第十五話 魔力体製造機
「ねえ、模擬戦やるなら訓練室でやらない?」
二対二で模擬戦をすることが決まったところで、フォル君がそんなことを言ってきた。
「訓練室?それってどこにあるんだ?」
「学園寮の地下だよ」
「地下?何でそんなところに訓練室を作ったんだ?」
ソラの疑問はもっともだな。
たしかに、この世界では土魔法があるから前世の世界に比べて地下にスペースを確保しやすいのかもしれないが、なぜわざわざ地下に訓練室を造ったんだろう?
「それは、訓練室がダンジョンの性質を利用しているからだよ」
「ダンジョンの性質?」
「そう。ダンジョンの中って壁を壊したりしても一定時間が経つと元に戻るって聞いたことない?」
「ああ、聞いたことあるかも」
「その性質を利用した訓練場があるんだよ。そこなら周りへの影響を気にせず勝負できると思うよ」
「おお、それは確かに良いな!」
「でも、それなら訓練室が地下にある理由にはならなくない?」
「今の技術だとダンジョンから離れすぎるとその効果がなくなるらしいよ。だからできるだけダンジョンに近い地下に造ったみたい」
ダンジョンは地下にあるからできるだけその場所に近づけるために、地下に訓練室を造ったってことか。
まあ父さんの話によると、ダンジョンは下へ下へと進んでいくものだが、10階層毎にあるエリアボスがいる部屋に行くには転移を使わなければならないらしいから、ただ地下にトンネルを作っていくだけでは階層を飛ばすことはできないだろうが。
「それに、この学園の訓練室には魔力体製造機もあるからね」
「魔力体製造機?」
何だ?また聞きなれない単語がでてきたぞ。
「そう。僕も最近王都に来て知ったんだけどね。魔力体製造機を使うと自分の魔力でできた自分の分身みたいな身体が作れるんだよ」
「うーん。どういうことだ?」
ソラはピンと来なかったようだが、おれには少しイメージできた。
「つまり、その魔力体は本物の今の体と同じように動かせるってこと?そして、その体は魔力でできているわけだから、もし首を切られたりしても生身(本物)の体には何の影響もないってこと?」
「そう!よく理解できたね」
「えー、よく分からねえぞ」
「実際使ってみたら分かるって!早く行こうよ」
まあ、百聞は一見に如かずともいうしな。特にソラはその傾向が強そうだし。
「じゃあ、使うときにもう一度説明するよ」
「それで頼む」
おれはフォル君にそう言うと、四人で地下の訓練室に向かった。
●
「へー、これが魔力体製造機かぁ」
おれたちは今、訓練室の手前にある魔力体製造機を見ていた。
魔力体製造機は、前世の世界にあった電話ボックスのような箱の中にダイヤルと魔力を注入するための装置がある物であった。
魔力体製造機はダンジョンで手に入った物らしいから、もしマジックバックがなかったら持ち運びに苦労するだろうなと思った。
「そういえば、魔力何割の勝負にする?初めて使うなら5割くらいがいいと思うけど」
「自分の魔力全部使うとどうなるんだ?」
フォル君の質問にソラがそう聞き返す。
「魔力が回復するまで自分の体が動かせなくなって、気分もだるくなるね。特に初めて使う人がそれをやると体調を崩してしまうこともあるよ」
「じゃあ、魔力5割の勝負で良いんじゃない?」
「全力でやりたかったけど、それなら仕方ないな」
そんなわけで、それぞれ自身の魔力の5割状態の魔力体でも勝負をすることになった。
魔力量が比較的少ないおれに有利になったともいえるし、フォル君とクラウさんの二人は軽戦士のようだから魔法を使うおれとソラが不利になったとも言える。
ちなみに、フォル君とクラウさんの二人のダンジョン適性は聞いたところこんな感じだ。
【名前】 フォル
【体力】 C
【魔力】 E
【攻撃力】 D
【防御力】 B
【素早さ】 B
【知力】 B
【運】 C
【総合】 C
【名前】 クラウ
【体力】 C
【魔力】 C
【攻撃力】 B
【防御力】 B
【素早さ】 B
【知力】 C
【運】 A
【総合】 B
驚くべきはフォル君のダンジョン適性がCでおれと同じ前世持ちであったということだろう。前世持ち二人が同室になったのは偶然なのかそれとも仕組まれたのか……。
フォル君の前世の話も少し聞いてみたかったのだが、前世のことについてはあまり触れてほしくなさそうであった。
それに、前世のことについて聞くのは基本的にマナー違反なことらしい。明確に禁止されているわけではないが、前世が何者であれ大事なのは今であるという考えがこの国では定着しているようだ。
だから、両親もおれの前世について詳しく聞いてこなかったんだな。
シエルは知らなかったんだろうが。
おれも前世については話せないことが多いので助かった。アストロ学園の入学取消しはもうないであろうが、この世界では前世持ちはダンジョンで死んだ者だけということがフォル君の話を聞く限り、思っていたよりも常識になっている。
だから、ぼろが出ないようおれは前世のことは秘密ということにしておいた。無駄に波風立たせる必要もないからな。
「じゃあ、使い方を説明するから僕が最初に使うよ」
「よろしく!」
最初にフォル君が使うようだ。
「まあ、すごく簡単なんだけどね。まず、ダイヤルを回して魔力体に分け与える魔力量を決める。今回は5割だね。そして、扉を閉めて右手をこの台の上に乗せると……」
フォル君がそう言って扉を閉めると、フォル君の右胸の辺りが光り始め、魔力体製造機からブーンという音が出だした。
そして、その光は分裂し、フォル君から離れた方の光と共に魔力が一箇所に集まり始め、それがフォル君の体を形作っていく。
そして光が収まると、フォル君が中から出てきた。
「すげー!フォルが二人いる」
「確かにすごいな。それに、服装もきっちり再現できるのか。もしかして装備も複製できるの?」
「うん、できるよ。その代わり自分の魔力がそっちに結構な割合で持って行かれちゃうけどね」
「なら、もう魔力体でダンジョン攻略した方が良くない?」
「それは無理だと思うよ。この魔力体、普通の人なら戦闘しなくても1日持たない位だしね。それに、1日に2体以上の魔力体を作ることはできないし」
「なるほど。そりゃ無理だ」
ダンジョン攻略を一日で終わらせることはほぼ不可能だからな。安全に探索できるというメリットもあるが、安全に探索しようと思えば、早めにエスケープストーンを使えばいいだけであるので、わざわざ魔力体で探索する必要性は低いし。
「次はボクが使うね」
そう言って次はクラウさんが魔力体を作る。その後、おれとソラも魔力体を作り、模擬戦の準備は整った。
「あ!そういえば、魔力体に回復魔法は効果ないからね。無駄に魔力を使うことになるから、もし使えるとしても使わない方が良いよ」
「まあ、回復魔法は生身じゃないと効果ないよなあ」
「え!?リッキー回復魔法使えるの?さすが支援魔法使いだね!」
「まあ、それくらいはね」
火、水、風、土の基本四属性の魔法と違い、回復魔法をはじめとする聖属性魔法は使い手が少ない。
まあ、その回復魔法も今ではポーションの下位互換となってしまっている部分が大きいのであまり自慢にはならないのだが。
「あと、右胸の部分が魔力体の核になっているからここを攻撃されると即消滅するから気を付けた方が良いよ」
「じゃあ、そこを狙って攻撃すればいいわけだな」
「狙えるならね」
ソラが好戦的にそう言うが、フォル君も挑発的に返事をする。
まあ、それについては別段気を付ける必要はないだろう。そこを攻撃されたら死ぬのは生身でも変わらないし。
「じゃ、おしゃべりはこのくらいにして訓練室に行こうか」
フォル君がそう言って訓練室に向かって歩き始めると、おれたちもそれに続いた。




