第二十二話 マーレの心情
遅くなりました。たぶん、しばらくはこの調子になると思いますが、ブックマークなどをして読み続けていただけると幸いです。
※マーレ視点
不安だった。
何もかもが不安だった。
これから始まるたたかいのこともそうだし、何とかパーティーメンバーは見つけることはできたけど、その人たちとうまくやっていけるか不安だし、そもそも私はダンジョン攻略についてほとんど何も知らない。
この学園に来てから不安を感じてばかりだ。
いや、それはここに来る前からそうだったか……。
たたかいが始まる直前にもかかわらず、私はそんなことを考えていた。
でも、仕方がないと思う。
もともと、たたかいなんてこれまでほとんどしてこなかったし、この学園に入れたのも生まれ持った才能があったからというだけだ。しかもその才能もこの学園の中では無い方だと聞いた。
そして、自分のダンジョン適性を思い返す。
【名前】 マーレ
【体力】 C
【魔力】 B
【攻撃力】 C
【防御力】 C
【素早さ】 B
【知力】 B
【運】 B
【総合】 B
本当に、ぎりぎりのBランクだと思う。
一応、魔力と知力がBランクなので、魔導士希望なんて言ったけれど、魔法なんて初級魔法の【火球】と【水球】くらいしか使えない。
これで魔導士と名乗るなんて自分でも笑ってしまう。
かといって近接戦などもってのほかだ。
武器に慣れていないことや、身体強化が下手ということももちろんあるが、それは魔法でもほとんど同じようなものだ。
なら、何が問題かというと、『怖い』のだ。
相手が向かってくると、どうしても足がくすんでしまう。
じゃあ何でこの学園に来たのかって話だけど、その理由は色々あるけれど、一番はあの出来事があったからだと思う。それは、魔物駆除に行った時の話だ。
私は孤児院出身だったので、一度魔物を駆除しに王都の外に出たことがある。孤児は冒険者や狩人になる人が多いからだ。なぜ比較的安全性の高い探索者ではなく、冒険者や狩人になる人が多いのかというと、単純に探索者のレベルが高いからだ。冒険者や狩人はどこでもなれるが、ダンジョンはこの国で一つしかない。つまり、国中の腕自慢がこの王都に集まってくるというわけだ。基本的にお金も技術もない孤児がそんな競争に勝てるわけもない。
それはともかく、私は一度魔物を駆除しに王都の外に出たことがあるのだ。数十人規模の孤児たちと共に。もちろん、そんな人数の人たち全員に良質の武器や防具を渡すお金など孤児院にあるわけがない。ほとんどが使いまわしの物であったし、魔法が使えると言った子にはそれすらもなかった。
相手にした魔物は魔物最弱ともいわれる『ホーンラビット』であった。魔物にしては動きが遅く、額にある角さえ気を付ければ確かに子供でも討伐するのに問題ない相手と言えた。しかし、数人がかりとはいえ、本当に私たち子供だけで討伐できるのか不安だった。周りはあまりそのような不安を感じていないようだったが。そして、実際にその不幸な事故は起きた。それも私の目の前で。
途中まではうまくいっていたのだ。私が魔法を撃って引き付けて後ろから押さえつけてすぐにもう一人が仕留めようとした。
しかし、仕留める際に使った武器が悪かった。
その攻撃は中途半端に傷つけるだけにとどまり、逆に相手を暴れさせてしまった。
その際に押さえつけていた人も動揺してしまい、ホーンラビットの唯一の脅威である角を首筋に受けてしまい、一瞬で死んでしまった。
その攻撃で体力を使い果たしてしまったのか、そのあとは攻撃されることもなく、討伐成功ということになったけれど、気分は悪かった。
その後一人死んでしまったことを報告したけれど、返ってきたのは「そうか」という言葉だけだった。驚きもせず、むしろ予定通りといった感じだった。もしかしたら魔物駆除を孤児に任せるのは口減らしの意味もあるのかもしれないと不安に思った。武器が攻撃用の物ばかりで防具がほとんどないのはそのためなんじゃないかとも考えた。
そんなことを考えていると、もっと気分は悪くなった。
それ以来、私は月に一回程度ある魔物駆除に参加しなくなった。しかし、強制参加ではないとはいえ、将来役に立ちそうなことすらしない私は確実に孤児院にいづらくなっていた。
そんな時だった。私にダンジョン攻略の才能があるとわかったのは。
そして、この学園への入学の話も聞いた。
話の流れからすぐにその話を受けた思われたかもしれないが、実は最初は結構迷っていた。
たしかに、孤児院を早く出たいとは思っていたけれど、たたかうのがあまり好きじゃなかったし、ダンジョン攻略に興味も大してなかったから。
でも、周りはそうは考えてくれなかった。
いや、そもそも私の考えなど気にもしていなかったのだろう。
だって、それどころか魔物駆除に参加しないのは低いレベルで争う自分たちをばかにしているからだとまで言われたのだから。
その時以来、私は周りから嫉妬の目を向けられるようになり孤児院の中でさらに孤立していった。
そんな状況だったので、私は消去法でこの学園に入学することを決めたのだ。だから、ダンジョン攻略に対する目標なんてもちろんないし、ほとんど興味すらない。できるだけ平穏に、そこそこやって卒業できればなと思う。
そんな風に不安を感じながらも、自分の目的と言えるかどうかもわからないような目的を再確認していると、リック君が話しかけてきた。
「マーレさん、大丈夫?顔色悪いように見えるけど」
「え?あ、うん。大丈夫……だと思う。ちょっと不安になっただけだから……」
「ふーん、何が不安なの?」
「えーと、本当に勝てるのかなぁって。相手のことほとんど何も知らないし」
嘘だ。
本当はこのたたかいに勝とうと負けようとどっちでもいいと思っている。
本当に不安なのは、このたたかいで自分が見捨てられないかとかみんなの前で恥をかいてしまわないかとか自分のことばかりだ。
そんな風に軽く自己嫌悪に陥っていると、リック君が少し考えるような仕草をした後に返答してきた。
「まあ、でも不安になることは悪いことじゃないと思うよ。この世界の人は勇気があるというか、危機感がない人が多い気がするし」
少し……驚いた。
不安になることが悪いことじゃないなんておかしなことを言う人だと思った。
「それに、たぶん大丈夫だよ。フォル君もクラウさんもすごく強いから」
リック君は2人の強さをこれ以上なく信用しているといった顔でそう言った。すごい信頼感だと思った。けどそれだけに、『じゃあ、リック君は?』と聞きそうになった。
だけど、なんとかその言葉を飲み込んだ。
だって、強さに自信があるのなら、希望ロールを支援魔法使いだなんていうはずがないのだから。
だからこそ、作戦面などで役に立とうとしているのだろう。
私はあまり多くは言われなかったけれど、他の2人とは綿密に打ち合わせのようなものをしていた。
そんな風に少しでもパーティーの役に立とうとしている姿を見ると、少し申し訳なくなる。
このパーティーに入ろうと考えたのだって、支援魔法使いがいるなら自分が一番足を引っ張ることはないだろうという打算があったからだし。
教室の隅でどうしようか迷っている時に、フォル君が話しかけてくれたからということももちろんあるけれど。
「両パーティー、準備はいい?」
そんなことを考えていると審判をしてくれることになったらしい人が声を上げていた。
「こちらはいつでも大丈夫ですわ。そちらこそ、時間稼ぎはもうよろしいので?」
「作戦タイムって言ったでしょ!勝てる確率を9割から10割に上げようとしただけだから!」
いよいよ始まるのかぁ。
とりあえず、打ち合わせ通り、攻撃より防御優先。
失敗だけはしないようにしないと。
リック君が防御担当って言ってたけど、たぶん頼りにならないし。
恐らく、短期決戦になるだろう。
「それじゃあ、スタート!」
その声と同時に、私は腕輪の魔道具を起動させる。
すぐに終わってくれますように。
そんな願いを思い浮かべながら、私の人生初の対人戦が始まった。




