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支援魔法使いの逆転!ダンジョン攻略記  作者: ウィロ
第四章 『クラス別対抗戦』編
40/50

閑話 バレンタインデー

二日遅れのバレンタインに関する閑話です。

※注 時系列がかなり飛んでます。大体本編の二年半後くらいの話です。一応パラレルワールド的なものではなく、実際に本編にもあった話として扱うつもりです。

「私のチョコを受け取ってくれますか?」


 まさか異世界に来てこのセリフを聞くことになるとは思わなかった。

 このセリフからも分かる通り、今日は2月14日、バレンタインデーである。


 もちろん前世の世界(というか日本だけだっけ?)と同じように2月14日に女性が男性にチョコを渡す文化が偶々あった、というわけではない。

 この世界にはクリスマスやハロウィンもないからな。

 暦は前世とほぼ同じという関係上、年初めに里帰りするという文化はあるので、正月らしきものはあるのだが、そこでおせちを食べるという文化もない。


 それはともかく、ではなぜバレンタインの日にチョコを渡してくる女子がこの世界にいるのか。

 それは当然、おれが以前バレンタインについて話したことがあるからである。

 そして、おれが前世について詳しく話したことがある人間なんて一人しかいない。

 つまり、チョコを渡そうとしてきたのはシエルだったのだ。


 シエルはポケットから小さな袋を取り出し、おれに渡そうとしてくる。

 その中身はもちろん手作りだろう。

 そもそもこの世界でチョコを作ることができるのは今のところおれとシエルの二人だけだろうからな。いや、味を似せているだけなので厳密にはチョコではないのだが。

 製作方法はもちろん魔法によるものだ。

 いや、だってチョコの作り方なんて一般の高校生だったおれが知るわけないじゃん……原料がカカオだってことくらいしか知らないよ。この世界にカカオがあるのかすら知らんけどさ。


 魔法で作ったと言ってもそんなに簡単なものでもなかった。

 ほら、授業で魔法による味付けが可能だって話があっただろ?

 それの応用で作ったわけなのだが……まずそれ自体が難しい。ロハスさんに魔力に感覚を付与する感覚を教えてもらっていなかったらそれ自体出来なかっただろう。次に付与したい味を何らかの物質に加える。これも難しかった。付与する味に対してほんの少しでも魔力量を間違えると、元はなんにでもなる魔力なだけあって全く違う味になってしまう。しかも正解の量がわかっていればまだいいのだが、特にチョコの甘味は味わったことがある人自体が少なく、最初はどのくらいの量を注入すればよいのか見当もつかなかった。おれはこの練習を失敗してもいいように水に対して行い、最初はジュースを作ろうとしていたのだが、まぐれで上手くいったものをPTメンバーに振舞ったところ、予想以上に気に入ってもらえたので、試行錯誤の末、何とか望む味を出せるようになったのだ。


 そしてこれでまだ終わりではない。

 この方法だとチョコ味のジュースは作れてもチョコは作れない。

 しかし、市場に売っている物ではチョコのような口触りの良い物は見つからなかった。

 そこで協力してくれたのがレイン先生だ。


 レイン先生はおれが作ったジュースもどきを特に気に入ってくれて、お菓子作りにも積極的に協力してくれた。

 この世界にはまだ砂糖のようなものがそれほど広まっていないのか甘味のある食べ物が少ない。果物はあるにはあるのだが、前世の果物ほど糖度が高くないのか、美味しくないというわけではないのだが、甘みはあまり感じられなかった

 そんなわけでこの甘みの虜になってしまった人はおれを頼る他ないということだった。


 そして先生の奥義である『生成クリエイト』を惜しみもなく使いながら、おれの中のイメージを何とか伝えていった中でやっと完成したのがこの正真正銘の魔法のチョコというわけだ。

 製作期間はジュースを作ろうとした時も含めると計一年以上。

 完成した時は感慨深いものがあったね。


 ちなみに先生は一人ではチョコは作れない。

 まあ、先生は元々魔力への感覚付与自体できなかったらしいから仕方ない。熱意はあるのでそのうちできるようになるかもしれないが。

 一方でおれは、失敗は多いが何度かやると成功する、といった感じだ。成功したとしても先生と協力した時ほどは上手く作れないが。

 味付けだけならともかく、『生成』もどきまで使うとなると魔力消費量がなかなかすごいことになるので、そう何個も作ることができないというデメリットもある。


 ……と、ここまで見ればいくらある程度自由が利く魔法でもチョコを作るのが難しいかが分かると思う。

 だが、これらを一瞬でものにしてしまったやつがいる。

 もう先に答えは言ってしまっているが、それはシエルだ。

 先生もそれを直で見た時は開いた口が塞がらないといった感じだった。

 相手の魔法を何でも瞬時に自分のものにしてしまうとかまるで将棋みたいだなと思ったものだ。


 だから、シエルが手作りチョコを持ってくること自体は何らおかしなことはない。

 だが……これを受け取ってしまってもいいのか?

 おそらくシエルは()()()()()()でこのチョコを渡そうとしている。

 義理チョコならみんなの前で渡せばいいだけなのでこんなわざわざ人気のない校舎裏まで呼び出す必要はない。そもそもそういう義理チョコ系の文化は話したことがないはずだしな。


 少しだけ悩んだ後、おれは努めて明るい調子でこう言った。


「もちろん受け取るよ。いやあ、いもチョコをもらうのって夢だったんだよね」

「いも……チョコ?」

「あれ?話したことなかったっけ?前世の文化に日頃の感謝?か何かを込めてバレンタインの日に妹が兄にチョコを渡す文化があるって話を。今渡してくれたのはそれなんだろ?」


 そう言うと、シエルは驚いたような顔をしてしばらくの間固まっていた。


 もちろん、前世にもそんな文化はなかったはずだ。

 だが、あるラノベの中でそんな名目で兄にチョコを渡すという話を読んだことがあった。それを読んで羨ましいと思ったことは事実だ。

 嘘に信ぴょう性を持たせるにはホントのことを混ぜればいいという話を聞いたことがあるけれど、こんな感じだろうか?

 単なる思い込みによるものな気がするけど。


「ありがとう、シエル。夢が一つ叶ったよ。ホワイトデーは期待しててね。あ、ホワイトデーっていうのは……」


 そんな感じでシエルの返答を待たずに話し続ける。

 心の中の葛藤を見抜かれないように。

 自分の中で考えることを拒否するかのように。


 しばらく話し続けているとやがてシエルは緊張感が抜けた、諦めたような表情に変わった。


「もういいですよ、兄さん」


 その表情を見ておれは何も言えなくなる。

 自分は答えを間違ったかもしれないという思いに捉われる。


「ホワイトデー、楽しみにしてますね」


 シエルはそうとだけ言って立ち去って行った。

 その時の表情をおれは確認することができなかった。



 ごめんな、シエル。

 今のおれじゃあその想いに応えることも拒絶することもできないんだ。


 そんなことを考えていると自然と涙があふれてきた。

 ここでおれが泣くなんてのはお門違い。

 そうと分かってはいてもそれを止めることはできそうになかった。



 せめて。

 せめて勢いで話してしまったホワイトデーの三倍返しの話くらいは本当にしてやろう。

 心が弱いおれはそんな決意を固めるくらいしかできないのであった。


バレンタインということで久しぶりにシエルの話を書こうと思ったので書きました。

最初はバレンタインの話らしく甘々な話を書こうとしたのですが、上手くまとまらず、結局こういう話になりました。

こんな感じで急遽予定を変更することも多く、伏線を上手く回収できないことも多い本作品ですが読み続けていただいたら幸いです。

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