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ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます  作者: 五珠
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
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何で?

 エスターは鳥の魔獣に乗り、家路へと急いでいた。


氷祭りの行われている会場上空に差し掛かった時、シャーロットの気配を感じた。

鳥の魔獣を少し下降させ、見ると彼女がいる。


「何で? 家に居ないの……?」


よく見れば近くにはドロシーとその息子達もいた。

一緒に来たのか……


……なぜ? ドロシーの息子達がいるんだ?



エスターは魔獣にここでいいと告げ、飛び降りた。




 彼には、人気があるという自覚は全く無い。


人が多い所は好きでは無いが、とにかく最短でシャーロットの下へ行きたかった。だから何も考えず飛び降りたのだ。


しかし彼女の近くは人が多く、少し離れた場所に降りることになる。



「シャーロッ……」


 彼女に声をかけようとした途端、人に囲まれた。


腕に縋り付いてくる少年や少女、ベタベタと触ってくる女性達。何故か拳を当てようとしてくる男達、とにかく大勢の人が寄ってくる。


「は、離してください。僕は……仕事中なんです!」


「きゃあ喋ったわ!」

「思ったより、声低いのねぇっ!」


「離れて下さいっ」

 仕事中と云うのは、咄嗟に吐いた嘘だったがそう言うと、体からは離れてくれた。


が、相変わらず囲まれたまま、身動きが取れない。


(どうして人が集まってくるんだ⁈ 父上や王女様が一緒にいる訳ではないのに……)

 




 エスターの父親である、ヴィクトール・レイナルドは王国最強騎士と名高く、外に出ればその姿を見ようと集まる人々から、常に囲まれていた。

オスカー兄さんは、人に見られる事も触られる事も平気の様だったが、僕は苦手だった。

 あれは五歳の頃、父上と一緒に祭りに行った時だ。こんな風に大勢の人に囲まれた。

息子さんを抱っこさせて欲しい、と女性に言われた父上は『好きなだけどうぞ』と笑って……小さかった僕は知らない人達に抱かれ、頭を撫でられ、頬にキスをされた。

 気持ち悪くて嫌だったが、それを顔に出す様な事はしなかった。僕は偉大なる騎士、ヴィクトール・レイナルドの息子なのだから。

けれど……それから更に、人が多い所が苦手になった。







 握手をしてくれとせがまれ( 握手は断った。僕はそんな事をする様な有名な人物ではない、ただの騎士だ ) 中には髪の毛を一本くれという女性もいる。

「髪の毛はダメです」

呪いに使われたらたまったもんじゃ無い。


 赤ちゃんを抱っこして下さいと言われて、なぜ? と思いながらも、シャーロットに似た可愛い子供だった為、つい断れず一人抱くと、その後十人ほど抱くことになった。


「あの、僕は仕事中なので、これ以上は申し訳ないですが」

そう言って断りを入れると、横から腕を掴まれた。


「私の子供が迷子なの、探してくださらない⁈ 」


 赤い髪の婦人に声をかけられ、無理に腕を組まれた。

仕事というのは咄嗟に吐いた嘘だったが、隊服も着ている。断り辛い。


「ねぇっ、エスター様っ私の娘、ミーナを探してぇっ!」


ねっとりした声で話す婦人に「分かりました」と答え、とりあえずこの人の子供を探してから、シャーロットの下へ行こうと決めた。



 「あっちではぐれたの、あら? こっちだったかしら?」

会場を探し歩く間、婦人は腕からくっついて離れない。


「あの、ご婦人……申し訳ないが、腕を離してもらえないだろうか。僕は結婚して妻がいる、やめてほしい」

「あら、でもぉ腕を離したら、私が迷子になっちゃうわぁ」


エスターは冷たい目で婦人を見た。

「なってもいいだろう、大人なんだし」

ボソリと呟く。


「何かぁ?」

「いえ、何も」


 祭りの会場を、よく知りもしない婦人と腕を組んで歩く事になった。

その間、僕と婦人を見た人々に「あの人が奥様なの?」と全く不愉快な勘違いをされる。

その度に「違います。人探し中です」と訳を話さなければならない。


(……どうやって見たらこの婦人が、僕の妻に見えるんだよ!)



【騎士たる者、いかなる時も人を助け、守り、優しく接するべし】


なんて父上は言っていたが、僕は嫌だ。もちろん、騎士として人を助けて守るけど、一番に助けて守るのはシャーロットだ。それに優しくするのは彼女だけでいい。



 会場を、ぐるりと周って最初の場所に戻ってきた。

婦人の子供の事は、途中会った警護中の騎士達にも尋ねたが分からなかった。


そう言えば……僕は肝心な事を聞いていなかった。


「ご婦人、娘さんの年齢は? 今日着ていた服など、教えて頂きたいのですが」

「あ……娘? 娘は……十八歳で、私によく似た赤い髪の……」


「その年齢なら探す必要はないのでは?」

エスターが呆れて言うと、婦人はホホホと笑って誤魔化した。


そこに婦人とよく似た女性が声をかけてきた。


「ママ、何してるの?」

「ミーナ!」


 思いがけない娘の登場に、驚いた婦人は、ようやく腕を離してくれた。


「いやだ、ママったら……もしかしてエスター様とデートしてたの? いいなぁ、私も一緒にお祭り回りたいわ……」


婦人とよく似た娘に上目遣いで見つめられ、ウッと一歩下がった。



祭りのザワザワとした喧騒の中


「……シャーロット様‼︎ 」


 ドロシーのシャーロットを呼ぶ声が、スッと耳に入ってきた。

 見上げれば、カフェのベランダにドロシー達がいる。もちろん、シャーロットの気配もある。


「ご婦人、娘さんは見つかった様なので、僕はこれで失礼します」

婦人にそう告げて、トンっと地面を蹴りドロシー達の居るベランダに降りた。



「エスター様、シャーロット様が」



一人で階段を下りようとしているシャーロットを、後ろから抱きすくめた。



「どこに行くの?」

「……帰るの」


 何だか拗ねている( かわいい )……それに少し酔ってる?


甘い匂いがする……ぶどうジュースを飲んだのか?

その上、キャロンの匂いがする……何で?


まさか……


「何でキャロンの匂いがするの? 何かされた?」


キャロンの名前を聞いたシャーロットは、ポッと頬を染めた。


……どういう事だ?



「キャロンさん……助けてくれて、グリューワインを奢ってくれたの……それから……気持ち良い事しちゃった……」


何かを思い出し、恥ずかしそうに話すシャーロット。


「……………………!」


聞いていたドロシー達も唖然としている。

もちろん僕も……気持ちいい事って……⁈



ベランダ席に座っている一組の男女は、何かを知っているのだろう、僕達を見てクスクスと笑っていた。



「シャーロット、どういう事?」


 彼女に尋ねようとした時、キャロンが階段を登って来た。


「その言い方は語弊があります、シャーロット様」


「キャロンさん……」

( ふわふわのしっぽが揺れてるわ……)


僕の腕の中にいるシャーロットは、ウットリとした顔でキャロンを見つめている。


「キャロン……シャーロットに何をしたんだ」

「何もしていません、皆さんとはぐれたと言うからこの見晴らしのいいベランダ席で、探しながら待とうと提案したんです。それに何かされたのは私の方ですから」

「されたって⁈ 」


驚くエスターに、キャロンは冷ややかな視線を送る。


「シャーロット様の魅力は、身をもって分かりました」


「まさか君は、今度はシャーロットを狙って……」


「違います! 全く、こんな嫉妬深い男だと思わなかったわ。泥棒を捕まえて、心配して戻って来てみれば……何なのよ」

「嫉妬深いって……僕はそんな男じゃない」

「どうだか」



キャロンはシャーロットに向けて柔らかく微笑むと、手を差し出した。


「シャーロット様、触らせてあげますよ?」

フワリと尻尾を振って見せる。


「……えっ、いいの⁈」

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