股間潰しの悪役令嬢のヤキ直し転生譚
早朝テンション一時間で書いたものです。
「クレア=ヴァーミリアン嬢!僕は君との婚約を破棄する!」
「え?」
気が付いたらパツキンのイケメンが目の前にいて、真剣な面持ちでそんなことを宣っていた。
そのパツキンの一歩後ろには、黒髪ロングの小動物みたいな女の子がパツキンの裾をつまんでいる。
「聞こえなかったのかクレア!ならばもう一度言ってやろう!僕は君との婚約を破k」
「あ"ァ!?初対面の人間にいきなり婚約破棄たぁどう言う了見だァ!?」
「なっ、な、なぁっ……!?」
「ひっ……!?」
そんな返し方をされると思っていなかったのかあからさまに動揺するパツキンと、怯えたように背中に隠れる黒髪ロング。
しかし構わずにパツキンの胸ぐらを掴み上げてデコとデコをぶつけさせる。
「初対面の相手にゃ「初めまして」が基本だろうが!テメェんとこの先公はハナタレ小僧でも出来る挨拶すら教えてねぇってのかアァン!?」
「きっ、きさ、貴様っ、ぶぶ、無礼な……」
「つぅかテメェさっき婚約破棄とかなんとか言ったよなァ?はんっ、どうせアタシゃ出逢いも合コンもクソもヘッタクレもねぇクソ上司に使い潰されるために入社したアバズレさね!」
勢いよく胸ぐらから手を離し――パツキンの股間をわしづかむ。
「いっ、ぎぃっ!?」
「そんなアバズレに一瞬だけでも婚約者にしようと思うなんざテメェのコレはなんだ飾りか!?邪魔だってんならもぐか!?もいでやろうか!!」
「あがっ!ぴいっ!ごぽぉっ!あっ!やっ!やめっ!あひゅゥんっ!?」
わしづかんだブツを握り締めながら引きちぎらん勢いで前後左右させる。
すると黒髪ロングがおずおずと顔を出してくる。
「あ、あ、あの、クレ、クレアさま、お、おやめ……」
「じゃかましい!チチ臭い小娘は引っ込んでな!アタシは今このボンクラとOHANASHIしてんだよ!ピーピー喚くんならその黒髪ロング全部バリカンで景気よくいってやろうか!?」
「ぴぇんっ!?」
黒髪ロングを黙らせてから、パツキンを蹴り倒して股間だけを持ち上げる。
「ああああああああああああああああああああ!!もげるっ!もげるぅっ!?」
「会って間もねぇ野郎のブツなんぞどうだっていいがなぁ、婚約を破棄するってな新手の嫌がらせか?イイねイイねぇ最高に皮肉が聞いてるよ、なァ!!」
パッと股間から手を離し、トドメとして一発蹴りを入れてやる。
「お、び」
当然、股間に。
「けっ、極小でも皮被ってゃ臭うもんだなあーイカ臭えったらありゃしねぇ!!」
クレア=ヴァーミリアン。
前世ではブラック企業のOLでかなり有能な人材であったのだが、肩書ばかりの無能上司にパワハラを受け続け、ほとんど家にも帰れない寝てない食べる暇があるなら栄養ドリンク一本とか当たり前の状況の中、ついにカチキレて上司やら周囲の社員やら通報されてきた警察官までもをフルボッコし、その最中あまりの環境の悪さに加え興奮しすぎたせいで脳の血管が切れ、そのままご臨終。
そしていつの間にか赤い髪の悪役令嬢に転生していたと思ったらいきなり婚約破棄されたので、またキレた。
ちなみに、入社以前は元ヤンだったとか。
元ヤンブラックOLが悪役令嬢に転生し、婚約破棄者の股間を潰し、堕落したヴァーミリアン家にヤキを入れる戦いが今――始まらないでくださいお願いします。
「いやはやクレア嬢、本日もお日柄もよく……」
「あ?なんだカネか?カネが欲しいのかこのブタ野郎。あたしゃ今ブタの世話なんざしてる暇は無い。一枚やるからとっととけぇんな」
揉み手をする小太りの貴族の顔面に銅貨一枚投げつけてやり、
「テメェの担当してる所だけが微妙に収支が合ってないんだがどゆこった?まさかチョロまかして懐に納めたりしてんじゃないだろうね調べさせてもらうよ」
「お、お待ちくださいクレア様!すぐに、すぐに書類の書き直しを……」
「なんで書き直しが必要になる?ちゃんと収支が合ってりゃ書き直しなんざ必要無いさね。やましいことがあるから書き直そうとするんだろう?……さて、どうしてやろうかねェ?」
財政を徹底的に調べ尽くしては不正な役人達を締め上げて、
「クレア様はわしらみたいなドブネズミを人間扱いしてくださった!必ずこの空き地を立派な畑にしてみせますぞぉ!」
「おぅ、困ったことは何でも言いな。悪いようにはしないよ」
「よーし!まずは土壌作りからじゃぁ!者ども!かかれぇーッ!」
「「「「「おぉー!!」」」」」
貧しい生活を強いられる者達をまとめ上げて仕事を与えさせ、
「がーはははははっ!この地は我らローバー盗賊団のものd」
「テメェ人んシマに土足で踏み荒らすたぁいい度胸じゃねぇかゴラァ!」
「せっかく耕した畑どないしてくれんじゃこのダボがァ!」
「おどれらが食っとるシーメーはどこから生まれてくる思とんじゃボケナスどもがァ!」
「捌くか!?捌いたろか!?オメーらの肉掻っ捌いてクソと一緒に畑の肥やしにしたろか!?」
「なっ、何をっ、平民ごときが……って、あっ、痛っ!?鋤がっ!鍬がっ!痛い痛い!ごごごめんなさい!さっさと帰りますから許してくださ、あだっ!?」
無法者には武力を以て駆逐し、
「なに、クレアがおらんだと?大事なパーティの最中にどこへ……」
「ヴァーミリアンご当首!クレア様が見つかりました!見つかりました、がその、下町の酒場で……」
時にはパーティをこっそり抜け出して、
「昔のオレぁ、親と喧嘩ばっかしててな……だから賊になるしかなかった。身寄りのない奴らを集めて一旗揚げてよ、それはそれで楽しかったし、辛いこともあった。でもよぉ、オレはこんなんでいいのかって、時々思うんだぁ……」
「うん、うん」
「もっと他に道があったはずなんだ!つまんねぇ意地なんか張らなきゃ、素直になってりゃ親父やお袋とも仲直り出来て!まともな仕事にありつくことだって出来た!」
「……」
「でも、もう遅いんだ……きっとオレぁ親から愛されてなかったんだ。今更前に出て謝ったって、盗みを働いて人を殺して生きてきたオレのことなんか……」
「バカ言ってんじゃないよ!子どもを心配しない親なんざいるかい!身形と態度改めてから、自分が今まで何やってきたか包み隠さず話して、んで頭下げて謝りゃいい!許してくれるかは分からないけどね、やり直す機会くらいは与えてくれる!家族だろ!?」
「う、うぅっ……クレア様っ、オレ、オレはぁ……ッ」
安酒を片手に悩める若者を叱咤激励しているかと思えば、
「ふ、ふざけるな!これだけの賠償金、我が商会の全財産を売り払っても払いきれるものか!」
「おいおいそりゃねぇだろうマネ=ガメツさんよ。それだけのことをやらかしたって自覚はあるのかい?こっちはこれでも大目に見てやってるんだ、カネ払うだけで済ませてやるってんなら安いもんだろう?」
「だから!その金をどうやって捻出しろと……ヒィッ!?な、なんだそのナイフはっ、脅すつもりか!?」
「脅す?違うねぇ、こいつでテメェの内臓をひとつ残らず切り取るのさ。金が払えねぇってんなら、カラダで払ってもらおうじゃないか、えぇ?」
「は、は……なっ、何でもします!何でもしますからっ、命だけはご勘弁をッ!!」
「そうかい。それなら、この鉱山採掘従事の書類にサインしてもらうよ。一生働いても返せるとは思えないがねぇ」
ヤ○ザ同然の取り立てで悪徳商会を片っ端から潰しまくり、
「なんと野蛮な女だ!とても令嬢とは思えない!吐き気がする!気持ち悪い!私に近寄るでない!この無礼者め!」
「無礼働いてんのはテメェの方だろうが公爵サマよォ。地位に鼻かけてりゃ何やっても許されるとでも思ってんのかい。女の扱いひとつ出来ねぇ公爵なぞ、お家のお先真っ暗だねぇ?」
「衛兵!衛兵!今すぐこの無礼者をつまみ出s」
「テメェが売ったその喧嘩、アタシが買ったんだ。さてさて、今宵は"武闘"会と洒落込みましょうか?もちろん二人きりでなァ!!」
「ぶべらっ!?べらっ!?ふぶげらっ!?ひでぶっ!?ごぶしっ!?」
爵位を鼻に掛ける公爵には鉄拳制裁をぶちかまし、
「ぬぅっ……クレア様がよもやここまでお強くなられているとは。親衛隊長の肩書きも返上せねばなりませんな」
「アタシをここまで鍛えてくれたのはあんただ、親衛隊長。あんた無くしてアタシはいない。誇りに思っていい」
兵隊に混ざって訓練を受けては親衛隊長を打ち負かしたりしていたら、
「クレア!今日を以てお前から爵位を剥奪し、追放する!」
当主たる父親に追放を言い渡されてしまった。
「何故ですか父上。私に何か問題でも」
白々しく丁寧な口調で澄ました顔で返す。
「財政の横領や悪徳商会の跳梁跋扈を可能な限り減らし、しっかりと税を課した上で民草に農地を与え、無法者どもから領地を守り、悩める者に手を差し伸べ、己の身を自分で守れるように鍛錬を重ねていただけですが?」
「その全てだ!お前は我がヴァーミリアン家に相応しくない態度と行動を取り続けているではないか!私の顔に泥を塗っていることに気付いておらんのか!」
「何を仰る。父上こそ我がヴァーミリアン家に相応しくないことをなさっているではありませんこと」
書類の束を投げ付けてやる。
「何ですの?この夥しい数の汚職は?これに比べれば、実際に結果を示している私の行いなど、些細なものでしょう?」
「なっ、ば、バカな……どうやってこれを調べたと……!?」
自身の汚職を明るみにされ、泡を食う当主。
「しかしまぁ、当主たる父上から追放を言い渡されては仕方ありません。今日限りで父上との縁もおしまいです。さようなら」
一礼してから、退室する。
この日、クレア=ヴァーミリアンは追放され、その後の行方を知る者はいない――。
が、その数日後。
「何事だ、これは何の騒ぎだ!?」
「ご、ご当主!領内の平民達が一斉蜂起した模様です!」
「な、なんだと!?」
領地内では、平民達が鋤や鍬、鉄パイプなどを手に兵隊達を圧倒している。
「クレア様を追放するたぁいい度胸じゃねぇかゴラァ!」
「クレア様を蔑ろにするなど言語道断じゃボケェ!」
「クレア様のおかげでどんだけ甘い汁が吸えたと思ってんだ腐れ外道がァ!」
「クレア様!」「クレア様!」「クレア様!」「クレア様!」「クレア様!」「クレア様!」「クレア様!」「クレア様!」「クレア様!」「クレア様!」
鳴り止まない「クレア様」コールの嵐。
その中心にいるのは、他でもないクレア=ヴァーミリアン本人である。
「祭りだ祭りィ!革命と言う名の祭りだァ!みんなぁ、存分に楽しんでいけよォ!!」
「「「「「うおぉぉぉぉぉーーーーー!!!!!」」」」」
クレアの鼓舞により、民衆達は次々に雪崩込んでいく。
兵隊ももはや役に立たず、制圧も時間の問題とされた。
「ここはもう保ちません!ご当主、どうかお逃げを!」
「くっ、何故だ!?何故こんなことに……!?」
「どこに逃げようってんだい?」
どかりと観音扉を蹴り開けて現れる、クレアと数十人の平民達。
「ケジメの時間だな、父上」
「クレア!貴様、実父たる私に、育ててやった恩を仇で返すつもりか!」
「生憎だがね父上。"アタシ"はあんたに育ててもらった覚えはないよ。アタシからすりゃ、あんたは目の上のたん瘤でしかない」
「分かっているのだろうなクレア。肉親を弑し奉る手段を取ったお前には、地獄が待っているぞ」
「はんっ、地獄に墜ちたこともないくせによく言うよ。でもまぁ、肉親としての最後の情けだ。せめて、アタシがこの手で葬ってやる」
手にしたブレードを構えて、ゆっくりと迫る。
「ま、待てっ!汚職の全責任は私が取る!その上で私が追放処分を受けよう!だから……」
「見苦しいねぇ父上。ま、あんたにゃお似合いの末路か」
ゆらりとブレードを上げて、
「ザマァwww」
鮮血が絨毯を染めた。
かくして、『ヴァーミリアン家の革命』は幕を閉じた。
ヴァーミリアン家の新たな当主は、クレア=ヴァーミリアンが受け継いだ。
「ひいぃっ、クレア様だ……!」
貴族(特に男)からは恐れられ、
「キャー!クレア様ァー!」
貴族(特に女)からは羨望の対象となり、
「クレア様!今年も豊作ですぞ!あなた様はわしらの女神様ですじゃ!」
平民達からは女神と崇め称えられ、
「いいか?あの領地にだけは近付くな、化け物みてぇな農民どもに殺されるぞ」
盗賊達からは化け物扱いされる。
そして、
「クレア=ヴァーミリアン嬢!僕は君との婚約を破棄する!」
「テメェみてぇなボンボンなんざこっちから願い下げだゴラァ!」
「あがっ!?いぎっ!?うぐっ!?えげっ!?おごっ!?」
婚約破棄者達からは、『股間潰しの女帝』と恐れられたのだとか――。
どうしてこうなった。