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1 ずっと待っていた

…………見つけた


 待っていたよ

 ずっと 


 待っていたんだ


 僕の……ロッティ……



ーーーーーー*



 エスターとシャーロットの結婚から三年の月日が流れた。


いろいろな事があった二人だが、今のところ平和に暮らしている。


 21歳になったエスターの凄艶な美貌は更に増し、シャーロットを溺愛する日々も変わらない。変わった事と言えば、以前より随分と伸びた髪を一つに結ぶ様になった事、そして爵位ぐらいだろう。


 結婚を機にレイナルド公爵家から出た彼に、王は新たな公爵位を授与すると決めていた。


竜獣人は少ない、それはどの国においても同じである。他国に出さない為、繋ぎ止める為にも彼等には高い爵位が授与されている。


 エスターにも新たな名と、公爵位を授与すると告げられた。

新たに公爵となれば領地と騎士団まで持つ事になると云われたエスターは「公爵なんて僕には向いてない、それにまだ若いから」と断った。


 それに爵位が高ければ政にも関わる頻度が多くなる。

王女様達に散々振り回されてきた彼は、城に行く事すら嫌っていた。

城に行かず、政にも参加したくないと言うエスター。


「やはり、ヴィクトールの息子だな……」と王は思いつつ、新たに爵位を考えた。


 とにかく、この国に一人でも多くの竜獣人に居てもらわなければならない。政には関わらずとも問題は無い。


 名をどうするか、それもまた王を悩ませた。

竜獣人レイナルド公爵とガイア公爵と共に考え、( 殆ど無駄話ばかりで中々話は進まなかった )漸く名と爵位が決まった。


 二人が結婚して一年後、エスターにはレイナルドの名はそのままに『竜伯爵』という少し特殊で新たな爵位が授与されている。

 この爵位は後に、ディマルカス・ガイアにも授与されることとなる。





ーーーーーー*





「もうそろそろ、隊長を務めようとは思わないのか? お前が務めなければ、私がずっと隊長をする羽目になるだろう?」


 第二騎士団隊長のレオン・ドルモア伯爵が、自身の子供をあやしながらエスターに話す。


「隊長は忙しいだろう? 僕には向いていない」

「出来るはずだ」

「……休めなくなるから嫌だ」

「…………どの仕事も役職も、普通は頻繁に休んだりしない」

「頻繁には休んでいない……はずだよ」


 獅子獣人のレオンには三人の妻がいる。彼には子供が四人、上は三歳になったばかりの娘ライラ、その次に双子の息子、そして今、エスターに抱かせている先々月生まれたばかりの娘。


「次はこの子を抱いてくれ」


 エスターは抱いていた子供をそっとベッドへ寝かせ、レオンの抱いていた一歳の息子を受けとった。


子供はエスターに抱かれると、すぐにスヤスヤと眠りについた。


「……レオンまで、あの噂を信じてるの?」


「ああ、子を持つ親というものは、良いと聞けば信じるものさ。それに、実証されているじゃないか」

「……偶然だろう?」






 三年前、結婚したその年の氷祭りで、エスターはちょっとした事から祭りに来ていた子供を抱くことになってしまった。

10名程だったが、その後エスターにある噂が出来たのだ。


『エスター・レイナルドに抱っこされた子供は、一年間病気をせず、良縁に恵まれる』というものだ。


良縁の方は謎だが、確かに子供達は一年間、誰一人として病気も怪我もしなかった。


 エスターは偶然だと思っているが、周りはそう考えなかった。何故なら、同じ竜獣人のガイア公爵、父親のヴィクトール、兄のオスカーが同じ事をしてもその効果は無かったからだ。ただ、それぞれ別の効能があったようだが……。


 以前その話を聞いたレオンは、自分の子供も抱いて欲しいと伝えた。だが、何度誘ってもエスターはドルモア邸を訪れようとはしなかった。レオンの家では、子供が五歳を迎えるまで家の敷地から外へは出さない。だからエスターに来て欲しかった。


 この度、ようやくドルモア邸を訪れたエスターに、レオンは嬉々として子供を抱かせていた。

もちろん、エスターの妻であるシャーロットも一緒に来ている。


 二人がレオンの屋敷を訪ねた理由、それはソフィアの妊娠だった。


 彼女の懐妊を知ったシャーロットは、自分の事のように喜んだ。

『会って、お祝いを言いたいの』とエスターに頼んだ為、ドルモア伯爵邸を訪れる事になった。



今、シャーロットは、従姉妹のソフィアとレオンの妻達、長女のライラと隣の部屋で話をしている。








 ソフィアの妊娠を、彼女の両親であるディーバン男爵夫妻は知らない。知らせない、と言った方が正しいかも知れない。


 それは、ある事が原因だった。


 事の起こりは、二人が婚約中、エスターがディーバン男爵に渡した金塊と思われる。


 カルロがシャーロットに渡していた指輪をエスターが割ってしまった。返す際に、指輪の修理に使えるだろうと、エスターは持っていた金塊を割れた指輪と一緒に送り渡した。

 それはエスターがシャーロットに渡した指輪と同じ額ほどの物だった。指輪を作り直すならばそれぐらいだろうと渡したのだ。


 だが、ディーバン男爵はそれを元手に、性懲りも無くギャンブルに手を出した。


 夫妻は、以前もそれでシャーロットをドルモア伯爵に売り渡している。


 一年ほどはそれなりに遊べた。だが、徐々に負けが重なっていく、そこで止めれば良かったのに、二人は金を借りてでも、ギャンブルをする様になっていった。

 二年目には屋敷にあった金目の物は全て売り払い、屋敷までも売りに出していた。

 それでも彼等は賭け事を止める事はない。


 不思議な事にもう底を尽きると思う時に限って、運が回ってきたように勝ち、金が増える。一度底まで落ちてから浮上する、その時の高揚感がたまらなく気持ちがいいのだ。だから彼等はギャンブルを止める事が出来なかった。


だが、それもさすがに長くは続かなかった。


 いよいよ金を貸してくれる者も無くなり、借りていた金の返済を、執拗に迫られたディーバン男爵夫妻は、家に引きこもっていた息子カルロを、男色家と有名なブルク伯爵に養子という名目で売り渡した。


 カルロまでを金の為に売ったと知ったソフィアとシャーロットは、ディーバン男爵夫妻と正式な書面を以って親子の縁を切り離したのだ。



その後、ディーバン男爵夫婦は、この国から突然姿を消している。




ーーーーーー*



 突然姿を消したとされているディーバン男爵夫妻だが、カジノの経営者で、裏の世界で有名な子爵の手により、借金を返す為にある場所で働かされていた。

その事実をレオンとエスターは知っているが、妻達に教える事は無い。




ーーーーーー*




「もういいだろう? 僕はシャーロットについて来ただけで、子供を抱きに来たんじゃないんだよ」


腕の中で眠る子供をレオンに渡す。


「ああ、ありがとう。エスター」




 レオンに手渡したちょうどその時、隣の部屋から叫び声が聞こえた。


「シャーロット‼︎ 」

「シャーロットちゃんっ!」


 エスターが急ぎシャーロットの下へ向かうと、レオンの妻、リシルが彼女を抱き抱えていた。

エスターはすぐにシャーロットを受け取り、抱き抱える。


「シャーロット」


 名前を呼ぶが返事はなく、シャーロットはくたりと力なく目を閉じたまま、エスターの腕に身を預けている。

ただ、命の危機は感じない。深い眠りについているといったところか。


 慌てる事なく冷静に、エスターはその場にいた皆に向かって声をかけた。


「どうしたの?」


たった一言、エスターは普段通りに言ったつもりだが、その声色は恐ろしいほど低く冷たくなっていた。


そこにいた皆は、何も悪いことはしていないはずなのに、ゾクリと背筋の凍る思いをした。


【エスター・レイナルドを怒らせた騎士が、彼のため息で凍った】という噂は本当なんだわ……とその時、妻達は思っていた。



しかし、そんな事は気にもならない幼いライラが、ニコニコと笑いながらエスターに話し始める。


「エチュターおにーちゃん、あのねぇ、その木が開けてって言ったのよ」

「木?」


 ライラが指差す方には、膝丈程の小さな木があった。

部屋の中で異彩を放つ、根が剥き出しの若木は、窓にもたれ掛かる様に立っている。


「ここを開けてって言ったの、ライラ開けてあげたのよ」


次に、窓を指差しながら、ライラは自慢げにエスターに教えた。


「その木と話をしたの?」

「うん! 開けてあげたら、お姉ちゃんのとこに行ったの」

「歩いて? 木が?」


エスターが、目を丸くして聞けば、ライラは大きく頷いた。


「『まってたよロッティ』って言ったの、お手てにぎゅーってしたのよ」


「ロッティ?」

「うん、ロッティって言ったよ」


 エスターは『木』を凝視する。


特に変わった様子はない、初めてみる葉の形ではあるが……


『ロッティ』はシャーロットの愛称でもあるが、その呼び方をする者を僕は知らない。

幼い頃は『シャル』と呼ばれていたはずだ。


だが、ライラの話からすると、どうやらその『木』はシャーロットを狙って来ている。

どうして彼女がここに居ることが分かった?


今日、僕達がドルモア邸に来る事は、他所には知らせていない。



この木は……魔獣? それとも呪いの類?



シャーロットを抱き抱えながら、エスターは考えていた。




 ライラとエスターの会話を聞いていたレオンは、そっと妻達を部屋から出した。


「エスター、こんな事になってすまない。ライラ、その木から離れて、こっちへおいで。 それから至急魔獣術師を呼んでくれ」


レオンはライラを抱き上げながら、ドルモア家の執事に告げた。

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