第二十七話 勇者候補
※第三王子・レナード視点
「それはこのオレが『勇者候補』である証だ」
ダンジョン適性が書かれた紙を見せながらオレ様はそう言う。
「勇者候補って何?聞いたこともないんだ……ですけど」
「知らないのか。まあ、知らないのも無理はないな。『勇者候補』となる人間は十年に一人の逸材であると言われているからな」
実際、そのくらいの割合であると、聞いている。
まあ、この学年には勇者候補である人間が三人もいるらしいがな。とはいえ、その三人の中でも最も適性があるのがこのオレ様なのだが。
「へー、その勇者候補の人たちはやっぱり探索者になっているんですか?」
「当然だ。『勇者候補』の人間はダンジョン内でこそ力が発揮される」
「どういうことですか?」
「勇者候補の人間は魔力、身体能力、その他すべての能力が一段階上がるのだ。理由は分からんがな。あれは不思議な感覚だった」
「王子はダンジョンに入ったことがあるんですか?」
「入っただけだ。戦闘などはしていない」
どっちにしても、浅い階層はオレ様からすれば雑魚しかいないからな。
30階層くらいまでならば今のオレでもボス階層以外は戦闘面では余裕であると考えている。それなら、焦る必要もないからな。
「ふーん、あ、勇者候補って他に誰がいるとか分かる?……すいません、分かりますか?」
こいつ……探ってきているな。
恐らく、オレ様と敬語無しで話しても良いのか見極めようとしているのだろう。言葉遣いが少し嘘くさい。まるで兄上と話しているかのようだ。
気にくわんな。
「わざわざそんなことをしなくて良い。普通に話せ」
「え?何のことですか?」
その反応は本当に何のことか分からない、っといった声色と表情だった。
「……ああ、そういうことですか!それならお言葉に甘えて。他に勇者候補って誰かいる?」
そして、さも今気づいたかのような様子で今度は親しげに聞いてくる。
こいつ……。
常人ならオレ様のことについて探ろうとする意思などなく、今オレ様の意図に気付いたのだと考えただろう。しかし、オレ様には分かる。こいつは自分にそうした意図がなかったという状態を自分で作り出した。要は思い込みだ。なぜそれに気づけたのか。それはオレ様も同じことをよくしているからだ。
ふふっ。
面白い。
なにより面白いのはあの一瞬でその状況を作り出したことだ。そうなる可能性を予測もしていたのだろうが、あの精度はなかなかのものだ。おそらくオレ以外に気付ける者はいないだろう。
何がこいつにそういうことをさせるのか。これは自然とそうなることではない。オレ様もそうだったからな。いったいどんな経験をしてきたのか。いや、こいつはたしか前世持ちだったはず。だとすれば、前世の経験がそうさせる可能性もあるか。実に興味深い。
「お前、面白いな」
「えっ」
これが素の反応だな。
今回の返答は本当に予想外だったのだろう。
とりあえず、質問には答えてやろう。
「オレ様以外の勇者候補は現在分かっているだけで5名いる。現国王、アンドレ=メイオール、『風王』カーム、『土王』カンティル、それから、オレたちと同じ学園生であるケイブと……お前の親友であるソラだ」
「ソラが……?」
「何だ、親友なのに聞いていないのか?」
「聞いてないなあ。あいつに隠し事ができるとは思えないんだけど……って、あ!もしかして『なんちゃって勇者』のことか!?」
「『なんちゃって勇者』?何だそれは?」
「あいつ……ソラのステカメに書いてあったことなんだけどさ。ソラはステカメの【備考】のところに君はなんちゃって勇者だ、みたいなことが書かれていたんだよ」
「それは……ふざけているのか?」
「いや、おれもそう思ったけどさ!本当なんだよ。いやあ、あれが『勇者候補』なんていうかっこいいものの証だったとはなあ」
……何だろう。
今、『勇者候補』の価値がものすごく下がった気がする。
いやいや待て待て。歴代の勇者候補は間違いなく凄い人たちなんだ。だから自信を持て、オレ。
「『勇者候補』は普通の人間とは違う。お前もソラと一緒にいたのなら感じただろう、絶望的な才能の違いというやつを」
「……才能の違いは感じるけど、絶望的ってほどじゃないかな。1対1でも全く勝てないってわけじゃないし。むしろ才能だけならシエルの方が……」
「何だと!?お前はソロでも同世代の『勇者候補』に勝てるのか!?」
「いや、さすがに負けることの方が多いけど。通算で言えば、3割くらいの勝率かな……?」
どういうことだ?
いくらこいつが前世持ちの人間とはいえ、『勇者候補』の人間が適性Cランクの人間にソロで10回に3回も負けるだと?
ありえない!
だが、嘘や冗談を言っているようには見えない。『勇者候補』の人間は魔法、身体能力、判断力、直観力、運、その他すべての戦闘に関する能力に対して並外れた才能を持つ。それは常人が一つのことに特化し続けても尚、『勇者候補』の人間がほんの少しの努力しただけで追いついてしまうほどの差がある。それはそれぞれの属性魔法を極めた者の称号であるはずの『風王』と『土王』に魔導士ではない『勇者候補』の者がそれを手にしている時点で証明されているはずだ。才能の差を覆すとすれば努力の差だが、それこそありえない。なぜなら勇者候補は好戦的で戦闘に関する努力を怠らないようにできているからだ。
ならば、あり得る可能性はただ一つ!
こいつが普通ではない特殊な強さを持っているからだ。
ふふっ。
ふふふふ。
ますますこいつに興味が湧いてきた。
なぜオレと同じ勇者候補であるソラがCランクの人間であるこいつをライバルなどと言っていたのか気になっていたが。
なるほど、そういうことだったのか。
そういえば、こいつはあの『ドラゴンバスター』グラントの息子だったな。グラントが『ドラゴンバスター』と呼ばれる理由は何もただ単にドラゴンを倒したからという単純な理由ではない。それだけなら他に何人もの人間がそれを成しえているのだからな。
グラントが何人もいる50層突破者の中で唯一『ドラゴンバスター』と呼ばれているのは、ドラゴンをたった一人で相手取って勝利したただ一人の人間だからだ。PTメンバーの一人が死に、他のPTメンバーもエスケープストーンも使えないほど重傷を負う中、グラントはそこから覚醒したように鬼神のような強さを見せ、ドラゴンとの戦いに勝利したという。本来は5人で挑み、エスケープストーンを使いながら徐々に相手に慣れてから倒すはずのドラゴンを。
今はもう探索者を引退してしまったが、今でも最強の探索者として名前を挙げる者もいるほどだ。
こいつと戦ってみたい。
『勇者候補』としての血が騒ぐ。
『勇者候補』の人間は孤独になりやすい。
なぜなら、何をやってもうまくやりすぎてしまうため、相手との基準が合わないからだ。個人戦闘力で一、二を争う『風王』や『土王』が『火王』に最高到達階層で後れを取っているのはPTメンバーとの連携不足が大きいと言われている。
ならば、『風王』と『土王』でPTを組めばいいと思うかもしれない。勇者候補である人間は基本的に何でもできるため、得意不得意はあれど、役割が被るということはない。
しかし、それは無理なのだ。
勇者候補である人間が二人以上でダンジョン内に入ると、なぜか反発し合うように逆に能力が下がる。
つまり、こいつと探索者としてPTを組むにはソラと引き離す必要があるということだ。
「おい、お前。ソラに言っておけ。お前の大切なものは必ず奪い取ってやる、とな」
「えっ、ええ~?」
そう宣言したところで、丁度鐘の音が鳴った。
これは、思っていたよりも楽しめる学園生活になれるかもしれないな。
この作品とは全く関係ないですが、短編を投稿しました。
ジャンルは現実世界恋愛です。よかったら読んでみてください。
作者検索してもらえればすぐに出ます。




