第二十四話 王子、登場
時は少しだけ遡る。
今は丁度クラウさんから合図が来て、支援魔法を発動させようといったところだ。
「ああ、【素早さ上昇】」
そう言っておれはお嬢様に向かって支援魔法を放つ。
えっ?お嬢様って誰だって?
そりゃあ、相手の魔法使いのことに決まってるだろ?
だって、『金髪』で、『貴族風』で、『ですわ口調』なんだぜ?これで『縦ロール』であったらなーとも思うが、あいにくロングのストレートである。けど、名前も結局聞いてないし、もう『お嬢様』と勝手に呼ぶことにしている。
ついでに、避けられないように途中までクラウさんに向かうようにして、それから進路変更するような形にしておいた。そっちの方は見ていないので、完全に魔力感知だよりだけど。これに引っかからなかったら、その時はもうクラウさんにひたすら追いかけまわしてもらうしかない。射程範囲ももう少しで出てしまいそうだし。そうなったら厳しいな、と思いつつ、障壁の状態を確認する。
既に軽くひびが入っており、弓矢が当たってしまえばもう付与無しでも壊れてしまいそうだ。などと考えていると、横から叫び声が聞こえてきた。
「ちょっと、リックさん、手伝ってくださいよぉ。当たらないですぅ」
「はいはい、素早いやつはおれがやるから、ゴブリンやスライムは頼んだよ」
「お、お願いします、早く!」
マーレさんは最初からずっとこんな調子だ。
戦闘経験が少ないのだろう。完全に興奮状態になっている。
まあ、召喚士は珍しいので、そのせいもあるのかもしれない。だからこそできることもあるんだけど。
「【攻撃力上昇】、【泥沼】」
「【火球】」
おれは支援魔法である【攻撃力上昇】をマーレさんにかけながら水属性魔法【泥沼】をブラックウルフの進行方向に発動させる。【泥沼】は本来、土属性魔法なのだが、『面白い魔法の使い方辞典』によると、水属性としても発動させられると書いてあった。せっかくなので試してみたのだが、なるほど、消費効率は土属性魔法より少し悪いが、おれ自身、水属性魔法が得意なこともあって、効果範囲なんかの操作は水属性魔法の方がやりやすいな。これは使えるとみていいだろう。
あと、マーレさんに【攻撃力上昇】の魔法をかけ、効果範囲を広げたが、こんな一瞬だけ発動させるようなやり方は本来禁じ手だ。なぜなら、魔力の消費効率が著しく悪くなってしまうし、魔力操作もうまくいかなくなる可能性が高いからだ。
だが、今に限っては有効だ。
だって、今のマーレさん興奮しすぎて全然魔力操作できてないんだもの。元々不安定なものがさらに不安定になったところであんまり変わらないっていう話。
それに、狙っているのかいないのか、うまいこと【火球】の煙が目隠しになって相手の弓術士が狙いをつけにくそうにしている。おれの場合は魔力を周囲に散布することで位置を掴んでいるので願ったり叶ったりだ。
正直なところ、これにはかなり助かっているので、マーレさんを落ち着かせることなくそのままにしているところもある。
使っているのは今のところ初級魔法の【火球】と【水球】くらいなので、いくら消費効率が悪いと言ってもすぐに枯渇するほどじゃないしな。
「【水刃】、ほら、移動するよ」
「は、はいぃ」
【泥沼】にはめたブラックウルフを【水刃】で仕留めながら、マーレさんにそう言った。
しかし、マーレさんの返事は気弱く、もう涙目になっている。
こんな感じでおれたちはぎりぎりのところでしのぎ続けていた。
でも、もうあと1分も持たないかな、と思っていると、お嬢様の動きが止まった感覚があった。やっぱり支援魔法でつながった相手の状態は把握しやすいな、などと考えていると……
!
「マーレさん、ストップ!」
弓矢による攻撃だ。先回りされたか。
でも付与無し!気づくのが遅れたけど絶対止める!
「【土盾】おおおお!」
おれは消費効率無視で【土盾】を発動し、ひたすらに魔力を込め、できるだけ分厚くする。
ガガガガガという音と共に弓矢は土盾を貫通したが、ぎりぎり障壁の手前で勢いを失った。
あ、危なかった~と思っていると……。
「マーレさん、危ない」
フォル君の叫び声が聞こえた。
「遅い」
そして横からの攻撃に気付いた時には……『パリン』という音と共に障壁が破壊されたところだった。
しまった、やられたと思っているとカイ先輩の声が聞こえてきた。
「そこまで~」
ま、負けた……?
「う~ん、この勝負、引き分け」
あれ?引き分け?
●
どうやら、あの盾を持った男とクラウさんが障壁を破壊したタイミングはほぼ同じだったらしい。
だから、引き分けという判断をカイ先輩は下したのだが、向こうのPT(パーティーは引き分けでも相当ショックだったらしい、
いや、向こうのPTがというより、あのお嬢様がという感じだろうか。
他のPTメンバーはあのお嬢様に気を使っている感じがあった。あの盾を持った男だけは違う気もしたけど。
なので、再戦という雰囲気にもならず、そのまま終了したという形だ。
そして、4人でゆっくりと話せる雰囲気になったので、まずは言おうと考えていたことを言った。
「「ごめん」」
おれが頭を下げて謝ると同時にフォル君も頭を下げて謝っていた。
「え、何でフォル君が謝るの?」
「リック君こそ」
「そりゃあ、防御は任せてって言ってたのに、結構すぐに破壊されちゃったし」
「いや、それは僕があの盾男を抑え損ねちゃったからでしょ。リック君は十分に時間を稼いでいたよ」
「いやいや、あの盾男はかなり強かったし、あの遠距離攻撃しかさせなかったんだからフォル君こそ十分でしょ。それに、フォル君の役目はあいつに障壁の防御を刺せないことだったんでしょ。だから、フォル君は役割を果たしたんだから謝る必要ないよ」
「いやいやいや、それを言うなら、リック君なんて1人で遠距離魔法と付与弓矢を防いでいたじゃないか。それだけでも活躍したと言えるくらいなんだから、リック君こそ謝る必要ないよ」
「いやいやいやいや、あれはそもそも結構付与が雑だったからで……」
「あーもう、うるさい!全員良いところも悪いところもあった。だから、二人とも謝る必要なし!これでいいでしょ、PTなんだから!」
「そ、そうですよ」
そっか、これでいいのか。
そういえば、おれは一人でやろうとし過ぎていたのかもしれないな。最後の攻撃だって、きちんとフォル君に盾男に攻撃させないように指示していれば防げたかもしれない。
クラウさんに言われて目が覚めた。
おれもまだまだだなぁ。
「まさかあのクーに諭される日が来るとは……」
「ちょっとフォルみん、それどういう意味……?」
「いやあ、あの考えなしだったクラウがなあ、と」
「言ったな!このー!」
「うわっ、やめろって!痛い痛い」
あー、あれ右胸にある魔石同士を直接触れ合わせて、魔力を直接流し込まれてるのかな?
あれ、結構痛いんだよね。魔石の部分って結構デリケートだから。おれもソラやシエルによくやられたわ。
まあ、直接触れられでもしない限り、やられることはないし、戦闘において弱点になるほどではない。
けど……傍から見たら抱き付いているようにしか見えんな、これ
この二人がやると、微笑ましい感じにしか見えん!
「あ、あははは」
マーレさんもこの雰囲気にあてられたのか笑みを浮かべていた。
会った時からずっと表情が硬かったけど、ようやく緊張もほぐれてきたようだ。
相手が知り合いの3人でその中に1人で飛び込んできたんだからしょうがないと思うけど。むしろ勇気あるなと思う。
そんな感じでおれたちは和やかな雰囲気で過ごしていたのだが、ちょっとざわついた空気になったのがわかった。
気になったのでざわついている原因になっていそうな方を見てみると、誰が原因なのかすぐに分かった。
服装が違う、魔力の質が違う、目つきが違う、もちろんそれもそうなのだが、何よりも纏うオーラが明らかに違った。
「誰だ、あいつ」
そうつぶやくと、マーレさんが答えてくれた。
「あいつなんて言ったら失礼ですよ……。あの方は王子様ですよ。第三王子、レナード=メイオール様……」
ああ、やっぱりそうなのか。
何となく、そういう雰囲気があった。
いかにも『王族』っぽい人だな、それがおれのルームメイトであり、第三王子であるレナード=メイオールに対する最初の印象だった。
補足しておくと、途中リックが【素早さ上昇】、【攻撃力上昇】、【泥沼】の三重魔法に成功したように見えますが、厳密には少し違います。今回の場合、【素早さ上昇】と【攻撃力上昇】の制御はかなり適当ですので魔法としては失敗したとも捉えられる程度だからです。3つの魔法を完璧に制御することは今のリックにはできないので、まだ三重魔法に成功したとは少なくともリック自身は考えていません。
まあ、そこまで細かく設定を練っているわけでもないので、ほとんどはノリです。
気付いた矛盾点は適宜直して行くつもりですが、大体はノリで書いてるんだな~という感じで深く考えずに読んでもらった方が良いような気がします。
もちろん、気になる点があれば感想欄にでも書いてもらえればお答えしますし、その修正もしますので、これからもどうぞ好きに読んでください。
よろしくお願いします。




