第二十八話 激動の初日(午後)
13時の鐘の音が鳴ったのでおれは席に戻ったが、どこか釈然としない気持ちだった。
とっつきにくい人かと思えば、意外と面白い人という印象となり、最後は急に気に入られて訳の分からない人といった印象になった。
こんな短期間で印象が二転三転することがあるのかといった感じだ。これまで性格が分かりやすい人が多かっただけに。
その後もおれたちのクラスの担任が幼女であったり、その先生が『水王』であったり、いきなり能力測定を行うとか言い出して、クラスメイト全員が先生にペタペタ触られたりなどなど数え切れないほど色々あったが、なんとか学園初日の予定は終わった。
改めて考えると、午後は先生に振り回されっぱなしだったな……。
いや、おれ自身は嬉しかったんだけどね?
幼女の先生とかいかにも異世界ファンタジーっぽくておれ好みだったんだからさ。
でもさ、反応に困るんだよね。ほとんどの人は見た目幼女の人が先生だと言われても困惑してたし。
事前に知ってたっぽい第三王子のレナード君は「先生には触れてはならない秘密があるのだ。詮索してくれるな!」とか「あなた様の実力を知ってもらうためにこのわたくしめと模擬戦をいたしましょう」とかキャラ崩壊レベルの発言を始めてさらにみんなの混乱を招くし……。
まあ、その秘密についてはもう察しがついてるんだけどね。
多分、彼女は小人族かそのハーフなんだろう。年齢も22歳だって言ってたし。22歳であの体系は普通の人間としてはありえないよなあ……。ドワーフは長寿で火魔法と水魔法が人間よりもはるかに得意だと聞くし。何でドワーフの特徴が強く現れた彼女が人間領にいるのかは分からないけれど。
でも、どっちかというと王子と先生の関係の方が気になるよなあ。
考えられるとすると、魔法の師匠みたいな感じだろうか。この世界に師弟制度はなかったと思うけれど。イメージとしてはそんな感じの気がする。結局、模擬戦もしなかったし、先生がどんな戦い方をするのかすら知らないけれど。
だが、そんな風に察しをつけることができた人すらほとんどおらず、さらに先生自体も初めての担任で、ドワーフ?であることも説明しなかったので、収拾を付けられないでいた。ドワーフ自体それほど認知されていないし、おれだって異世界ファンタジーということで他種族について詳しく本で調べていなければ知らなかっただろうからそれもしょうがないと思うけど。
それでも、なんとか予定通りに事を進めることができたのはキャルとジャックのおかげだった。そう、あの『お嬢様』と『盾男』である。あの二人が中心になって王子をなだめながら先生の言う通りにやってみようという流れを作ってくれたからまだ初日から学級崩壊という状態にはならずに済んだ。
っていうか先生も初日から能力テストやろうとするなよ……。明らかに空気悪かっただろ。しかも内容超奇抜だったし。後でソラにも聞いたけど、ソラのクラスは普通に魔力計測器で魔力量測ったり、身体強化のレベルを見たり、希望ロールごとに分かれて軽く技を見せ合ったりしたくらいだって言ってたぞ……。
そんなこんなで時間も夜になり、寮の部屋に初めて4人そろったので、すんなり決まる予定だった部屋割りで少しもめた。おれとフォル君が夕食から部屋に戻ると、既に部屋にいたレナード君はこんなことを言い出した。
「リックよ、お前はオレ様と同部屋でもいいぞ。なに、王子だからといって遠慮するな。さっさと荷物を移してこっちお部屋に来い。そして、お前の故郷の街での話を聞かせろ」
もうあの教室での出来事のおかげ(せい?)で遠慮などほとんどなかったのだが、フォル君とすでに仲良くなったこともあり、断ろうとした。しかし、予想以上にレナード君が諦めないので、おれもフォル君も押し切られそうになったところでジャック君が帰ってきた。「どうかしたのか」と聞かれたので事情を説明すると、「俺に任せろ」と言って、レナード君をおれたちとは反対側の部屋に引っ張ってので、おれたち二人は一番広いリビングでレナード君たちを待つことにした。
しばらくすると、二人は出てきてレナード君は開口一番「やはり部屋はオレとジャック、リックとフォルの方が良さそうだな!」と言っていたので、どうやらジャック君の説得は上手くいったようだった。
そして、そのあとはトランプを少しだけ複雑にしたようなカードゲームをやりながらこれまでのことなどを話し合った。
このカードゲームは最近王都で流行り出したもので、色々な遊び方ができると話題になっているものらしい。トランプと違うところはハートやダイヤのなどのマークの代わりに火や水などの属性がカードそれぞれについているところだな。
中でも今回行った『ダンジョン探索』ゲームは少し複雑で、まず『探索』パートで神経衰弱のようなものを行い、カードを集め、手札が揃った好きなタイミングで『戦闘』パートを開始し、カードの数字や属性の相性で勝敗が決まる。手札の枚数や、自分の持っている属性、『戦闘』パートを始めるタイミングなど戦略を立てられる要素がかなり多いので運だけでは勝てないゲームということもあり、最後の方はゲームの方にみんな熱中していた。はじめは慣れないゲームということもあり、おれとフォル君が苦戦していたが、慣れるのが早かったおれがジャック君には勝つようになり、最終的にはレナード君、おれ、フォル君、ジャック君の順で順位が決まった。ジャック君は弱いというより、全ての勝負に勝とうとし過ぎな気がするんだよな。このゲームの特性上、いかに相手に『戦闘』をスルーしてもらえるかが結構重要なのに、相手が起こした戦闘にも勝ちにいってしまうから自分が戦闘を起こしたときに勝てず、攻略階層が伸びなかったところが敗因だと思う。
そういえば、それはおれたちとやった『魔法使い・殺し』でも同じだった気がする。ジャック君はフォル君の攻撃を全て完璧に受けきっていたが、そんなことをせず、ある程度止めておいて、クラウさんの接近を止めるように動いていれば負けていたのはおれたちだったと思う。
ジャック君はちょっと完璧主義すぎるのかもしれない。フォル君がうまくけん制したっていうのもあるんだろうけど。
逆にレナード君はその辺もうまかったように感じる。戦闘の方は実力差があったのでわからないが、少なくとも今回のゲームではそうだった。
まあ、運が良かったってのもあったと思うけど。
これが、レナード君が言ってた『勇者候補』の力なのか?
確かに二人ともダンジョン適性の『運』の項目はAだったけど。あれって日常生活にも適用されるのか?ソラも運ゲーは強いイメージがあるけど。
なんか、勇者に一番必要な要素が運かもしれないってちょっと笑えるな。
まあ、物語の中でも一昔前は勇者に一番必要な要素は清き心だ、的なことをいっていたのに、最近は闇落ち勇者の物語も多いから案外本当に『運』なのかもしれないけど。
「いやあ、今日は色々あって楽しかったね」
そして、今は寝室に戻り、寝る直前といったところだ。
「そうだなぁ。初日から色々ありすぎだろって感じだよ。初日だからこそ、なのかもしれないけど」
「でも、僕の前世ではこんなにいろんなことはなかったよ。前世の記憶がある分、学園生活に新鮮さはないかなって思ってたけど、全然そんなことはないんだなって思い知らされたよ」
「前世ではどんな感じだったの?」
「みんなもっと緊張してたって感じかなぁ。仮PT組んでる人も少なかったし、クラスの数も2クラスだけだったしね。知り合い自体みんなほとんどいないって感じだったから」
「ふーん、でも半年後からダンジョンには入り始めるって言ってたからそれまでには決めたんだよね?いつぐらいに決めたの?」
「僕はクラス別対抗戦の後かな。みんなもそれぐらいの時期に決める人が多かったよ」
「ああ、ちょっとだけ今日先生が言ってたね。あれって何するの?」
異世界版体育大会みたいなものを勝手にイメージしてるんだけど。
クラス全員で早く馴染めるように、みたいな。
「ダンジョン攻略に必要そうな技能をいろんな競技に分けてクラス別に勝負する戦いだよ。何をすると言われたら人によるとしか言えないかな」
ほうほう、大体予想通りかな。
「じゃあ、みんなでけっこう盛り上がる感じなんだ?」
「うーん、元々は2クラスできた時にね、全員分の装備が貸してあげられないって話になったんだよ。それで、クラス別対抗戦をやって勝った方のクラスに与えればいいじゃんって話になってさ。それが始まりだったんだよ。だから僕の時は結構殺伐としていたよ」
思っていたよりもずっと世知辛いものでした。
平和ボケってやつなのかな?もっと気を引き締めなければ。
「まあ、でも、最近はそうでもないみたいだけどね。一応、負ければ貸してもらえる装備の質が落ちたりはするみたいだけど、全員分貸してはもらえるようだし、どちらかというとアピール目的の場になってるから」
「なるほどなぁ、競技で良い結果を出せば他クラスにも印象に残るし、相性のいいPTメンバーが組みやすくなると」
「今はそれだけじゃなくて、当日は上級生や一般の人も見に来るらしいからね。クラスの結果よりも個人の結果を重視する人が多いんじゃないかな」
「それにしては先生とレナード君がやたら気合入ってなかった?」
「……まあ、あの先生は担任が初めてって言ってたから勝ちたいんじゃない?レナード王子も負けず嫌いっぽいし」
「それもそうか」
まあ、やるからにはおれも勝ちたいしな。そんな不自然なことでもないか。
クラス別対抗戦の詳細はまた後日話すって言ってたし、楽しみが増えたとでも思っておこうか。
おれの場合、装備要らないからあんまり関係ないし。
とにかく、色々あってなんだかんだ疲れていたおれはフォル君との話が途切れた瞬間すぐに眠りについた。




