① オスカーは『花』と出会う
オスカーの『花』のお話になります。
竜獣人には『花』という、ただ一人の愛する人がいる。
成人の頃に必ず出会うと云われているが、オスカーは十八になっても未だ出会えていなかった。
この国では、十六歳で成人となるのに。
もう、二年も過ぎている。
父から『花』のことを聞いたのは一年ほど前だ。
必ず出会う、そう聞かされた。
しばらくして、弟のエスターが先に『花』と出会った。
普通は長子から出会うんだがな、と父は笑っていた。
俺とエスターは容姿こそよく似ているが、性格はまるで違う。
俺は母に似て真っ直ぐで社交的だと云われている。
エスターはどちらかと云えば父に似ていた。父の表の顔じゃない、冷静で表情を出すことがなく、独占欲が強い裏の顔だ。
「お前たち、生まれる順番を間違えたんじゃないか?」
銀の目を楽しそうに煌めかせ、父が言った。
なにもないまま、月日だけが過ぎていく
もしかして俺は『花』に会えないんじゃないか?
そんな不安がよぎる。
エリーゼ王女に気に入られている俺は、王女達の妨害もあり、女性と出会うことも少なかった。
パーティーで出会う貴族の女性達や、騎士団の女性、それぐらいしか出会いはなかったが、そこに『花』はいなかった。
*
俺は『花』といるエスターが羨ましかった。
一つ歳下のエスターは出会えて、俺はどうして会えないんだろう。
何か理由があるのか?
どうやったら『花』と会うことが出来るのか……
そればかりを考えていた。
ーーーーーー*
あの日はよく考えると、何だか不思議な日だった。
式で使うブーケを作る為に、花屋にドレスを見せるのだとエスターは言った。
「オスカー兄さん、暇でしょ?」
目の前でいちゃいちゃとしながら、花屋にドレスを見せておいてと頼み二人は出掛けた。
ほとんど出掛ける事がないエスターが、珍しくシャーロット嬢を連れて出掛けたのだ。
何故か両親も、使用人達も皆出掛ける事になり、不思議な事に、邸には俺だけになった。
そして、本来なら来るはずだった花屋の夫人が来れなくなり、代わりに娘が来た。
レイナルド公爵邸の庭で、運命に導かれる様に俺達は出会った。
「ティナ……」
竜獣人は『花』を見つめる時、瞳の色が金色になる。
その瞳は『花』にだけ向けられる。
その目で捉え印を付けて自分だけの者にする為に。
ティナに出会い、彼女を見つめる俺の瞳は金色に輝いた。
*
ティナと出会い、『花』だと分かった俺は印を付ける前に彼女の親元へと向かった。
( 印を付けられなかったのは両親のせいだ)
彼女の家に向かうまでに、俺はティナに結婚を申し込んだ。
「急でごめん。それもこんな馬車の中で……」
隣に座って彼女の手を握る。握る手から熱が伝わる。
印を付けたい、このまま押し倒してしまいたい。
俺の中の欲望が顔を出すがまだダメだ。
今、彼女に口づけたら歯止めが効かなくなる。
一度深く呼吸をし、ティナを離さない様に見つめた。
「ティナ、俺と結婚して欲しい。必ず幸せにするし、一生離さない」
「……はい」
金色の目のせいか、見つめ合うティナの目も潤んで俺を焦がれる様に見ている。
分かっている。
いくら魂が惹かれ合うといえ、出会ってすぐに心の底から愛して貰えるとは思っていない。
俺の方は、もう彼女しか考えられなくなっているけど。
ティナからの返事を貰ってすぐに、彼女の両親が営む花屋に到着した。
町中にある花屋の店先に、レイナルド公爵の馬車が着けられる。
すぐに彼女を抱き抱え店の中に入った。
ティナの両親は俺達を見て唖然としていた。
俺は割と有名だった。
数少ない竜獣人ヴィクトール・レイナルドの息子。
その俺が娘を片腕に抱いて現れたら、やっぱり驚くだろう。
「あの、オスカー様、もう離してもらっても……」
「ごめん、それは出来ない」
「ええ……?」
一度手にしたら簡単には離せない。離れたくない。
俺はティナを片腕に抱いたまま、彼女の両親に事情を説明し、結婚の了承を得た。
「娘をよろしくお願いします」
頭を下げられ、何だか申し訳なく思う。
「すみません、必ず幸せにします。ただ本日は急いで帰りたいので、またひと月程の後に改めてお伺いします」
そう言って店から出ると、既に店先には人集りが出来ていた。
「きゃあ! オスカー様っ!」
「レイナルド令息、どうしてこんな所へ?」
「エスター様は一緒じゃないの?」
「花を買いに来たんですか?」
「どうして女の子といるの⁈ 」
人々が俺を見ようと集まってくる。
「皆さん、すみません!」
そう言って手を挙げると皆静かになり止まってくれた。
皆の方をゆっくりと見回し、笑って見せる。
片腕に抱いているティナを訝しげに見ている者達もいる。
よくないな……
「私、オスカー・レイナルドは、ティナ・マリベル嬢と結婚する事になりました。竜獣人の私も、やっと運命の相手に巡り会えました」
「運命の……そうか、獣人は番がいるのよね」
「エリーゼ王女様が相手じゃなかったのね」
「おめでとうございます!」
「お嬢ちゃん、よかったね!」
「ティナちゃんと結婚するなら、オスカー様はここに来る様になるのかい?」
「何だか分からないけど嬉しいわ」
「いやーめでたい」
パチパチと何処からか拍手が上がり始め、俺は騎士の礼をして微笑むとティナと馬車に乗り込んだ。
これで、ティナの両親に迷惑は掛からないだろうか?
しばらくは公爵家から店に警護を付けておこう。
俺は、エスターの様に過激な女性たちに好かれてはいないから、大丈夫だとおもうが……
弟とは違い、俺は割と人前に出る様にしている。
今、騎士の仕事で見回る町では、俺を見ることは当たり前になっている、だから囲まれる事もなく皆普通に挨拶をする。
滅多に見れないから人は見たくなる。そういうものだと思ってる。
ティナの両親が住む町に、しばらく管轄を移してもらおうか……
それからすぐに公爵邸に戻った俺は、ティナを部屋に連れ込んだ。
……エスター、お前は偉いよ。
この感情の昂ぶりを、一週間もどうやって抑えていたんだ……




