第二十一話 魔法使い・殺し
教室内でちょっとした言い争いが始まってしまった。
そのせいでクラス内の雰囲気はあまり良くないものとなっている。
誰か止めてくれないかなあ。
え?おれは止めに入らないのかって?
嫌だよ、面倒くさい。
どうしようもなさそうならクラウさんは知り合いだし、止めに入るけどさ。
そうはならないだろ。フォル君もいることだし。なんて考えていると、カイ先輩が止めに入ってくれた。
「はいはい、ストップストップ。要するに二人とも相手の実力が見てみたいってことだよね?」
「違うよ!」「違いますわ!」
「うんうん、そうだよね、気になるよね。そういう人がいると思って訓練室を借りてあるんだ。まだ時間もあることだし、行ってみない?」
この人、相変わらず話聞かないな。
強引に話を変えやがった。
でも、共通の敵となることで二人の争いは収まった。今では小声で話し合っている。声は聞こえないが、おそらくカイ先輩に対する愚痴でも言っているのだろう。
まあ、二人とも最初は仲良く話していたし、少し熱くなってしまっただけなのだろう。
「どうするリック君、行く?」
「うん、面白そうだしね。それに、残っても暇っぽいし」
「そっか。まあ、僕も行くけどね。クーには言いたいこともあるし」
んー、これは怒っている、のか?
分からん。どっちでもいいか。
「じゃあ、訓練室に行く人は僕についてきてね。すぐに着くから」
どうやらほとんどの人は訓練室に行ってみるようだ。
まあ、おれたちは教室に行くのが遅い方だったし。これ以上誰か来るということもなさそうだったからな。
っていうか、装備使うことになりそうじゃん。
フォル君の嘘つき。
●
訓練室に着いたところでカイ先輩が話し始めた。
「この部屋の環境はいくら壊したり燃やしたりしても一定時間たつと元に戻るから好きに魔法の試し打ちをしたり模擬戦をしたりしても良いよ。ただし、この扉だけは元に戻らないから入り口からは離れてやるように。じゃあ、12時半くらいになったら言うからそれまでは好きにしていいよ」
あれ?訓練室に行くなら魔力体製造機を使うのかと思ったけどそういうわけじゃないのか。別にいいけど。
その後、何人かの人が部屋から出ていくようだった。運動するための服ではない者も多かったので、おそらく着替えに行くのだろう。自分の装備を取りに行った人もいるのかな?
おれの場合、装備と言える物は今のところこのシューズ位なので、ある程度動きやすい服装なら何でもいいんだけどな。
そんなわけでこれからどうするか軽く悩んでいるとクラウさんがこちらに来た。
「フォルみん、リッキー、あとマーレちゃん……だったっけ?4対4であいつらと闘うことになったんだけどいいよね?ボクたちの強さを見せつけてやろうよ!」
「え?4対4?2人が1対1で闘うんじゃないの?」
普通に観戦気分でいたんですけど?
「ボクもそのつもりだったんだけどね。あいつが『私は後衛なのですから前衛のあなたと1対1で闘うのは無意味ですわ。4対4のパーティー戦にいたしましょう。それとも、才能がない者たちと組んでは』って言ってきてさ。それならそうしてやろうじゃないかってね!」
うわぁ、クラウさん男前!
完全に勢いの事後承諾になってるけどね。
負けてもペナルティとか無いから別にいいけど。闘って死ぬとかはないだろうし。……無いよね?
「ふーん。まあ、おれは別に良いんだけど、フォル君とマーレちゃんの承諾はもらってるの?断られるかもしれないよ?」
「フォルみんにはもう言ってあるから大丈夫!……ほかにもいろいろ言われたけど。マーレちゃんにはこれから頼みに行くよ」
「無理強いはしないようにね」
「分かってる」
そう言ってクラウさんはどこかに行ってしまった。おそらくマーレさんを探しに行ったのだろう。
それにしても、4対4か。
何でわざわざそんな面倒なことをするんだろう。確かに1対1だと後衛が勝ちにくいことはたしかだけど、そこまで気にするほどのことかな。よほど強いPTメンバーがいる?それとも、単純にあの人がタイマン苦手とか?……そういえば、相手の人の名前知らないな。まあ、後で誰かに聞けばいいか。
●
どうやら多少渋られたようだが、マーレさんの承諾も得られたようなので、4人で集まったところであった。
「ところで、4対4って言ってたけど、具体的にどんなルールでやるの?」
ルールの確認はマジ大事だからね。何せおれがソラに勝負で勝つ常套手段だからな、ルールの隙間を突くことは。相手がそれを許容してくれないと意味ないけど。実際、ソラとの勝負以外でそれを使ったことはないし。今回は相手に実力を見せるための勝負だからそんな落とし穴はないと思うけど。
「ルールはPT戦の定番『魔法使い・殺し』らしいよ。だからリーダーを誰にするかが重要だね」
おれの質問にフォル君がそう答えてくれた。
『魔法使い・殺し』のルールは簡単に言うと、PTメンバーの誰かをリーダー(マジシャン)として決め、その人が倒された時点で負けというだけだ。
その名前の由来は昔の戦争における人間の価値観によるものらしい。今はほぼすべての人間が成人するくらいになると魔力を扱えるようになるが、昔はそうでもなかったようだ。そもそも攻撃魔法を使えるほどの魔力量を持つ人間自体が少なかったらしい。
したがって、必然的に魔法使いが戦いにおいて重宝された。当たり前だ。この世界には今のところ銃器のようなものは存在しないため、魔力なしの人間が魔法使いに闘いで勝つことはほぼ不可能だ。しかし、なんでもありなら話は別だ。魔法使いとて常に魔力で身体強化しているわけでもないし、障壁を展開させられるわけではない。つまり、闘いで勝てなくても相手を殺す手段は割とあったわけだ。
そんな状況の中で作られたルールが『魔法使い・殺し』だ。味方にどれだけ犠牲が出ても相手の魔法使いさえ殺せば勝ちってね。
まあ、今では人間全体として魔力保有量も操作能力も上がっているから、もし今戦争が起こったとしたら全員が『魔法使い』ってことになるだろうけど。そもそも、大きな戦争はダンジョンが出現して以来、起こっていないらしいけど。
それはともかく、他にも気になる点を聞いておこう。
「『倒された』判定はどんな感じ?リーダー(マジシャン)だけ魔力体にするの?」
「ああ、それは聞いてなかった。どうなの?」
「えっと、それはね、この魔力障壁を自動で展開してくれる腕輪を魔法使い(マジシャン)が着けて、それが壊されたパーティーが負けだって」
そう言ってクラウさんが腕輪を見せてくれた。色は白色で模様もないシンプルな作りになっていた。
「ちょっと、使ってみていい?」
「うん、もちろんいいよ!」
早速魔力を注いでみて、魔道具を起動させようとした。……結構魔力を使うな。しばらくすると、自身を中心に直方体の障壁が出現した。
「おっ、出てきた」
「うーん、強度はそれなりってところかな」
フォル君が障壁をコンコンと叩きながらそう言った。その後、軽く武器や、魔法をぶつけてみたりして性能を確かめてみた。
結論。
「あまり使い勝手のいいもんじゃないね。魔力の変換効率は悪いし、魔力を一定量注がないと起動しないからどうしても無駄が多くなるし、良いところがほとんどない」
「ま、自前で障壁を張れるリックからすればそうだろうね」
フォル君が少し笑いながらそう言う。
すると、マーレさんが誰に聞かせるでもないような声量でつぶやいた。
「でも、魔力量に余裕があるけど、魔力操作が苦手な人なんかには役に立つんじゃないかなぁ……」
「そうそう。ところでマーレって魔力量の適性どのくらい?」
「一応、Bなので多い方だと思いますけど……」
おお。
さすが、魔導士志望なだけあって適性が高いな。
「なら、魔法使い役を頼んでいいかな?僕ら全員魔力量の適性Cランク以下だから君がやるのが一番だと思うんだ」
「それなら、別に良いですよ。……魔法使いだと守ってもらえるし、あまり動かなくて良さそうだから楽そうだし」
うーん、またマーレさんが何かつぶやいた気がするが今度は聞き取れなかったな。まあ、独り言を盗み聞きするのは悪い気もするから気にしないでおくか。
さてさて、他に聞くことはあるかな~なんて考えながらルールの確認をしつつ、作戦を固めていった。
やっぱり、やるからには勝ちたいしね。




