第二十六話 王子の素顔
ふむ。
口で言うだけのことはあるようだ。
たしかに強いな。
おれならどうする?
スピードは間違いなくあいつの方が上だ。パワーの方は今回の試合では分かりにくかったが、デコピンで相手を吹き飛ばすことができるくらいだ。おそらく出そうと思えば出せるだろう。そもそもおれ自身パワータイプじゃないし。じゃあ、魔法は?魔法による攻撃力は分からないが、少なくとも制御力はかなり高い。付与魔法を素手に施していたからな。付与魔法を直接身体に付与して戦うロールとしては拳闘士が挙げられるが、あれは最初から付与した状態で勝負を始める人たちのことだ。さっきあいつがやったように、試合の途中で瞬間的にやるような人は、普通はいないと聞いている。つまりは、武器に付与するよりも神経を使う作業だということだ。魔力操作は間違いなく上手い。そして、そういう人間は相手の使う魔法にも敏感なことが多い。敏感というのは具体的に言うと、相手が基本魔力を操っている時点で何の魔法を発動しようとしているのか何となくわかる感覚のことだ。これは魔物相手でも変わらない。その感覚が優れている相手にはおれがよくやる【凍水】や、【泥沼】などの設置型魔法が効きにくいということだ。だからといって遠距離から近づけさせないように魔法を打ちまくるというのも得策ではないだろう。体捌きを見ていると避けるのは上手そうだし、そもそもそんな魔法の使い方をすればおれの魔力がすぐに尽きてしまう。同じ理由で持久力勝負に持ち込むのも良くないだろう。なぜなら、この世界では体力は特に才能に左右されやすいからだ。正確に言うと、トレーニングによってほとんど伸びない。これは自分の感覚だけの話になるが、体力の付きやすさは前世とほぼ同じだ。そして、この世界の戦闘はほとんどの場合、身体強化をして戦うので、そんな小さな差はあまり意味をなさなくなる。分かりやすく数字で言うと、前世では10の体力をやりくりして体を動かすが、この世界では100の体力をやりくりするようなものだ。トレーニングや成長によってその数値が10増えた時、倍率が2倍から1.1倍になってしまったといえば、影響の少なさが理解できるだろう。実際、ソラとはほとんど同じことをしているはずなのに、単純な体力面では勝負にすらならないからな。そして、あいつは間違いなく才能がある。じゃなきゃ、あの態度は取れないだろうからな。まあ、おれ自身がこの学園では体力がない方ということもあるのだが。だとすると、残っている勝ち筋はーー
「うひゃあ!」
「お、やっと反応した」
突然、後ろからくすぐられて思考を中断させられた。
「何するんだよ!」
「はは。いや、全然反応なかったからさ。もうみんな教室に戻り始めてるよ」
「あ、本当だ」
「普通に声もかけたんだけどさ。すごい集中力だね」
「まあ、遺伝かな?」
思考に集中し過ぎて周りが見えなくなることはよくあるのだ。シエルはもっとひどいけど。シエルの場合、集中の持続時間が長いのだ。おれは2,30分も経てば一度は意識が戻ってくるのだが、シエルは平気で数時間とか思考に耽っていたりする。それに、ああ見えて父さんも集中すると周りが見えなくなるタイプだ。外見は脳筋に見えるんだけどな。意外と考えて動くタイプなのだ。
「とにかく、僕らも戻ろう。クーとマーレは先に行ったし」
「そっか。待たせて悪かったな。じゃ、行こう」
そんな感じでおれたちは訓練室を後にした。
この魔法の跡が多く残った訓練室がどれくらいの時間で元に戻るのだろうとかどうでもいいことを考えながら。
●
教室に戻ると前に来た時よりも多くの人が集まっていた。
おれらで最後だったのかなと思っていると教室前方に貼ってある貼り紙に気付く。
どうやら座席表のようだ。
席は普通に名前順だった。『リック』なので後ろの方から探すとすぐに見つかった。
後方の窓際の席だった。
今まで自分の名前が好きでも嫌いでもなかったが、少しだけ好きになったかもしれない。
早速自分の席に行ってみると、その後ろの席に見知った人物が座っていた。
王子だ。
そうだよな。レナード王子だから名前順にすると必然的に席が近くなるよな。
ちょっと自分の名前が嫌いになったかもしれない。
今日は別に置くべき荷物もないし、まだほとんどの人は自分の席に座らず立っていたり、仲のいい人としゃべっていたりしていたので、フォル君の席にでも行ってみようと自分の席から離れようとしたところで声がかかった。
「おい、ちょっと待て」
呼び止められたので、渋々振り返る。
どうやら向こうもおれに気付いたようだ。
「何ですか?」
同級生だが、一応敬語で話すことにした。
その方が無駄な軋轢を生まなさそうだからな。別に公平・平等の思想を過度に持っているわけでもないし。
「お前がリックだな?オレとルームメイトになった」
「そうですけど……」
「ふふ。やはりそうか。オレ様の目に狂いはなかったな」
「はあ……」
何だろう。
訓練室にいる時は相手を見下す嫌な奴かと思っていたけれど、改めてみると、ただのナルシスト野郎に見えてきた。
っていうか、おれの名前だって席順から分かっただけだろ!
「そういえばお前、キャルのやつに勝ったらしいな」
キャル?誰のことだ?
誰のことか分からなかったのが表情に出ていたのかすぐに補足してくれた。
「あいつのことだ」
王子が指さした先には例の『お嬢様』がいた。
『お嬢様』、キャルって名前だったのか。
「分かったようだな」
「ああ、はい……勝ちじゃなくて引き分けでしたけど」
「そうだったのか?あいつは負けたと言っていた気がするが……まあ、いい。引き分けでもあいつらと引き分けならなかなかのものだ。ジャックも珍しく褒めていたくらいだからな。ああ、ジャックは大盾を持って戦っていたやつのことだな」
「おれたちのルームメイトでもありますよね。あの人がジャックだったのか……。元々知り合いだったんですか?」
「そうだな。あいつらはオレの舎弟だからな」
舎弟?
舎弟って何だっけ?実の弟なわけないから、弟子みたいなもんか?
「じゃあ、一緒にPTを組んだりするんですか?」
「そんなわけないだろう。今のあいつらじゃ足手まといにしかならん。このオレのPTメンバーになるのなら、最低でも2対1でオレ様に勝つくらいでないとな」
今の、か。
期待はしてるって感じかな。
しかし、お嬢様や盾男でも2対1でも王子に勝てないのか。
だとすると、シャド君たちとの試合はあれでまだ全力じゃない可能性があるな。
それでも、おれとソラが組めば勝てると思うけど。こいつにシエルほどの才能は感じないしな。まあ、別にこいつとPT組みたいわけじゃないから言わないけど。
「たしかに、実力差がありすぎるのは良くないですよね。じゃあ、今はキャル達が強くなるのを待っているって感じですか?」
「そ、そういうわけではない!」
お、初めて王子のすまし顔が崩れた気がする。
ツンデレか?ツンデレなのか!!
「その気色の悪い笑みを止めろ。本当に違うからな?それに、今のあいつらは才能の違いを理由にそういうことを言わなくなったからな。オレ様の力の前に仕方のないことではあるが」
そう言った王子の顔は少し寂しそうにみえた。
圧倒的な才能を持つ者特有の悩みか。キャルやジャック達だってこの学園に入学できるくらいなのだから才能がないわけじゃないだろうに。
「そういえば、王子のダンジョン適性ってどんな感じなんですか?」
「ふふ。やはり気になるか。見て驚け、これがオレ様のダンジョン適性だ!」
見せびらかしたくて仕方のなかったのだろう。
王子は待ってましたとばかりにダンジョン適性が書かれた紙を取り出す。
【名前】 レナード=メイオール
【体力】 A
【魔力】 A
【攻撃力】 B
【防御力】 B
【素早さ】 A
【知力】 B
【運】 A
【総合】 A
【備考】 素晴らしいステータスだ!君ならなれるかもしれない。このダンジョン戦争を終わらせる本物の『勇者』に……。
ダンジョン適性は確かに高い。高いのだが……それよりも気になることがある。
「ねえ、ここの備考に書いてある『勇者』ってどういうこと?」
「そっちが気になるのか。まあいい。教えてやろう。それはこのオレが『勇者候補』である証だ」
『勇者候補』?何だそれは?




