第三十五話 対人戦闘訓練①
メンバー選考の日から次の日。
選ばれたメンバー16人が訓練室に集まっていた。チャイムがなったところで特別授業が始まる。
「早速ですが、対人戦と対魔物戦の違いは何だと思いますか?」
いつも通り、先生の問いかけがあった。
「魔物と違って人間は連携して戦う、とか?」
「いや、魔物でも連携してくることはあるぞ」
クラウさんが答えたところで、ティック君がそう反論する。
「でも、魔物よりは人間の方が上手く連携できるんじゃない?」
こんな感じで軽く議論をする。
問いかけの後はしばらく自由に話しても良いことになっているのだ。
結果――
「魔物相手と違って人間相手だとこっちの言葉を理解される点ですかね」
フォル君が代表してそう答える。
連携面に関しては、テレパシーでつながって人間同士よりも余程高度な連携をしてくる魔物もいるし、魔物相手に有効な連携のほとんどは人間相手にも有効だということで却下された。
「そうですね、対魔物と違って対人戦ではこちらの狙いが読まれやすいですからね。魔物相手と違って相手の意表を突くことが難しいことは確かでしょう」
先生もその意見を肯定する。
「ですが、それと同時にもう一つ重要な違いがあります。それは、人間は相性の有利不利がある属性魔法を扱うことが多いということです」
あ!そうか。
そういえば、魔物は魔法を使うにしてもほとんどは魔属性と言う固有魔法なのであまり色々な種類の魔法を使っても意味がない。それよりは自分の適性魔法を存分に伸ばせば良いということだ。
だが、対人戦は違う。
相手が使うのが基本四属性魔法ならば絶対に相性のいい魔法が存在する。
つまり、相手によって使う属性の魔法を変える方が良いってことだ。
これは盲点だった。
対人戦するときは普通にやってたはずなんだけどなあ~。
「ですので、今からやってもらうことは苦手属性の練習と無詠唱魔法の練習です。無詠唱魔法の練習は相手に属性を知られないようにするという意図と共に、フォル君が言ってくれたように相手に作戦が読まれにくいようにという意図もあります。そんなに難しいことでもないですし、まずはやってみましょうか」
「あの~、それって魔法を使わないボクとかもやった方が良いんですかね?」
クラウさんが先生にそう尋ねる。
たしかに、魔法を使わない人には必要ない技術かもしれないな。
「ああ、属性魔法を使わない人はこれの練習をしてみてください」
そう言って先生が発動させた魔法は無属性魔法【障壁】であった。
探索者、冒険者拘わらず戦闘職の人間ほぼ全員が使える防御魔法だ。
この魔法の展開速度と強度で相手の強さが分かると言う人もいるくらい、基礎的かつ実践的な魔法である。
「できればこんなこともできるといいですね」
そう言って先生は【障壁】に火属性と水属性を同時に、二面に分けて付与した。それだけでもまあまあすごいことなのだが、それだけならおれでもできる。
本当にすごいのはその均質さだ。
先生が発動させた【障壁】は本当にきれいで、どの部分にも穴がないことが感覚的に分かる。
「分かりました。やってみます!」
クラウさんは元気よくそう返事をした。
そして少し離れたところで【障壁】を発動させ、風属性の付与を試みていた。まずは自分の得意な属性から、といったところなのだろう。物理攻撃なんかは分かりやすいが、それを防ぐときに属性なんて関係ないからな。初めてやることは得意そうなものからやるのは当然だろう。
ちなみにだが、おれ自身はあまり無属性魔法の【障壁】を戦闘では使わない。
おれは始めから対魔物戦よりも対人戦の訓練が多かったことから基本四属性の防御魔法を使う機会が多かった。だから無属性魔法の【障壁】を発動させてから属性の付与を行うという簡単で確実ではあるが手間がかかる手段を選ばず、より実践的な、直接基本四属性の防御魔法を発動させるという手段を選んだ。魔力操作は元々得意だったからな。いや、それだけじゃないな。ただの対人戦ではなく、子供のころから攻撃魔法がばんばん使えるソラとシエルが相手であったことが大きいと思う。
あの二人を相手取ろうとすると無属性魔法の【障壁】だけじゃ絶対に防げないからな。
そもそも、普通は子供同士の戦いで攻撃魔法なんか使わせちゃいけない。おれの家族場合は母さんと言う高レベルな回復魔法使いがいたこと、危ないかどうかの判断ができる父さんが基本的に一緒にいたからこそ魔法戦なんてことができたのだ。それでも、魔法ありの模擬戦が許可されたのはおれとソラとシエルの三人だけだが。
あっ、シエルは途中で禁止されたから厳密にはおれとソラの二人だけか。
そう考えるとおれは周りの人に恵まれていると改めて実感する。
一般家庭だと攻撃魔法、防御魔法の練習自体できなかっただろうからな。
そんなわけでおれはさほど時間がかからずに無詠唱魔法ができるようになった。
おれのPTメンバーの中で無詠唱魔法に意外にも苦戦していたのはフォル君だった。
「やっぱりちょっと違和感あるんだよね。無詠唱に慣れるのはもうちょっと時間かかるかも」
「フォル君の場合、発動とほぼ同時くらいに言ってるんだし、無理に変えることないんじゃない?」
とおれは言ってみたのだが……
「う~ん。僕の場合、練習してみて分かったんだけど技名を言うことで魔法のイメージを固めてるっぽいんだよね。だから一つの魔法を使う時ならいいけど、二重魔法とか三重魔法をを使う時はこっちのやり方の方が断然良さそうなんだ。PT戦だとこれから二重魔法や三重魔法を使うことも増えるだろうしね」
とのことだ。
つまり、今までは連携の確認の意味も込めて技名を言っていると思っていたが、続けているうちにルーティーンになってしまっていたと。
よく自己分析ができているなあ、と思うと同時に言われたこと以上のことをやろうとするその向上心に感心していた。おれも見習わなければ。
そんなわけで、フォル君はしばらく無詠唱魔法の練習をするとのこと。
一方で苦手属性の練習だが……これもおれは比較的すぐにできるようになった。
理由は先ほどと同じようにソラとシエルとの模擬戦で(以下略)。
これに苦戦していたのがクラウさんとマーレさんだ。
クラウさんはこれまで風属性くらいしか使う機会がほとんどなく、マーレさんはこの学園に来たときは初級魔法すら満足に扱えない状態だったので、適性のある水属性魔法、攻撃力のある火属性魔法くらいしか使ってこなかったのだ。
まあ、魔導士希望のマーレさんはともかく軽戦士希望のクラウさんなんかはそれが当然ともいえるので、苦戦しているというと語弊があるのかもしれないが。もともと全属性の魔法を実戦的に使えるのは、このクラス内ではおれとレナード君、フォル君、あとなぜかシャド君くらいだし。あのお嬢様だって実際に使っているのはほとんど火属性魔法と風属性魔法だけだし。
そんな感じでPT内ではおれだけが『うっわ、やることなくね?』状態なのであった。
他のクラスメイトを見てみると、早くも暇を持て余したレナード君がシャド君と模擬戦をしようとしているところだった。それ以外のクラスメイトは皆、自分の訓練に集中している感じだ。
少し手持ち無沙汰になりつつ、何をやろうかなと考えていると誰かに声を掛けられた。
「あの……少し付き合ってもらってもいいですか?」
声を掛けてきたのは意外にもマーレさんであった。




