第二十三話 支援魔法の間違った使い方
「それじゃあ、スタート!」
先輩の合図と共に2人の魔法使いが魔道具を起動し、障壁を展開させる。
あの障壁を破壊したら勝ちだったね。
たしか、強度は魔法だと、種類や攻撃力にもよるけど、だいたい中級魔法だと2発分、初級魔法だと5発分、ボクの付与済み状態の短剣で1回、付与なしで3回攻撃を加えられたら破壊できるんだったっけ。だから、攻撃魔法より物理攻撃の方が良さそうってことになって、ボクとフォルみんが攻撃役を任されたんだよね~。
相手のロールは魔法使い役の魔導士、重戦士、弓術士、召喚士の4人だ。
前衛が重戦士の1人しかいないので、接近戦に持ち込むためスタート位置から早速フォルみんと一緒に相手魔法使いに接近していると、相手の魔導士の人と、弓術士の人が攻撃を仕掛けてきた。
でも、ボクたちを狙ってる訳じゃないっぽい。直接障壁を狙った、いきなりの遠距離攻撃のようだ。
って、やばくない?
火属性の範囲攻撃魔法と貫通力のある弓矢(たぶん風属性の付与済み)での攻撃だ。
思わず、攻撃の行方を見てしまうとそこにはリッキーが立っていた。
「任せて!【火盾・筒】、【水壁】」
うわっ、すごっ!
リッキーは1人で2つの攻撃を見事に防いでしまった。
でも、どうして防御力Cのリッキーが付与済み状態の弓矢を防ぐことができたんだろう。
ちょっとフォルみんに聞いてみようかな。
「ねぇ、どうしてリッキーはあの弓矢を防ぐことができたの?」
「多分、【火盾】を上手く魔力操作して筒状に発動することで弓矢との接地面積を増やして正面から防ぐんじゃなく、風属性の付与を完全に消失させにいったんだと思う。とんでもない魔力操作能力が必要な高等技術だよ。あんなの、前世の僕でもできない」
「ええ!フォルみんでもできないの!?それってやばくない?」
「自分で言うのもなんだけど、僕以上って本当にやばいよ……。それより、相手の遠距離攻撃の威力も予想以上に強いみたいだから、少し、こっちからも牽制する必要があるかもしれないね」
そう言ってフォルみんは魔法を発動させる準備をする。
よくわからなかったけれど、リッキーはすごいことをしたみたい。それらを見ていると、ボクも魔力操作の練習をもっとしておけばよかったかな~と思う。ボクはフォルみんやリッキーとは違い、体外での魔力操作がひどく苦手だ。魔法自体は初級制御魔法なら発動させることができるんだけどな。どんな感じになるのかって言うとーー
あ、ちょうどそんな感じ。
不定形で、無駄に大きくなりやすくて、まっすぐ飛ばない……って、マーレちゃん、何やってんの!?
マーレちゃんが発動した【水球】?は無駄に大きくて、ふらふらした軌道で相手パーティの方に飛んで行く。
これに対し、あいつも動揺してしまったのか視界を覆ってしまうほどの無駄に大きな【土壁】でこれを防ぐ。
まあ、そりゃあんな緻密な魔力操作の技を見せられた後に、こんな大雑把な魔法が来ると動揺しちゃうよね……。
「チャンス!【水弾】【水弾】【水落】」
上、右、左の三方から水の初級攻撃魔法が【土壁】を迂回して相手を襲う。
攻撃魔法の防御には属性の相性がとても大事だとフォルみんが言っていた。だから、この状況は相手にとってかなりまずいと思う。
そうじゃなくても三方同時攻撃なんて防ぐの難しいと思うけどね。
そしてこの隙にボクは正面から切り込みに行く。
「【付与・風属性】はあああ!」
そうやって短剣で壁を切り裂くと、視界が開ける。
そして、ボクより先に飛んでいった魔法はーー
「【付与・土属性】、【魔引】」
なんと、隣にいた盾持ちの男に魔法を引き寄せられ、付与済みのたてで防がれてしまい、障壁に魔法が当たることはなかった。あんな魔法があるんだ。初めて見た。
けど、ボクが直接壊せば関係ないよね。
そう考えて相手の魔法使い役に接近する。
しかし、先ほど魔法を防いだ盾持ちの男が立ちはだかろうとする。
けれど、直前で躱して攻撃すればいいと考え、突っ込もうとする。すると、その男は持っている盾をこっちに向かって振りかぶってきた。
一瞬、何をしたのか分からなかったが、すぐに思い知らされることとなった。
「うわっ!」
衝撃波?みたいなもので吹き飛ばされてしまった。
何とか受け身を取ることはできたけれど、追撃の弓矢が来る。しかも火属性の付与済み。
かわそうとしたけれど、足元に何かが絡みついて動けなかった。
これは……スライム!?召喚士の人がいつの間にか召喚していたのか。避けられないと思い、せめて防御態勢をとろうとするとーー
「【付与・水属性】、うー、よっと」
ぎりぎりでフォルみんが間に入り、弓矢を逸らしてくれた。
「助かったよ、フォルみん」
「うん、それよりも良くない状況だよ。【土壁】を消してくれたおかげでこっちから遠距離攻撃しやすくなってるけど、こっちの遠距離攻撃があの盾男に防がれてしまうし、召喚士の人は魔石を惜しまず、魔物をどんどん召喚してきてるからいずれ物量差でやられてしまうよ」
あ、本当だ。
あいつも冷静になったらしく、土壁は消えていた。そして召喚士の人はスライム以外にもゴブリンやブラックウルフを召喚し、マーレちゃんの方へ向かおうとしていた。
「どうするの?」
「僕が盾男の相手をするから、リック君の秘策と合わせて一撃で仕留めてきて。スピード勝負になると思うから」
「オッケー!」
そうやって、打ち合わせをしている間にスライムを引きはがすことに成功する。
スライムは魔力を吸い取るという特性がある上に、弾力性があり、魔法攻撃以外はほとんど効かず引っ付かれるととても厄介なのだが、引っ付かれている部分に魔力を集中させると魔力の過剰摂取となってしまうらしく、逆に死んでしまう。
魔力を吸い取るスピードもそう早くはないので、スライムにやられる人というのは聞いたことがないが、こういった使い方をされると、非常に厄介だなと思った。
おかげでかなりの魔力を持って行かれてしまった。もう二、三匹引っ付かれてしまうと、身体強化すらできなくなってしまうかもしれない。
フォルみんはボクがスライムを引きはがすことに成功したのを見ると、早速盾持ちの男に攻撃を加えに行く。
そして、ボクは直接障壁を壊すためあいつの元へ再度向かっていく。
その際にちらっとリッキーの方を見ると、なかなかにすごいことになっていた。
多数の魔物相手にマーレちゃんが【火球】を連発していて辺りは火の海……とまではいかないが煙がすごいことになっていた。
そんな中でリッキーは小さく頷いてくれた……ような気がした。よく見えなかったが、大丈夫ということだろう。
そう判断して、相手の障壁を壊すことに集中する。
それに対し、召喚士の人が召喚したのであろうゴーレムが立ちはだかってくる。周りにはスライムもいる。
あいつは大魔法でも放とうとしているのか魔力を溜めている最中のようだ。
急がないと!
そう考え、頑丈さが売りのゴーレムは倒そうとはせず、素早さの差を利用して躱そうとする。その際にスライム取りつかれそうになったが、左右に動いてフェイントを入れることで何とか躱すことに成功する。
それに対し、ゴーレムはなんと手を地面に置き、土属性魔法【地面壁】を発動してくる。
ゴーレムが魔法を使ってくるとは予想外ではあったが、幸い発動速度が遅いこともありジャンプすることでこれを何とかかわし、さらに障壁との距離をつめる。
これに気付いたあいつは魔法をキャンセルし、身体強化を始める。
「これで終わりだよ!」
「まだ終わりませんわ。わたくしの素早さはBですのよ。逃げることに専念すればあなたに攻撃されることはありませんわ。そして、そちらの障壁はもうひびが入っているご様子。あなたたちの負けですわ」
そう言ってあいつは逃げ始める。たしかに魔導士にしては速いし、簡単には追い付けなさそうだけど……。
「ううん、終わりだよ。リッキー!」
「ああ、【素早さ上昇】」
「ふふっ。浅はかですわ!支援魔法はそんな都合の良いものではありませんわよ。諦めなさい!」
知ってるよ、そんなこと。
確かにあいつの言う通り、支援魔法はそんなに都合の良いもんじゃない。支援魔法を受けると感覚が変わるから慣れていなければ普段の魔力操作ができなくなる。つまり、強化系の支援魔法は必要な時だけ効果を発動させるといったことができないのだ。このことが支援魔法使いは不要って言われる理由の一つだってリッキーが言ってた。だからこそ、今回の勝負でボクたちが支援魔法を求めることはなかった。リッキーには防御に専念してほしいっていうのももちろんあったけれど。
でも、だからこそできることもある。
リッキーからその作戦を聞いた時は驚いた。
これは支援魔法の間違った使い方ってやつだろう。
けど、そういう誰にも思いつかないことを思いつける人ってすごいと思う。
こういう能力は才能なんて関係ない。フォルみんだってそうだ。さっきも魔法を引き寄せられるっていう予想外のことが起こったのに、すぐに、次の行動に移り、作戦を立て直していた。
だからーー二人共みんなに比べて劣ってなんかいない!
むしろボクなんかよりずっとすごい人たちなんだ!
それをこいつにわからせてやる!
「【付与・風属性】」
ボクはとどめをさすために短剣に付与魔法をかけ直す。
そして、リッキーが放った【素早さ上昇】の魔力回路は途中で進路を変え、ボクではなくあいつの方へと向かう。
「なっ!」
これにはあいつも驚きの声をあげる。
そしてその支援魔法はあろうことか障壁を貫通しあいつ自身に効果を及ぼす。
これは今回使う障壁について調べた時にわかったことだ。この障壁はどんな物理攻撃や魔法攻撃も防ぐように造られていたが、例外があった。それが、強化系の支援魔法だ。弱体化系の支援魔法はしっかりと弾くように造られていたが、強化系の支援魔法は別になっていた。おそらく、強化系の支援魔法を妨害に使われるなど夢にも思わなかったのだろう。
これにより、あいつの体内の魔力操作は大いに乱れた。
そしてーー
「あうっ!」
こけた。
これは少し予想外だったけどそういうこともあるかと思い直す。
それほどまでに急に体内の魔力操作に干渉されるのはきついのだ。
あとは障壁を壊すだけだ。
「ま、待っ」
「ボクたちの勝ちだね。はっ!」
付与済みの短剣を一閃すると、障壁は『パリン』という音とともに砕け散った。




