第四十四話 アストの種族
「そういえば、アストは魔族について何か知っているのか?」
「……どうしてそう思うんですか?」
「さっき戦ってたサンディーってやつが変身した姿見た時、魔族って呟く声が聞こえた気がしたから」
実際のところ、誰がそれを呟いたのかは分かっていなかった。
だからそれがアストだと思ったのは単なる勘だったのだが、それを聞いて苦い表情をしたのは、ゆっくり飲むことにしたらしいポーションを飲んだこととは別の理由のはずだ。
「……共有魔法のおかげで師匠がなぜ魔族について知りたがっているのかは分かっているので、話してもいいですか」
誰かに許可を求めるような声でアストはそう言った。
「無理に話さなくてもいいよ……?」
「大丈夫です。それに、あの人にも関わることかもしれませんから」
聞いてもよいものか迷ったが、アストもそう言うので遠慮なく聞くことにする。
「まず、前提として私は魔族とのクォーターです」
「え、そうだったの?」
「はい、そしてあのサンディーっていう人はハーフだと思います。変身能力があったので」
んんっ!?
今、さらっと重要情報があったような気が。
……落ち着け。一つずつだ。
「ええっと……変身能力があったらハーフなの?」
「いえ、変身能力は魔族特有の能力です」
そうなの?
本で読んだ限りではそんなこと一言も……いや、本に載っていることが全てだとは思ってないけどさ。
「じゃあ、アストも変身できたり?」
「いえ、できません。できるのは――」
アストの説明によると、変身能力はすべての魔族と一部のハーフ魔族が持っているものらしい。
ただし、ハーフ魔族が人間→魔族の姿に変身するのに対し、純粋な魔族の変身は巨大化したり、肌の色が濃くなったり、目の色が変わったり、はたまた見た目の変化はなかったりするみたいだ。
だが、例外なく魔力量などの戦闘力が上がり、それぞれ独自の『固有魔法』が使えるようになるらしい。
なのでサンディーとかいうやつの固有魔法はおそらく、瞬間移動か超スピード化みたいなものなのだろう。
っていうか、思いっきり話が逸れたな。
完全におれのせいだけど。
すでにアストは少し話疲れている。
「ごめん、ここからは聞くのに徹するよ」
「は、はい……。それで、お願いします……」
アストとは会話の波長が合うのか、すぐに余計なことまで(おれが)話そうとしてしまう。
で、大体アストの方が先にばててしまう。
おれは本来、口数が多い方ではないと思うんだけどなぁ……。アストとは無限に話していたいという気にさえなる。
だから、自重しないとな、自重。
あんまり遅いと、フォル君たちも心配するだろうし。
というわけで、アストの魔族についての説明は要約するとこんな感じだ。
魔族のほとんどは、メイオール王国の東に位置するアマルテア帝国のさらに東にいった場所に住んでいるらしい。
そこは俗に魔界と呼ばれ、ここよりもはるかに環境が厳しく、魔物も強い。
ならなぜそんな場所に魔族は住んでいるのかというと、空気中に含まれる魔力、いわゆる魔素がここ人間界とは微妙に違うかららしい。
魔素が違うと魔力操作が変わり魔法が上手く使えなくなる上に、なんとなく落ち着かないのだそう。
だから、魔族は基本的に人間界に足を踏み入れることがない。いたとしても、それは魔力操作がほとんどできないレベルの弱い個体だけなのだとか。
なので、人間界で魔族が目立つことはほとんどない。
しかし、例外がある。
それがハーフ魔族だ。
ハーフ魔族は強い……というより、魔力量、魔力操作のどちらもが優れていなければ生まれてくることがほとんどないらしい。
だから、やたら強い人間の中には実はハーフ魔族という場合もあるとのこと。
アストの場合は母親がハーフ魔族みたいだが、幸か不幸か変身能力のない人間よりの、比較的弱いハーフ魔族だったそうだ。
したがって、人間界の魔素によく馴染んだ。
ここからはアストの憶測でしかないが、サンディーは魔族の血を濃く受け継いでいる。
そうなると、ここの人間界の魔素に馴染んでいない可能性が高い。
それだけでなく、ハーフ魔族はダンジョンの魔素と絶望的に相性が悪いらしい。
にもかかわらず、サンディーはダンジョン攻略を目的とするアストロ学園の生徒になっている。
そこが不思議に思えるとのこと。知らないのか、何か別の目的があるのか。
「それで、アストはその子に何をしてあげたいの?」
「え……?」
「まだ、何かあるんでしょ?おれも協力できることがあるなら協力するからさ」
アストはおれが魔族について知りたがっている理由を知っている。
共有魔法でおれが考えていることがバレバレだったからな。
だから、いつもならアストの性格的に魔族の住んでいる場所や魔素の説明は省くはずだった。聞けば答えてくれただろうけど。
なのに今回は自分からそのような話をした。
つまり、アストはサンディーに何かしてあげたいことがあったってことだと思う。
多分。
「助けてあげたいです」
「助ける?」
「はい。そもそも助けを求めているかも分かりませんし、私が本当に助けになるのかも分かりませんけど、助けてあげたいです……」
珍しく早口で、最後は尻すぼみになっていたけど、アストはたしかにそう言った。
なら、やることは決まっている。
「んじゃ、明日にでも話を聞きに行ってみるか」
「ありがとうございます」
相変わらずの無表情でアストはそう言う。
『助ける』の意味はあまりまだ分かっていないけれど。それはまたおいおい聞いていけばいい。
一気に聞きすぎても、アストがしんどいだろうしな。
それに、サンディーのあの強さならば対抗戦に出場してくるのは十分に考えられるだろう。
それなら情報収集の意味でもちょうどよかったくらいだ。
それにしても、アストが魔族とのクォーターだったとは驚きだよな。
せっかく異世界に来たのだから魔族にも会いたいとは思ってはいたが、まさかこんなに近くにいたとは。
もっとも、クォーターともなると魔族らしいことはほとんどないみたいだけど。多少、魔力量が多いことくらいか。
もし、純血の魔族やエルフに会いたければ魔素の問題をどうにかしないといけないのかな。
あと、アストの話し方から『ハーフ』魔族には別の問題もありそうだった。
もしかしたらレイン先生がハーフドワーフ(推定)であることをおれたちに明かさないこととも関係があるのかも……なんてね。
その後、観客席に戻りレイン先生とサンディーの試合も観戦した。
圧巻だった。
レイン先生は相性の悪い水魔法でサンディーの土魔法を圧倒した。
それも、フィールドが水魔法にとって相性の悪い砂漠だったにもかかわらず、だ。
その後、サンディーが変身をしようとした瞬間、フィールド全体が霧に覆われて2人の姿が見えなくなった。
とんでもなく広範囲かつ即時性の高い魔法だった。
霧がなくなった時にはサンディーの魔力体はなくなっており、レイン先生の勝利が確定した。
結局、サンディーは何もさせてもらえずレイン先生の圧勝という結果に終わった。
だが、派手な魔法も多く、前座としては申し分ない結果であったと言えるだろう。
それに、収穫もあった。
闘技場のフィールド変化、あれは使えるかもしれない。
フィールド変化には魔力が使われていた。正確にはダンジョンの魔素だ。
なので、魔法の罠を仕込んでいても気づかれにくいと思う。
これは、ルールを確認しておく必要があるな。
いよいよ具体的な作戦を考える段階に来たことを感じ、本番がますます楽しみになってくるのであった。




