第三十四話 負けられない理由
「あ、二年後と言えば面白い話を生徒から聞きましたよ」
「うん?二年後に何かあったか?」
「いえ、何かあるって程でもないんですけどね。うちの生徒の妹が入って来るかもしれないってだけの話で」
「はあ?そんなのただの身内贔屓なだけの話じゃねえのか?」
「ま、普通はそう思いますよねえ……」
私も実際に見たわけではないので完全に信じている話ではありませんが。
「その妹、シエルって名前らしいんですけどね、生まれつき目が見えないらしいんですよ」
「ああ、そりゃ可哀想に」
「そう、可哀想な子のはずなんですよ。でも、今では普通に日常生活を送れているらしいんですよね」
「そりゃ一体どういうことだ?ずっと家の中で生活しているか……よほど優秀な補助魔法使いが身近にいるとかか?いや、それでも普通の人と同じように生活ってのは無理な気がするが」
「実際、彼女の母親は支援魔法使いとして探索者をやっていたくらいには優秀な魔法使いらしいですけどね。でも、その母親は関係ないって言うんですよ」
「じゃあ、どうやって?」
「斥候の人が使う魔力感知ってあるじゃないですか?あれの応用で周囲を把握しているらしいですよ?」
「いや、それは無理だろ。一瞬の把握だけなら超一流の魔力制御力があればできるかもしれねえが、日常生活を問題なく送るレベルとなると消費魔力量がとんでもないことになる。お前でも半日も保たないじゃないか?」
「そうですね。私でも常時発動となると二、三時間くらいで魔力切れの症状が出始めると思います」
ちなみに、私の魔力量はこの国でもトップクラスです。
ですので、まあリックの話がいかに荒唐無稽な話かが分かるというものです。
「それに、一度見た……というか知覚した魔法は完全に再現できるようになるらしいですよ?」
「はは……そんな奴が本当にいたら天才なんてかわいいもんじゃねえな」
「やっぱり妹フィルターってやつですかね?ありえないレベルの話が多すぎですし」
「それもあるんだろうが……お前が面白い話って言うくらいだからそいつは普段そんな大ぼら吹くような奴じゃないってことだろ?」
「そうですね。前世持ちみたいですし、どの程度の話なら信じてもらえるのか分かっているはずなんですけどね」
「それなら、たしかに知っておいて損はねえ話だな。もし本当にアストロ学園に来るなら見てみたいもんだ」
リックの話が全てとは言わずとも、半分くらい本当ならばダンジョン適性B以上はあるでしょうからね。戦闘好きではないそうなので勇者候補である可能性は低いと言ってはいましたが。
それに、アストロ学園に入学することはなくともリック以上の魔力制御力というだけで会ってみたい人物ではあります。
アストロ学園への入学は叶わずとも、魔法学園の方に来て欲しい人物ではありますね。私も魔法学園出身ですし。
今度そう言った話をリックにしてみましょうか。王都内はともかく、辺境の街では魔法学園のことを知らない人も多いですからね。
「天才と言やあ……サンディーはどうなんだ?」
「サンディーですか……表面上はおとなしくしてくれていますよ」
サンディーは人間族と魔人族のハーフで、私の担当するクラスではありませんが、同じ学園の生徒です。
戦闘に関する才能はずば抜けており、座学は得意ではないので総合的な成績ではレナード王子よりも下ですが、戦闘面だけで見ると王子よりも強いと思われます。
一度直接戦って勝っていますしね。
「でも、固有に目覚めてからは少し自信過剰……いえ、圧倒的な強さを持っているのであれで分相応なのかもしれませんが、それでも思い上がっていると思いますね」
「固有か……何の固有に目覚めたんだ?」
「瞬間移動ですね。目視できる範囲に限られるみたいですが」
「はは、そりゃまた当たりを引いたもんだ」
固有とは魔人族がまれに使うことができるようになるオリジナル魔法のことです。
分類としては魔属性魔法に入りますね。
「それで以前にも増して敵なしになってしまって……もう学園生の中では個人戦闘力では最強かもしれませんね」
「まあ、元々の戦闘力に加えてそんな固有持っちまったらそうなるわなあ……ってことは何だ?もう行くことを許可するのか?」
「そんなわけないじゃないですか!本当は行かせたくないくらいですけど……せめて学園を卒業するまでは行かせるつもりはありませんよ!」
「過保護だなあ、もう戦闘力だけなら問題ないレベルだろうに」
カンティルさんは呆れたようにそうつぶやく。
ですが、私もこればかりは譲れません。
何せ、サンディーが行こうとしている土地は魔界。魔界とは魔人族が住む土地のことです。そこは魔物のレベルが高く、そのエンカウント率も王国領とは比べ物になりません。子供が一人で旅できるような場所じゃないんですよ。
「でも、条件を付けられてしまいました。今度の対抗戦に一人で出場するからそれで優勝できたら行かせてくれって。おかげで絶対に負けられない大会になってしまいましたよ」
「それはなかなか面白い話になってんなあ。俺も見に行ってやろうか」
「これは全然面白い話ではないんですけどね。でも、見に来たらたしかに面白い戦いが見れるかもしれませんよ」
「そりゃどんな……いや、今聞くのはもったいないかもな。当日の楽しみに取っておくことにするわ」
「きっと驚きますよ。まだまだ未完成な部分もあるので、勝ち上がるかは微妙なところですが」
そう、勝算はある。
一対一ならともかく、四対一のPT戦ならば王子だけじゃなく、その他の三PTでも十分に戦えると私は考えています。さすがに一対一になってしまうと王子以外は厳しいでしょうが。
今回の私のメンバー選考は個人戦闘力の強さではなく、PTの連携力を重視した理由がこれです。以前、一度対抗戦の試合を見たことがありますが、その時は四対四のPT戦と言ってもこの時期はPT戦の練習自体ほとんどしていないので、実質四人がそれぞれバラバラに戦っているだけでしたからね。
だからこそ、早めにメンバー選考をして、訓練の時間を作りました。そのせいで放課後にも少し授業でやるべき内容をやるということをしていたのですが……良い方向に成果が出ることを願いましょう。後悔はしていません!
「それにしても、お前って妙に子供に好かれるよな?第三王子にもかなり懐かれてたし、サンディーだってわざわざお前に許可なんか貰わず勝手に行きゃあ良いのにって思うんだがな」
「……どうなんでしょうね。私としては特別なことはしていないと思うのですが」
たしかにそれはそうですね。
サンディーはわざわざ私の許可を得るためだけにこの学園に入学したのでしょうか?
勇者候補でもないハーフ族がダンジョン攻略をすることはほぼ不可能なことはわかっているはず。
なのにどうして……。
「おいおい、あまり思い詰め過ぎるなよ。ただ単にお前のこと慕ってるだけかもしれねえんだからな」
「それはそうなんですが……」
なんとも言えない引っかかりを覚えます。
これが悪いものでなければいいのですが。
その後、お前は明日も仕事だろと言われ、別れることになりました。
私としてはまだ飲み足りなかったのですが、カンティルさんの言うことも尤もですからね。
最後に相談に乗ってくれたお礼を言われたのですが、最初は何のことか分からず返事が遅れてしまいました。それほど楽しかったということでしょう。
決して酔っ払っていたわけではありませんからね!?




