第三十話 王国の歴史
前半のグループ全員が走り終えるころにはみんなこの授業のヤバさを理解し始めていた。
何せ、前半のグループで走り終わった者の中で今でも立っていられるのがおれとレナード君の二人位だったからだ。
後半のグループに入った人たちはそんなおれたちを見て戦々恐々としている。
ちなみに、順位はレナード君が一位でおれが二位。クラウさんが五位だった。
「あっ、みなさん、まだシールリングを外してはいけませんよ。少なくともこの授業の間はつけておいてください」
ま、まじか。
じゃあ、少なくともこの授業中はこの痛みから解放されないのか。
今走った前半グループで恐らく二番目に疲労度が低いであろうおれでさえそんな調子なのだ。
他の者を見ると皆一様に絶望に彩られたような表情をしていた。
「本当はこの訓練をしている間は一日中付けておいて欲しいくらいなんですけどね。まだ初日なのでそれは勘弁してあげます」
先生が何かをつぶやいた気がするが、疲労もあり、よく聞き取れなかった。
すると、後半のグループで走る予定のフォル君が準備運動をしながら話しかけてきた。
「お疲れ様。いや~、なかなか大変そうだったね」
自分も今からその大変さを味わうことになることが分かっているにも関わらず、フォル君は笑顔でそう言う。
「本当にしんどかったよ。まさか十週走っただけでこんなに疲れるとは思わなかった」
大体一周400メートルくらいだった気がするから、四キロくらい走ったことになるのか?
前世の感覚だと四キロは長いが、この世界で身体強化しながら四キロ走ることは子供でもそう難しいことじゃない。特にこの学園に通うことになるような魔力量が多い者ならばなおさらだ。
「僕もこんなことは初めてするから疲れそうだなあ。ペース的にはリック君くらいがちょうど良さそうだったから参考にさせてもらうよ」
「まあ、頑張ってくれ」
半ば投げやり気味にそう答える。
そして、休憩をしながら後半のグループの人たちが走り出しているのを見る。
やっぱ最初に飛ばし過ぎてるんだよなー。
おれもそうだったから人のこと言えないけど。
慣れ親しんだ感覚というのは早々に消えてはくれない。
どうしても、魔力による恩恵の分を過小評価して体力配分してしまう。
前世で魔力がない状態を経験しているおれですら、そうだったのだ。
他の人がそう簡単に慣れるはずがない。
案の定、三週目時点からバテる者が出始め、半分を過ぎるころにはほとんどの人がまともに走れなくなっていた。
そんな中、なんとかペースを保っていたフォル君はおれより少し遅いくらいのタイムでゴールした。
そして、何とか全員がゴールした後、先生はこう言った。
「今回の授業はここまでです。お疲れさまでした。これからしばらくの間、この授業ではこの魔道具を使うことになるので、早くこの状態になれるようになってくださいね」
そんなこんなでこの世界での初めての授業は終わった。
しんどかったです。まる。
●
『武道学』の授業の次は『教養学』の授業の時間だった。
教養学の授業は教室に戻っての座学であったのだが、先ほどの授業の疲れが色濃く残っていた。
正確に言うと、眠い。
あれだ、体育の授業の後は特に眠くなるやつ。
しかも、先ほどの授業が終わった後、シールリングを外したのだが、それからせき止められていた魔力が全身を巡るのが分かり、何とも言えない気持ちよさがあった。
近い感覚で言うと、プールで泳ぎまくった後みたいだった。
そんな感じで激しい睡魔に襲われながらおれたちは授業を受けていた。
ちくしょう、何でこの学園は授業の空きが多いのに、ここは連続であるんだよ!
おかしいだろ!
先生達はおれたちに授業を聞いてほしくないのか!などと心の中で悪態をつきながら授業を受ける。
授業の内容は自分たちの国、メイオール王国の歴史に関することであった。
今はその建国の成り立ちについて説明している。
遥か昔……といっても約200年前の話らしいが。
この国は建国された。
元々この土地は今も隣国として存在するアマルテア帝国の土地だったらしい。この国より東に存在するヒマリア諸国との貿易拠点として港町は多少発展していたようだが、その町以外は辺境の地という扱いで、ほとんど人も住んでいなかったらしい。
そんな土地でなぜ国が興ったかというと、言うまでもなくダンジョンが出現したからだ。
このことを理解するにはまず、この世界におけるダンジョンがどういった存在なのかを理解する必要があると思う。
この世界には4つのダンジョンが存在すると言われている。
『人間ダンジョン』『魔族ダンジョン』『エルフダンジョン』『ドワーフダンジョン』の4つだ。
種族名が入っていることから分かるように、それぞれの種族が自分たちの領地にダンジョンを所有している、というのが今の状況だ。
つまり、他種族からダンジョンの所有権を奪わない限り、所有できるダンジョンは一つだけ。
そして、ダンジョンは資源の宝庫でもある。
ダンジョンから採れるのは何も魔石だけではない。
いや、魔石を安定的に採れ、かつ比較的安全というだけでも十分なアドバンテージなのだが、ダンジョンはそれだけではない。
ダンジョンで一攫千金を狙う物は大体未知の魔道具を狙う。
前世のRPGゲームよろしくこの世界のダンジョンでは魔物を倒すと稀に宝箱が出現する。その中にはポーションや魔道具など多種多様な物が入っているというわけだ。
これまでに出てきた物で言うとステカメやおれのシューズ、魔力体製造機などがそれにあたる。
そして、それらの品はポーションなど特殊な事例を除いてダンジョン内でしか採れない。
だから、ダンジョンの場所が移るというだけで、国のパワーバランスが崩れてしまうということも起きうるわけだ。
今回起こったのがまさにそれ。
元々ダンジョンはアマルテア帝国の帝都セイファートにあった。
しかし、何らかの理由でそこにあったダンジョンが消滅し、現在のメイオール王国の王都に出現。
ダンジョンの出現に気付けなかった帝国内では内乱が勃発。
帝国内は荒れに荒れた。
それを止めたのが初代メイオール王だったらしい。
初代メイオール王は元々このあたりの地域の支配を任された中級貴族だった。
そんな彼は一足遅れて、ダンジョンの出現を察知。
まずはその確認のため、ダンジョン攻略者の一人であり、この国のナンバー2にもなったミザールという名の者を招いた。
そして、ミザールはその場所がダンジョンとなっていることを確認し、帝へと謁見するために帝都へ戻った。
そこでミザールは今後100年ダンジョンから得た資源の半分を渡すことを条件にメイオール領を対等な独立国家であることを認めさせた。
この国では慈悲深き初代メイオール王が、ダンジョンが突然消滅したアマルテア帝国を憐れみ、その収入の半分を渡すことを誓ったとされているが、まあ実際のところ交換条件だったのだろう。
実際、そのころは人口も土地も帝国の方が大分上だったみたいだしな。
帝国の方もダンジョンからの魔石や魔道具が手に入らなくなったとあって、貴族だけでなく、農民や教会などからも反乱が起こっていたようだし、屈辱でもこの申し出を断れなかったのだろう。
……と、おれの想像の話はどうでもいいんだ。
おれの感想としては、エルフやドワーフ、魔族の国?集落?にも行ってみたいな~ってくらいだ。人間ダンジョンを完全攻略できたら冒険者となってそっちを目指してみるのも良いかもしれない。
実際、知性があまりなく、とても遠いと言われている魔族が住んでいる場所はともかく、エルフやドワーフが住んでいる場所へ冒険者として向かう者は多い。
その多くが行方不明になることが多いとはいえ、そこで手に入った物の多くが高値で売れることも含めて夢のある場所と言えるのだろうなあ。
そんな感じで本来の趣旨とは大分離れたことを考えていると、いつの間にか『教養学』の授業は終わった。
後半の内容をあまり覚えていないけど寝てたわけじゃないんだ。周りの人もやたら目をこすっている人が多いけど気のせいなんだ。
「何の話をされてたんだ?」「さあ?」みたいな会話も聞こえるが気のせいなんだ。
それを聞いて安心なんかしてないんだからね!
……何キャラだコレ?




