第二十九話 身体強化の重要性
さてさて、何はともあれ、今日から学園の授業が始まる。
前世では授業なんてだるいから早く終われなんて思っていたおれではあるが。
今は楽しみになっている。
もちろん、これは初めての授業というのもあるだろうけど。
学園の授業は大きく分けて四種類ある。
『魔法学』『武道学』『教養学』『ダンジョン学』の四つだ。中でもダンジョン学に最も多くの時間が割かれていて、ダンジョン特有の道具の使い方や、ダンジョン内での過ごし方について学ぶ……らしい。父さんからそう聞いた。ちなみに、ダンジョン特有の道具というのはエスケープストーンなどのことだ。要するに、ダンジョン学というのは前世で言うところのサバイバル学みたいなものだろうと勝手に想像している。
また、『魔法学』と『武道学』は2年生になると、どちらに比重を置くか決めるらしい。前世で言う文系と理系みたいなものだな。おれは恐らく『魔法学』の方になるだろうが。
それに、自習、というか授業の無い自由な時間が割と多いことも特徴だ。その時間はそれこそ遊んでいてもいいし、他のクラスの授業、果ては別学年の授業に参加しても良いということになっている。一部、一定の成績以上を収めないと受けることのできない授業もあるようだが、知識を秘密にするためというよりも、どちらかというと付いてこれない者をなくすようにという処置のようだ。
そして、成績ももちろん付けられる。これまたファンタジーあるあるで成績下位者は退学となる。毎年一~二割の生徒が退学させられて卒業できるのは大体半数と言ったところだ。といっても、一人で四種類の成績を満遍なくとる必要はなく、PT単位での成績によって退学を免れる制度もある。だからこそ、優秀な人物は仮PTによほど性格に難がない限りは引っ張りだこというわけだ。相対的に器用貧乏な者は不利ということになるが。
まあ、成績の話は今考えても仕方ない。
大事なのは今、目の前の授業だ!
まずは『武道学』からだ。
●
武道学の授業はグラウンドでするようだ。
授業が始まってすぐに移動することになった。
こういう事は聞くより体で覚えろということだろう。
グラウンドにクラスメイト全員が集まったところで先生が質問を投げかけてくる。
「最初に、皆さんに質問です。武道において一番大切なことは何だと思いますか?」
あー、これは知ってる。
「はい、身体強化です!」
クラウさんが元気よくそう答える。
この世界では身体強化の練度がとても重要視されている。
これは戦闘に限らない分野でもそうだ。
なんせ、この世界の人間はその量に差こそあるものの、全員が魔力を持っているんだからな。
だから、武道において一番大切なこと、といえば間違いなく身体強化なのだ。技術や精神論は二の次。極論、というまでもなく、身体強化の下手な剣の達人など弱いというのがこの世界の常識だ。例外は魔法の達人だけ。
「そうですね。では、身体強化に必要な要素は何かわかりますか?」
身体強化に必要な要素?
そりゃあ、魔力操作能力と魔力量……か?
「えっと……魔力制御力と魔力量……ですかね」
おれが思っていたことと同じようなことを誰かが答えた。
ただ、今回は自信なさげといった感じだった。
「正解です。確かに魔力制御力と魔力量は身体強化をする上でとても大切です。でも、もう一つ重要な要素があります。それは自身の素の身体能力です」
あー、なるほど。
たしかにいくら身体能力が魔力によって強化されてもその元となる身体が弱いと意味がないってことか。
と、おれはすぐに納得したわけだが。
意外にも納得できていないという人が多いという印象だった。
「納得できていない人も多いみたいですね。では、実際に体感してもらいましょう」
そう言って先生は何やら用意してきたであろう道具を取り出す。
「これはシールリングと言う魔道具です。この魔道具を装着すると魔力操作ができなくなり、当然身体強化もできなくなります。皆さんにはこの魔道具を使って自身の素の身体能力を実感してもらいます」
「それって犯罪者とかに使うやつじゃないですか?僕たちが使っても大丈夫なんですか?」
「短時間なら問題ありませんよ。一ヶ月間ずっと付けていたすると魔力を使えなくなったりもしますが、一時間程度ならまず問題ありません」
「……分かりました」
その魔道具を付けることに抵抗がある生徒もいるようだったが、しぶしぶ了承した。
まあ、この魔道具は犯罪者に使う物ってイメージがあるからな。
配られたシールリングをおれも手首、足首の四か所に装着すると、早速その効果を感じた。
身体が重い!
「先生、これ本当に大丈夫なんですか?体がめっちゃ重く感じるんですけど」
「大丈夫ですよ。それはあなたたちが普段無意識に行っている身体強化ができなくなっているというだけですから」
なるほど、そういうことだったのか。
幼いころはおれだけ魔力による身体強化ができなくて、心配されたこともあったのだが。
今では無意識に使ってしまうほど体に馴染んでいたようだ。
「では、まずはその状態になれるよう準備運動をしてください。その後皆さんには全員で競争してもらいます」
そう言って先生は締めくくった。
フォル君たちと軽く準備運動をした後、早速走ることになった。
さすがに四十人が一度には走れないため、二回に分けて走るようだ。
先に走るグループには知り合いでは他に王子のレナード君や、クラウさん、シャド君がいた。
スタートラインに立って開始の合図を待っていると、クラウさんが声をかけてきた。
「リッキーも先に走るんだ。せっかくだから勝負しない?」
「いいよ。負けたらジュースおごりね」
「わかった!」
その時は男女でこんな勝負をすることになるなんて前世ではなかったなぁ、なんてのんきなことを考えていた。
その約十数分後に見るも悲惨な光景が広がっているとは知らずに。




