第四十二話 闘技場
ちょっとpixivの方で別作品を書いてたりしました。
興味ある方は読んでみてください。
https://www.pixiv.net/dashboard/works
対抗戦まであと1週間にもなろうかという日の休日、おれたち5人は対抗戦の開催場所にもなっている闘技場へと訪れていた。
「おー、盛り上がってるなー」
「すげえ、すげえ!」
「ふあぁ……!」
「へー、こんな感じなんだ……」
「……」
闘技場では未だメインイベントが始まっていないにも関わらず既に熱気を帯びており、初めてここに来るおれたちに感嘆の声を上げさせるには十分なほどだった。(約一名、反応がない人もいるが)
「いやー、すげえなぁ、リック!」
「お前、さっきからすげえしか言ってなくね?」
そんな「すげえ」botになっているソラの反応もあながち大げさとも言えないと思う。だって、クラウさんもソラに負けず劣らずの反応をしているし、フォル君も話には聞いていたみたいだが実際に来るのは初めてらしく、少なからず感動していた。
「アストはあんまりこういうの好きじゃないか?」
「そんなことはありません。とても興奮しています」
そんなことを表情を変えずに言ってくるものだから、正直なところそれが本心なのかおれには分からない。妹のイストでも姉が何を考えているのか分からない時があると言っていたので、おれがその表情から感情を読み取れる日は一生来ないのかもしれない。魔力を伝ってなら、これ以上分かりやすい人はいないのだが。
「そっか。それなら良かった」
「む……。信じてませんね……!」
そう言ってアストはおれと手をつなごうとしてくる。
無属性魔法である『念話』とは少し違うが、アストは相手と直接触れ合うことによって自分の意志や感情を共有できるのだ。
触れ合うことが条件と言っても結局は魔力を介しているので、本当は離れていてもできるのだが、そこはアストの魔力捜査の練度不足といったところだ。
そういうわけで、アストの支援魔法を飛ばせる範囲はおれよりもだいぶ狭い。
ただ、おれよりも魔力量は多いので、このように直接触れていたり、近距離ではおれよりも強い支援効果を得られる。
「おおぅ……!やっぱ、アストは純粋だなぁ」
「私、これ好きです」
アストの手から流れてくるものを受け取ると、そんな言葉がこぼれ出る。
表情はやっぱりほとんど変わらないのに、その中の感情が嬉しい、わくわくしている、といったもので一杯になっていることを信じて疑わせない。
それほどまでに膨大な意志や感情といったものが流れ込んでくる。
アストは簡単にやっているが、本来は『共有』系統の魔法はとても難しい。
そのほとんどが上級魔法に含まれる、と言ったら少しは伝わるだろうか。
まあ、意志や感情を共有するだけならば中級がいいところだろうが、アストの場合はその割合が違う。
普通は『共有』するとは言ってもその割合は半分程度がせいぜいだ。じゃないと、共有自体ができない。似ることはあっても、人それぞれ違う質の魔力を持っているなんて当たり前のことだからな。特に、感情や意志の共有なんて1割くらいに限定しないと何を共有したいのかわからないのが普通だ。
だが、アストは違う。
アストは恐らく、自身の魔力の8割以上を本当に相手と共有させてしまっている。
アスト自身も共有する魔力の制限なんてしていないって言ってたしな。
だからこその、この共有度合いというわけだ。
共有度合いを上げるコツは基本、魔力の質の均一化と雑念を排することであると言われている。アストは元々魔力の質が綺麗というのもあるが、相手のことを信頼して魔力を本当に委ねてしまえるからこそできる芸当なのだろうなと思う。
本来、そこまでするのは本能が拒否してしまうものなのだが。
……まあ、さすがに誰でもってわけにはいかないみたいだけど。
でも、少なくともおれやソラのPTメンバー全員とはできるみたいだからすごいことには変わりない。
「……分かってくれましたか、師匠?」
「十分すぎるほどにね。ここまでやる必要はなかったと思うけど。あと、また師匠呼びになってる」
「あ、ごめんなさい……」
そう言ってシュンとうつむいてしまう。
いや、そこまで責めるつもりはなかったんだけど。
共有魔法を使うと、思考が鈍るのはしょうがないし、アストの場合は割合が割合なので素直になりすぎてしまうことがあるのは理解しているし。
っていうか最初に師匠って呼ばれた時、さすがに同級生に師匠と呼ばせるのは……と感じてしまって思わず断ってしまったけど、こんなことになるならもう師匠呼び許可した方がよくないか……?
何より、アストの感情は今尚繋がれている手の方からも嫌というほど伝わってくるし。
「あー、別にいいよ、師匠って呼んでも」
「え……?」
「うん、よく考えるとおれ、名前なんて何でもいい派だし、マーレさんにも教えることになったんだからその、師匠としての自覚を持つべきだとも思ったり……?」
「そうですね、師匠はもっと私の師匠としての自覚を持つべきです」
「急に開き直るじゃん!」
「とにかく、もう取り消せませんからね、師匠……ふふっ」
そう言ってアストは少し笑った……ような気がした。
まあでも、嬉しいのは確かなようだし、どっちでもいいか。
どうしてそんなに師匠呼びにこだわるのかはわからないけど。
そもそも、アストが師匠呼びしたがるようになったのは最近で、最初に教えるようになった時はそんなこと言っていなかったから、なおさら意味不明なんだけどな。
今度聞いてみるか。
そんなことを考えていると、会場から歓声、というか動揺の声が上がった。
何があったのか気になり、先に見やすい場所の席へと移動していたフォル君に声をかけに行く。
「ねえ、何があったの?っていうかそもそもこれ、何の試合?」
「おっ、いちゃつきタイムは終わった?この試合は今回のメインイベントである『水王』と『土王』の試合の前座として戦う相手を決めるためのものらしいよ。そしてこれが『水王』側の決勝だってさっき実況の人が言ってた」
そう、今回おれたちが観に来たのは互いに魔導士の頂点の称号を持っている人たちによるエキジビションマッチだ。
あと、忘れている人もいるかもしれないが、『水王』とは我らが担任、レイン先生だ。
おれたちはクラス別対抗戦の会場となる闘技場の下見兼、レイン先生の応援に来たというわけである。
いちゃつき云々はスルー。
「んー、つまりこの試合は前座の前座……?」
「そういうことになるね。で、さっきの歓声はあの魔法だよ」
そう言ってフォル君が指差す先には、異質な砂の塊があった。
「何だあれ……砂?っていうことは土魔法の何かか?」
前座の決勝戦は装備を見る限り、槍術士の少年と魔導士の少女の戦いのようだった。
どちらも小柄で体格的には子どもに見えるが、2人とも装いの違和感がすごい。
槍術士の方はその体格には不相応な大きな槍を所持しており、セオリー通り風属性付与を行っているが、本当にあの槍を使いこなせるのかは疑問だ。
構えは様になっているが。
一方で魔導士の方は装備こそ普通の魔法杖だが、上はパーカーのようなものをフード付きで着ており、下はミニスカートと、とても戦闘中とは思えないような恰好をしている。
そして、そんな少女の周囲には何らかの性質の魔力が込められた異質な砂が漂っており、不気味のことこの上無い。
「多分、そうなんだけどねぇ……問題はあの砂の塊が槍を受け止めてしまったってところなんだよね」
「うえっ!??まじで!!!」
フォル君の感心半分、呆れ半分の言葉におれは思わず驚きの声を上げてしまう。
それくらい、ありえないことなのだ。
フォル君があの異質な砂の塊のことを土魔法だと断言できないのも分かる。
相手の魔装攻撃(属性付与がなされた武器による攻撃)を属性魔法で防御するだけでも大概有り得ないことなのに、それを相性不利の中でやってのけるとか。
言うまでもなく、土属性魔法は風属性に弱いからな。
それで、あの槍術士は攻め手を失くしたかのように、魔導士との距離を取ったままなのか。
少しの間2人は遠距離での攻防をするこことなったが、先にその状況にしびれを切らしたのは魔導士の方だった。
「あれ?魔法解除しちゃった」
射程の問題か、はたまた魔力消費の問題か。
クラウさんの言う通り、異質な砂の塊を発現させる魔法は解除され、魔導士の足元にはただの砂が広がっていた。
これが前述の理由のどちらかであればまだ槍術士の勝ち目は残されている。
この状況が狙ったものなのであれば、あの槍術士はなかなかの曲者だ。そもそも、遠距離となった際の魔法のさばき方や槍の付与魔法の具合からしても強いのは間違いないのだが。それだけに、あの槍が近距離で土魔法に止められたというのは未だに信じられない。
しかし、本当に驚くべきはここからだった。
なんと、魔導士は主武器であるはずの杖まで捨てたのだ。
そして、着けていたフードを取り何やら魔力体製造機から出る光のようなものが身体から出ている。
発光が収まると、見えてきたのは額の角、1対の翼、長い爪、灰色のように変化した肌、その姿はまるで――
「魔族……」
ポツリと誰かが呟く声が聞こえる。
おれとしても、そうとしか思えなかった。
そして、勝負自体もそんな動揺が収まらぬうちに決まった。
突然、その元、魔導士の姿が消えたかと思うといきなり槍術士の背後に現れ、一瞬のうちにその長い爪で魔力体を切り刻んでしまったのだ。
「これ、前座で収まるのかな……?」
フォル君のそんな意見に激しく同意したいおれだった。




