第三十八話 ソラのパーティーメンバー
「ま、運が悪かったってことで」
「もう一回は!?」
「そもそもお前の勝利条件、ないだろ」
「そういえばそうだ。ずりぃぞ!!」
いや、そもそも勝負にするつもりはおれにはなかったし。
まあ、もしさっきの攻撃が外れていればこマーレさんの体力的に終わりにしてただろうけど。
それを教えてやる義理は無いが。
そんなことを言い合っていると、訓練室に誰かが入って来た。
「あ、やっぱりいた」
「げっ」
その声を聞いただけで誰が入って来たのかソラは分かったようだ。
小さくうめき声を上げるが、入って来たその子は素早くソラの後ろに移動し、両腕を自分の胸元に引き寄せ、身動きが取れないようにする。
年齢の割に発育が良い胸に当たっていて羨まs……いや、無心だ無心。マーレさんが冷たい視線をこっちに向けている気がする。
「捕まえた!」
「や、やめろ!もう逃げねえから!」
「もうだまされないヨ。そう言って逃げようとしていることは分かっているんだからネ」
「違う。単純に恥ずかしいから今は開放してくれよ」
ソラはそう言って振りほどこうともがくが、抱き着いている彼女も器用に体を動かし、離れられないでいる。
周りを見てみると、ソラが言う通り元々訓練室にいた数人の生徒にもその様子を見られ、注目を浴びていた。
あれは恥ずかしい。
そんな様子を見ているとさらに二人の人物が入って来た。
そのうちの一人はソラの方へ向かって行ったが、もう一人の方はおれの方へ来た。
「リック、今日は何をしていたのですか?珍しくマーレも一緒みたいですけど」
「ああ、マーレさんにも支援魔法を教えようかと思ってね。ほら、もうすぐ対抗戦があるだろ?その時のためにさ」
彼女の名前はアスト。
ソラのパーティーメンバーの一人でロールは魔導士である。
そして、今もソラに抱き着いているイストの双子の姉でもある。
「む……最近は私も教えてもらってないのに。ずるいです。ずるいと私は思います」
アストは拗ねたような口調でそう言う。
だが、表情一つ変えずにそんなことを言うもんだから少し笑ってしまった。妹ととは逆に無表情がデフォルトなんだよなあ。
「はは、悪かったよ。放課後は一緒にやろうか」
「……!よろしくです。私は楽しみにしていますよ」
「こちらこそ、ってね」
実は支援魔法を教えるのはマーレさんが初めてではないのだ。
もし初めてだったとしたらあんな気軽にマーレさんに向かって教えるだなんて言えなかったかもしれない。
おれとアストが知り合ったのはソラつながりが最初だった。
学園の授業が休みの日にソラが外に魔物を倒しに行こうと言い出したのだ。
子供だけで街の外に出るのはあまりよくはないのだが、4人以上のPTを組んだ状態ならば、王都近辺は強い魔物がいないということもあり、正式にも許可されている。
正式に、と言ったのは別に街が壁に囲われているというわけでもないので、黙って抜け出そうとすればいくらでも抜け出せるからだ。もちろん、各方面に見張りはいるので大人数でばれずに、となれば少し難しいのだが。
なんやかんやあってその時はマーレさんを除いた7人で魔物狩りに行ったのだが、その際におれの支援魔法を受けて戦うソラを見て自分も覚えたいと言い出したのだ。
正直言ってアストはマーレさん同様魔力を大雑把に操作するタイプであったので、才能があるとは言えなかったが、とにかく素直で熱心だったのですぐに上達してくれた。
それに、才能こそなかったものの、性格は支援魔法使いにとても向いていた。
とにかく相手のためになろうと考えて魔法を発動させるため、特に強化系の支援魔法は効果的に発動していた。それにアストの支援魔法はおれと違って対象者が自由に動けることを重視しているため、人によっては既におれよりもアストの方が良いと言う人もいるだろう。おれは自己主張するタイプの支援魔法使いだからな。
そんなことを考えているとアストと一緒に入って来たもう一人の彼女もこっちへとやって来た。
「久しぶりだなリック」
「はい、お久しぶりですアスリーナさん」
彼女はアスリーナ=メグレス。
同じクラスのキャルロットさんほどではないがそこそこ位の高い貴族らしい。
そしてソラPTの実質的リーダーでもある。
「リックはテスト、どうだったんだ?苦戦しそうであるとは聞いていたが」
「何とか退学ラインは回避しましたよ」
「それは良かった。この学園のテストは支援魔法使いには厳しいものになっているからな。少し心配だったのだ」
「まあ、妥当だとは思いますよ。どっちみち、この学園を退学するようなレベルなら30階層は越えられないでしょうし」
「ふふ、頼もしいな。ソラがライバルだと言うだけはある」
「そう言うアスリーナさんは……聞くまでもないですかね」
「それほどでもないがな」
謙遜するが、アスリーナさんの成績は間違いなく良いだろう。
座学はもちろんのこと、戦闘でもソラと同程度には強いからな。
アスリーナさんがPTにいてくれる限りは、ソラは退学にはならないと断言できる。
「なら、ソラの座学はもうあきらめていいんじゃないですか?」
おれが冗談めかしてそう言うと――
「そういうわけにもいかん。ソラには私の夫として貴族になってもらわなければならないからな。戦闘以外の知識も身に着けてもらわねばならん」
そう。
アスリーナさん……というよりはメグレス家はソラを婿入れさせようとしているらしいのだ。
理由は簡単。
ソラが勇者候補(仮)になっているからだ。
元々メグレス家は優秀な探索者を多数輩出することで成り上がって来た貴族らしく、未確定とはいえ戦闘に長けたものが多い勇者候補は囲っておきたいということなのだろう。
そこで、同い年かつダンジョン適性もあるアスリーナさんの夫に……ということらしい。
最も、今のところソラ本人は貴族になることを嫌がっているのだが。
「そういうわけで、すまんがソラはもらっていくぞ?」
「どうぞどうぞ。元々こうなると思っていたので」
「そうか。相手が必要ならいつでも呼んでくれ。アストも世話になっていることだしな」
「はは、ありがとうございます」
お礼は言っておくが、アスリーナさんを相手に誘うことは、しばらくはないだろうなと思う。
なぜなら、対抗戦で勝ち上がればソラのPTと当たる可能性が高いと思っているからだ。
今回はソラが無理やり入って来たので仕方がなかったが、できるだけ手の内は隠しておきたい。
「リック、また」
「うん、また放課後」
そんな感じでアストとも別れを済ませ、ソラは連れていかれた。
「マーレさんも、今回はここまでにする?」
「もしかして、まだあと何回かやる感じですか?」
「え?もちろんそのつもりだけど」
「あ、そうですか」
そう言ってマーレさんはなぜか遠い目をしていた。
そんなにおかしなことを言っただろうか?
●
※マーレ視点
その日の放課後。
私は再びリック君に支援魔法を教わることになっていた。
正直、面倒くさくて帰りたい気持ちでいっぱいなのだが、断るような勇気もない。
クラウとも少し気まずくなっている今、他にやりたいこともないんだしと自分に言い聞かせ、訓練室に行こうとしているとフォル君に声をかけられた。
「マーレ、ちょっといい?」
「え、はい。いいですけど……」
「あれ?何か予定あった?」
「リック君に支援魔法を教えてもらう約束があるくらいですけど……」
『そんなに乗り気ではないです』という後半の言葉は何とか飲み込んだ。
そんなことを話していると、リック君もこっちに来た。
「あれ、フォル君もマーレさんに用事があるの?」
「まあ、用事ってほどでもないけど話したいことはあるかな」
「なら、おれの方は全然後回しで良いよ。今日はアストもいるからどっちにしろ訓練室にいるし」
「ありがとう。気が向いたら僕も行くよ」
私の予定が勝手に決められてしまった。
別に良いんですけどね……むしろ訓練の予定が無くなってありがたいくらいですし。
そんなことを考えていると、リック君は足早に教室を去ってしまった。
「別にここで話しても良いんだけど……どうせなら食堂にでも行こうか」
「そうですね」
それにしても、話って何だろう?と考えてみるとすぐに心当たりが見つかった。
恐らく、クラウとのことだろう。
その証拠にクラウがちらちらとこちらを見ているし。
なら、そんなに深刻なことでもないかな。適当に謝って済ませようなんて考えながらフォル君に従って食堂へ向かった。
中途半端なので明日も投稿します。




