて…。
「しまった!!」
あっさり掴まれる。
容赦ない。
何のためらいもなく、言葉もなく、潰そうと握ってくる。
生かしておかないとという目的がないなら、むしろそうか。
と、言っている場合じゃない。
これ、死………?
「ディスク、スタッカート、ピアニッシッシモ即時起動!斉射!」
今の声…?
「リューオ!あんた手抜きして痛いことしても誰も喜ばんでぇ!」
「マリカ、さん?」
スタッカート。
針のような誘導できる攻撃武器のようなディスクだ。
小型にすればするほど数が増える特性なので、数百の自分で意識誘導可能な弾が飛び交っているさまだと、思われる。
「緩んだ…抜けられる!」
「ほらほら、はよ受け取りにこいやー」
多分、掴まれた腕に集中的に叩きこんでくれたに違いない。
マリカさん、最高にいいときに来てくれる。
僕のヒーローしてくれること、やっぱり多いなこの人。
「でも、なんでここに」
「そら、急にいなくなったってアイーダに泣きつかれたら探すやろ?」
「あ、ああ…」
そうなってるのか、そういえば。
「状況は予想できたよってな、調整が終わったらフェルマータの残った移動情報でポイントロックすれば、そのまま乗ってちょいちょいの、ちょいや」
「さすがマリカさん、行動早い!腕がいい!話がわかるう!」「そんな褒めんでも…照れるなあ」
「ではそのへんで」
「ならほい!」
寄ってくる強力そうなデカブツ4体を前に楽しいやり取り。
そして、投げられるものと、受け取る手。
それは、小さな一つのキューブ。
メンタルリンク、キューブ0ロック、領域、チャンネル、ユーザ権限確認。
開放、完了。
「…よっしゃあ!!!」
手元のキューブが消える。
つまりこれは、キューブの空間操作が正しく動いているのを確認した作業でもある。
次に、睨んだ相手を決めた次の瞬間。
相手との距離を圧縮して瞬時に移動。
固定、歪曲、移動をランダムに振りまいて断面を作り、再固定。
そして、その場の距離を開放し、別の離れたところに着地。
「あの手早くやるのは、やっぱり才能なんやろね、見て気持ちいいくらいやわ」
数秒で、カタマリ四体は細切れの散らかった物体と化す。
「ありがとうございます、これで元通りです」
もう、二度とここに来る奴に負ける気はしない。
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