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ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます  作者: 五珠
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
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敵わない

 

 俺は城の北側にある館に住むことになっていた。


 その館は、姫様と兵士の幽霊が出ると有名な『北の塔』が見える場所にある。

俺に与えられた三階の部屋からは、そこがよく見えた。

見えたというより……窓を開けると真正面には林と北の塔しか見るものがない。


 誰も恐れて近づかないというその場所に、俺は興味を持った。毎夜、その塔を眺めたが、半年が過ぎても一度も幽霊など見ることはなかった。

( 噂だけか……だよなぁ)



 かなり高い塔だ。

まず外から入る事は不可能だろう。落ちたら命は無さそうだ。中から入る事は出来るが登るだけでも一苦労だな。

 あの周りは結界も薄くなっている。

多分上手く張れないんだろう、俺がもう少し力をつければ魔獣を呼び出せるほど薄いな……と考えていたその時、青銀色の光が塔の上へと登って行くのを見た。

俺は目がいい( 割とね)


「あれは……何だ?」


 小さな声で呪文を唱え、手のひらに光る魔獣を呼び出す。コイツらは悪さをする物ではない為、結界にも引っ掛かる事はなく呼び出せる。

光る魔獣、『ピカリム』( と俺は呼んでいる ) を北の塔へ向けて飛ばした。

「あの窓に飛んで行け」

「キュ」

風に乗る様にフワフワと飛んでいったピカリムが、塔の窓へたどり着いた時とほぼ変わらない時間。


タンッと音がしたと思った時には、部屋のベランダに、ピカリムを手に乗せた端麗な男が立っていた。


「君がコレを飛ばしたのかな?」


かなり棘のある言い方をされた。


「あ……はい、そうです」


その男は俺の手にピカリムを返す


「ちょっと……いま良いところなんだ、よければそっとして置いてくれ。……それから私があそこに居ることは秘密だからね、ジークくん」


 恐ろしい程美しいその男はそう言うと、トンッと軽くベランダを蹴り上げて北の塔へと飛んで行く。

青銀色の髪が月に照らされ、流星の様に輝いて見えた。


 後に、その人は竜獣人、マクディアス・ガイア公爵だと知った。


 俺は俄然、竜獣人に興味が湧いた。

エリーゼ王女の好きなヤツも竜獣人だ。

あんなに高い塔に軽々と登り、魔獣術師以外、簡単には触れる事の出来ないピカリムを、手のひらに乗せることが出来る、そんな種族。


すげぇ……


 

 そして俺は知った。竜獣人がいかに凄い種族なのか、それから成人した一部の獣人しか知らない竜獣人の『花』の事。

エリーゼ王女の想いは……たぶん届くことはない事を。


だったら


俺、諦めなくてもよくないか?



……いや、相手は王女様、それも第一位の継承権を持っている。

いつか彼女は婿をとる。侯爵以上の爵位を持った男、若しくは他国の王子と結婚するだろう。


 俺には爵位はない。その俺が、彼女と結婚するにはどうしたらいい?


ああ……

そうか、俺は貴重な魔獣術師なんだ。だったら……


 この国で召喚の出来る魔獣術師は、テス師匠一人、俺はまだ召喚が上手く出来ないから見習い扱いされているが、上手く出来る様になれば……爵位はなくともその地位は。


まだ子供だった俺はそんな風に考えた。



 そこから六年、俺は頑張った。魔獣討伐にも積極的に参加して、騎士が聖剣で始末する前に、片っ端から魔獣を捕まえて使役できる物を見つけた。


 魔力をもっと上げるために体も鍛えた。

元々女の子みたいだと言われるほど細く、小さかった体は、成長とともに身長も伸び、細身だが筋肉のついた体になった。


 容姿は……好みにもよるだろうが、割とイケてるんじゃないかな?

城で働く女の子達からも、かなり声をかけられる様になった。

貴重な魔獣術師だから……だけじゃないよな?


 けれど、俺が頑張って体を鍛えても、女の子達にチヤホヤされていても、たまにすれ違うエリーゼ王女は俺を見てはくれない。


 何年経っても、エリーゼ王女はやっぱりオスカー令息を好きだった。俺がどんなに彼女を想っていても、それはただの一方通行でしかない。

 自分が好きなだけじゃダメなんだ、と気付くのに一目惚れから三年もかかった。俺がどう足掻こうとも、彼女と結婚出来る可能性は限りなく低いことも知ってしまった。



 それからはエリーゼ王女の事を諦めるように、言い寄ってくる何人かの女の子と付き合ってみた。

……が、やっぱり違う。

 それに俺は忙しくて、中々付き合った彼女と会うこともままならない。すると彼女達は離れて行ってしまう。結局、俺はどの娘とも長くは続かなかった。





**




 エリーゼ王女はどんどん綺麗になっていく。


 侍女やメイド達は、彼女の事を陰で『ワガママ王女』だとか『一番じゃないとすぐ怒る』とか言っているけど、それの何処が悪いんだよ?


彼女は王女だ。将来、女王になるかも知れない、ワガママが言えるのは今だけだ。



 オスカー令息の事に関しては……確かに我儘かも知れないけど。

彼が登城すれば、何もかも放り出して会いに行くらしいから……それほど会いたいと思われるなんて、どんな奴なんだ……俺は未だ彼を見た事がない。


見たいとも思わない

……見る勇気がない、それが本音。






**





 魔獣を召喚する訓練は、城の一角にある訓練所で行われる。そこには特殊な結界が張ってあり、獰猛な魔獣を呼び出せるようになっていた。


 召喚訓練の時には、必ず騎士を側に置かなければならなかった。

コレは俺にとっては召喚訓練、騎士にとっては魔獣討伐の演習になる。それに魔獣駆除だな。

 始めたばかりの頃は小さな魔獣しか呼び出せず、騎士も一人か二人だったが、今はかなり大きな魔獣を呼び出せる為、側に置く騎士も四、五人は必要だ。


「あ、ジーク様! 召喚訓練ですか?」

 訓練の申請書を出した俺に、事務官の女性が首を傾げ、見上げながら聞いてくる。彼女にとってはかわいいポーズらしい。

……まぁ、悪くはない。


「ジーク様、今回は何人程お呼びしましょうか? また、ガイア公爵閣下でも大丈夫ですよ」


 先月、訓練の時にガイア公爵に来てもらった。

かなり獰猛な魔獣を呼び出したのに、あの人はあっと言う間に倒してしまう。それも一人で。

さすがというか……


「どうされますか? それとも獣人騎士を五人程呼びますか?」

事務官の女性は、俺のことを気に入っているらしく、いつもグイグイ寄って来て話す所がちょっと苦手。

( あんまりそっちから来られると引く……)


「……レイナルド公爵閣下とか呼べたりしますか?」


 ガイア公爵が来てくれるんだ、同じ竜獣人のレイナルド公爵でもいいだろう、そう思って聞いてみた。


「あ、だったらオスカー・レイナルドを呼びましょう。彼は今年、騎士になったばかりですが、あの人なら一人でいいですしね」

「えっ、オスカー……騎士になったのか」

「そうなんですよぉ。入って間もないけどね、やっぱり竜獣人だから強いんです。ただレイナルド公爵閣下の意向で一番下っ端からなんですよ、だからすぐ呼べます」




**




 当日現れたオスカー・レイナルドは、美しい少年だった。

凛とした顔、スラリとした体躯、清艶な青い目が意志の強さを表している……


こいつが……エリーゼ王女の好きなヤツか……




「本日はよろしくお願いします」

俺が挨拶をすると、オスカーは少し緊張した様に返事をした。


「は、はい。こちらこそ宜しくお願いします」


( ふうん、竜獣人でも緊張するんだ……)



「では、早速始める」


 俺は呪文を唱えながら手のひらを空へと向ける。

何も無かった空間に光の魔法陣が浮き上がる。

それを初めて見たオスカーは目を輝かせていた。


魔法陣の大きさで魔獣の大きさも変わる。とりあえず、中位の物を出した。

コレから出てくる魔獣はさほど強くはないはずだ。……それでも一般の騎士が三人がかりだろうが。

 そう思っていたが、現れた魔獣を、剣を抜いたオスカーがあっという間に消し去った。

彼の銀色の長い髪がサラッと靡く。


「……大丈夫か?」


 少し驚いてしまった。騎士に入って間もないと言うのに……やはり竜獣人は違うのか。


オスカーは俺に向けて爽やかに笑う。

「はい、全然大丈夫です!」


軽い感じで答えられてしまい、それに何故だかムッとした俺は手を上げ、またすぐに呪文を唱えた。

「……あっ」( ちょっと大きくなり過ぎた)

グウンッ、とさっきの倍程の魔法陣が広がり、結界がビキビキと音を立てる。


ズウウウンッ!とかなり獰猛な魔獣が出て来てしまった。


「マジか……」

 ボソッと呟いたオスカーの目には愉悦が見えた。

タタタッと走り地面を蹴ると、魔獣目掛けて跳び上がる。そのまま一撃を与えるが、魔獣は倒れずオスカーへ襲い掛かる。オスカーは攻撃をサラリと交わし、また剣を振った。三回ほど繰り返された攻防はもちろんオスカーが勝った。


「……ごめん、ちょっと間違えた」

「いいえ、問題ありません」


息も切らさず、爽やかに笑うオスカーに、俺は敵わないと思った。


 どんなに俺が努力しても、オスカーにはなれない。

生まれながらに彼が持つ美しさも強さも、俺にはない物だ。


 訓練を終え、二人で訓練所から城へと続く廊下に出ると、そこに青色のドレスを着たエリーゼ王女がいた。

満面の笑みを浮かべこちらを見ている。


「オスカー様!」


明るい声で彼女は好きな人の名前を呼ぶ。


「エリーゼ王女様」

王女に気付いたオスカーは騎士の礼をとった。

俺もエリーゼ王女に礼をする。


エリーゼ王女はオスカーを見た後、少しだけ俺に目を向けた。



「あら、ジークの演習でしたの? 上手く出来たのかしら?」

「はい……」


 返事をしたが、エリーゼ王女の視線は既にオスカーに向いていた。


( やっぱりね、俺にじゃないとわかっていたけど…… )

上手く出来たかと聞いたのは、オスカーに対してだ。


その日、エリーゼ王女は、そのままオスカーを連れて行った。



……俺は

いつになったら

君の目に、一番最初に映る事ができるだろう



 去っていく二人の背中を見送りながらそんな事を考えていると、俺の背後から鈴の様な声がした。


「ふうん……ジークって、エリーゼお姉様が好きなのねぇ」

「マリアナ王女様……」


ニンマリと笑うマリアナ王女がそこに居た。


「私が協力してあげるわ」

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