0.04秒でできること
前回は学校長が女騎士に氷の槍を数百本打ち込んだところで終わりました。
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けたたましい音が鳴り響いた。
数百を優に超えるほどの氷の槍が一斉放火され、標的はたったひとりの人間だというのだ。
轟音が耳に入ってやっと気がついたのか、周りにいた騎士たちが皆同じ場所を見つめはじめた。ラナの時とは違い、いちいち隠れてやるような行動は取らずに豪快に槍を注ぎ込んだ。
うっとおしいほどに舞う砂埃が慣れればそこには見るに堪えないほどボロボロになった女騎士が現れるはずなのだが……
「何の真似事でしょうか?」
待っている砂埃の奥から一言、落ち着いた声音が聞こえてきた。
「だいたい察してはいたけれども……」
「"その程度"じゃフニルはピクリともしない」
視界が綺麗になればそこに誰かが倒れているような姿は見当たらない。
そこにはこちらに向かい県筋を真っ直ぐと立てすぐにでも行動ができる構えをとっている女騎士の姿があった。
「ラナ…そういうこと……。本日の訓練はここまでとする!各自解散しろ」
突然攻撃を仕掛けてきた学校長と会話を交わしていたラナの姿を目にしたフニルは、今起きたことが何だったのか瞬時に理解し、周りで騒がしくなっている騎士たちを散らせるという意味もありながら、本日の訓練を終了させた。
「フニルはここまで分かって指示を出せる優秀な女騎士、かわいい」
ラナは目の前の人物を褒め、ライラに紹介をした。
「最後の言葉はいらないでしょラナ。…シールイア魔法学校校長のライラ殿と見受けられる。初めまして、私の名前はフニル。知っての通り騎士部隊に所属しているただの騎士よ」
「不意打ち迷惑された上でそんなことを感じさせないしっかりとした挨拶…っと、こちらこそ初めまして。私は魔法学校でお偉いさんしてるライラ。気軽にライラって呼んで」
「そういえば自己紹介してなかった……。私はラナ、好きな食べ物はぶどう」
「うん。ラナとフニル、よろしく!…改めてなんだけど、セリアちゃんが魔法学校に通うことにあたっての護衛を、うちの学校教師に紛れてして欲しいって話、王様から聞かされてたでしょう?」
「私たち2人だけじゃなくて計15人も選ばれてるんですよね?」
「あぁ〜……そのことなんだけど、さすがに多すぎるから五人に減らして、時期をずらして二人、三人っていうことになったよ」
「私も多いと思ってた」
ラナが呟くように相槌をうつ。
15人という数が過保護で多いという感性は、ライラだけが持っているものではなく他の者もそう思っていたらしく、ライラはどこがホッとした。
「セリアちゃんは一国の王女様、王様からも何か事件が起こる前に未然に阻止して欲しいって言われちゃったくらいだし、今回は選出された五人がそれ相応の実力があるのか、見極めに来たって感じなんだけど……」
「……?」
「もしかして…足らなかったのですか?」
「ううん、全然大丈夫だよ。私が思ってた以上に動けそうだったし、何よりフニルはその場の判断力が素晴らしいと見て取れたからね」
ライラは褒めた。
王女を守るという重役に、足りる足らないなど関係ないかのように褒めた。
相手の目を見ながら話を交えている最中、フニルの脳天頭上に氷の槍を生成し始めた。
生成し始めたと言っても、かけた時間は0.1秒にも満たないまさに一瞬であった。生成した後は時間をおかず、躊躇うことも無く高速でその氷の槍を落下させた。
「っ!!」
氷の槍が0.01秒以下で生成されてから高速で振り落とされるまで0.3秒もかからなかった。
気づくことすら許されぬその0.04秒という時間、ライラはその氷の槍を寸止めしようなどと考えは全く持ち合わせてはいなかった。
そんな氷の槍が行き着く際はフニルの脳天……ではなく何も無い地面であった。
「ほんとの不意打ち……」
今目の前で起こった一連の事を驚くことも無く静かに眺めていたラナは呟いた。
ライラは地面に深く突き刺さった氷の槍をパリンッと簡単にわりながら、口を開いた。
「わざとらしく褒めまくって油断させようとしていたのがバレバレだっとはいえ…あれを避けるのは来ることを事前に知らされていても並の人間じゃ対応でぎないとおもうんだよねぇ〜流石は国随一の最強コンビの片方だね」
「さすがに驚きましたよ」
「そうじゃないと意味が無いからね!」
心臓をバクバクとならしながらフニルは、言い方だけでもいつもの平常心を思い出し本当のことを告げた。
ライラは今の不意打ちをもって本当の合格採用を決めていた。
国随一の最強コンビ。これはフニルとラナのことです。
片っぽだけの単体戦力でも他を寄せつけないほどですが、ふたりが手を合わせたときの戦力といえばそこら辺の国を滅ぼせるんじゃないですかね(すっとぼけ)
そうです。チートです。