第十二話 ダンジョン見学
「着いたぞ!ここがダンジョンの入り口『探索者ギルド』だ!」
「え、ここ?」
ここまでの道中、ダンジョン関連の店が増えていたので目的地はもうすぐだとは思っていたが、建物の中にダンジョン?
一体どういうことだ?
「そうだ。この探索者ギルドの奥にダンジョンの入り口がある。まあ、中に入ってみれば分かるさ」
扉を開けると中には人がまばらにいた。前世で読んだラノベとかだとこういうギルドの中は荒くれ者たちで騒がしいイメージだがそんなことはあまりなかった。
「思ってたより人が少ないね。道中にあった店の中の方が活気あるぐらいじゃない?」
「まあ、時間も中途半端だからな。いくらダンジョンの中は昼夜が関係ないとはいえ朝から潜るやつが多いからな。それに、普通は何日もかけて泊まり込みで探索するからギルドにいる人数は大体こんなもんだよ」
「あれ?ダンジョンの中って『エスケープストーン』でいつでも戻ってこられるんじゃなかったっけ?もしかしてエスケープストーンってものすごくレアな道具だったりするの?」
『エスケープストーン』はダンジョン内のみで使える使い捨てアイテムのことである。魔力を通して起動すればいつでも入口まで転移できる。タイムラグもほとんどないので、戦闘中でも使用可能だと記憶している。また、魔力消費もなぜか大したものではないようなので、ダンジョン攻略には必須のアイテムであると調べた本の中で書かれていた気がする。
だから、ほとんどの探索者は日帰りで探索しているのだと思っていたのだが……。
「いや、エスケープストーンはダンジョンを少し探索すれば手に入るからそんなに高価でもないぞ。一応ここの2階で、1個1000ターラーの値段で売ってたはずだが、初心者以外誰も買わないしな」
「そうだよね……じゃあ何でわざわざ泊まり込みなんてするの?」
「階層更新するためと……『セーフティゾーン』が割と快適だからだな」
「『セーフティゾーン』って魔物が入って来れない場所のことだったよね?」
「基本的にはそうだ。だが、要所で特別な『セーフティゾーン』があってな。そこではトイレがあったり、しばらくいると、珍しくて美味い料理が食べられたりと良いことが多いんだ。たまにそれ目当てでダンジョンに入るやつもいるくらいだぞ」
「おお、それは楽しみだな!」
食べることが大好きなソラがそれを聞いてテンション上がっている。おれは食にそこまでこだわっているわけではないが、やはり料理の質は前世の方が良かったなあとは思う。この世界の料理もまずいわけではないので、全然問題ないんだが。
それはともかく、そんな休息にピッタリな場所がダンジョン内にあるのか。
それならわざわざ戻ってくる必要もないのかもしれないな。
「ねえ、ダンジョン攻略する時、1階層あたりどのくらいの時間がかかるの?」
「そうだなあ。父さんたちのPTだと早い時で2、3時間、時間がかかった時でも半日くらいで次の階層にいけたな」
それなら、10階層一気に突破するのに最大で5日くらいかかるってことか。いや、父さんのPTは50層を突破するレベルの上位PTということを考慮すると、最大で1週間は見ておいた方がいいかな。
「あの奥にある扉は何?」
「あれがダンジョンの入り口さ。あの扉の向こうが階段になっていてそれを下ると、もうダンジョンの中ってわけだ」
なるほどね。ダンジョンの入り口の上に探索者ギルドを建ててしまったわけだ。
魔物が飛び出してくるスタンピードとかがないなら、利便性を重視してこうなるわけか。
そんなことを考えているとソラも何か気になるものがあったのか、父さんに質問している。
「グラントさん、あそこに貼ってある紙は何が書かれているんですか?」
「あれはPTメンバーの募集についている紙だな。見るのは自由だから見てきたらどうだ?」
「見に行こうぜ、リック」
「おう!」
PT募集かぁ~。やっぱり支援魔法使いの需要は少ないんだろうなあ。
そんなことを考えながらあまり期待せずにPT募集の掲示板を見た。
しかし、結果は意外なものであった。
「う~ん。魔法戦士の募集はねえなあ。ってか支援魔法使いの募集多くね?」
「おれもそう思った。意外となりたい人がいないだけで人気なのか?」
意外にも支援魔法使いのPT募集は多かった。
恐らく魔法戦士の募集がないのはなり手が少ないからと前衛、中衛、後衛の区別が分かりにくいからであろうが、なぜ支援魔法使いの募集が多いのだろう?
「ねえ、父さん。何で支援魔法使いの募集が多いの?不人気ロールじゃなかったの?」
「よく見てみろ。支援魔法使いの募集をしているPTはどこも初心者に近いPTだろう?」
「あ、本当だ。じゃあ、支援魔法使いは初心者PTには人気ってこと?」
「う~ん。そうとも言えるし、そうでないとも言える」
何だ?その煮え切らない返事は。
「どういうこと?」
「初心者PTってまだあまりお金を持っていないことが多いだろう?」
「まあ、そうだろうね」
「だから、マジックバックを購入せずに探索するPTもあるわけだ。もしくはマジックバックが手に入る30層以降で、自力で手に入れようとするPTもある」
「うん、それで?」
「つまり、支援魔法使いを道中の『荷物持ち』として募集するPTが多いってことだ。場合によっては、5人しか入れないボス部屋の前で『エスケープストーン』で先に戻ってもらうことも……」
「それって戦力として見られてないってことじゃん!」
まさかそんな落とし穴があったとは……。
しかし、同時に納得もできた。武器を使わない支援魔法使いは荷物を持ちながらでも戦闘への支障は比較的少ない。だから、支援魔法使いがPTの荷物を多めに持つこと自体は合理的であるともいえるのだが……まさかボス戦に参加させてもらえないこともあるとはなぁ。
「いや、それ以外にも役割はあるぞ。支援魔法使いは聖属性魔法を使えるからポーションの節約になるし、トラップ対策や装備の管理も行ったり……」
「全部戦闘にあまり関係のないことじゃん……」
いや、分かってた。分かってたよ?支援魔法使いがダンジョン攻略に必要とされていないことくらい。
でも、ちょっと期待してしまった後でその扱いを聞くと、妙に落ち込むなぁ。
「それに、報酬も3分の1で良いらしいしな!」
「おい。ソラ!今、それ言わなくてもいいだろ!」
「ははは」
「笑い事じゃねえ!」
「でも、好きなんだろ?下剋上。ならこういう状況の方がやる気でないか?」
そうだよな!負けると思っていないやつに勝つのは大好物なんだよなあ。
そう考えるとこの状況はめっちゃおいしいのでは?
よし!やる気出てきた!
「確かにそうだな!ますますやる気がでたよ」
「おう!支援魔法使いと魔法戦士、どっちも人気ロールにしてやろうぜ!」
うん、ごめん。おれがやる気出した原因はそんな純粋な理由じゃないんだ。
まあ、いいや。過程なんてどうでもいいだろ。特に内心のことなんて。
「そろそろいい時間だし、昼食にしないか?ここの3階は食堂になってて結構うまいんだぜ?」
「うん、そうしよう」「それは楽しみだぜ」
そんなわけで3階の食堂に行くことになった。
●
食堂にはそれなりの人がいた。しかし、満席というほどでもないのですぐに席に着くことはできた。
そして、メニューを選びに行こうとしたところで声を掛けてくる人物がいた。
「お!グラントじゃねえか。久しぶり!」
「アイナか!久しぶりだな」
どうやら父さんの知り合いだったようだ。
そのアイナという人物はローブや帽子などいかにも魔導士といったような服装をしており、勝ち気で活発そうな雰囲気のある女性だった。特に、その燃えるような赤髪は彼女のまとう雰囲気にとても合っていた。
「どうしてここに?もしかして探索者に復帰したのか?」
「いや、違うよ。今日はこの二人がダンジョンを見てみたいっていうから連れてきただけでおれはその付き添いだよ」
「そうだったのか。初めまして。あたしはアイナだ」
アイナさんがおれたち二人に気付いて挨拶してきたので、おれも挨拶を返すことにする。
「はじめまして。リックです」「ソラです」
「二人ともよろしく!あ、どうせなら一緒に食べないか?食事、今からだろ?」
「ああ、そうしよう。いろいろ話したいこともあるしな」
そんな感じでアイナさんと一緒に食事をすることになった。ダンジョンの話をたくさん聞けると良いなあ。




