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ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます  作者: 五珠
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
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ダメだよね

 翌日、いつものように仕事へと向かうエスターは、幼くなったシャーロットを見ていた。


いつものように出かける時のキスは出来ない。


出来るわけがない……シャーロットは子供になっているから、それに僕のことは覚えていないのだから……


小さなシャーロットを見つめ「ダメだよね……」とポツリと呟くと、ドロシーに「ダメに決まっているでしょう」と小声で叱られた。

頬にするぐらいならいい気もするが……

などと考えている僕を、幼いシャーロットはあどけない顔で見上げている。


ダメか……


「行ってきます……」


力なく言うエスター


「行ってらっしゃいませ、エスター様!」

 朝早くから、まるでパーティーに行くかのように、完璧に支度を整えたシャーロット令嬢の大きな声が玄関に響く。


「ああ」

その言葉を聞きたいのは君の声じゃないんだよ……




エスターは作り笑いをして出て行った。





「さあ、シャーロット様は私とお勉強しましょうね」

 エスターが出ていくと、シャーロット嬢はシャルを連れて客間へと向かった。その後についてドロシーも入ろうとすると侍女に止められてしまった。


「ドロシー様、大丈夫ですわ、お嬢様はマリアナ王女様の教育係でもあられたのです。子供の扱いは得意ですから」


 そう言うと目の前でパタンと扉は閉められてガチャリと鍵が掛けられた。


心配なドロシーが暫く扉の前にいると、部屋の中から楽しそうな声が聞こえてくる。


……私は気にし過ぎているのかしら……

ドロシーはその場を離れることにした。



 その日の昼食は、シャーロット令嬢とシャルの二人だけで食べた。

いつもはシャル(シャーロット)の希望で皆一緒に食べていたのだが、侯爵令嬢シャーロット様はそれを許さなかった。


本来『シャーロット』が座る席に、当たり前のように侯爵令嬢が座り、シャルはその横に座らされた。


 子供には少し高いテーブル。

スープにスプーンを入れたシャルの手をパチンと侯爵令嬢が叩いた。


「そんな風にスプーンを持ってはなりません」

「……はい、ごめんなさい」


 そんな風に怒らなくても、と口を出そうとしたドロシーを侍女が制止する。


「虐めているのではありませんよ? これはマナーを教えて下さっているだけなのです」

「しかし、シャーロット様は本当は十七歳なのです、今は子供になられていますがマナーなど無理に教えなくとも、元に戻られたらお出来になられます」


「いえ、それでも! 戻られるまでもキチンとできていなければなりません」


強い口調で話をする侍女に、ドロシーはそれ以上言えなくなってしまった。


 その後も、シャルは食べ方や仕草一つ一つを細かく注意された。

その度にシャルの表情もだんだんと暗くなっていく。

食事が終わると、シャーロット令嬢はシャルと共に客間へ入り扉の鍵を掛けた。


 ドロシーは心配で何度も部屋の前に行くが、時折三人の笑い声も聞こえることから、だんだんと特に問題はないのかもしれないと思うようになった。


……先程は、本当にマナーを教えていらしただけよね……子供に対しては少し厳しかったけれど……






 夕方になりエスターが帰って来ると、シャーロット令嬢は「とても良い子でしたのよ」とシャルの話をした。


 話を聞き終えると、エスターはシャーロット令嬢を見据え柔らかな口調で言った。


「今日はありがとう。だが申し訳ないけれど、この家にはドロシーもクレアもいる。貴女にいて貰わなくてもいいんだ、馬車を用意してあるから侯爵家に戻ってくれないか」


「そんな……」

思っても見なかったエスターの言葉に、シャーロット令嬢はふらっとよろめいた。


「だいじょうぶですか?」

そんな彼女に心配そうに声を掛けたシャルを、シャーロット令嬢は抱きしめる。


「ありがとう、シャル様」


シャーロット令嬢が離れると、突然シャーロットが人形のような表情になり、話出した。


「エスターさま、シャルはいやです。シャーロットさまがいないと……さみしいのです」


シャルの言葉にエスターは驚いて彼女を見た。


「……そうなの?」

「はい……いて……ほしいです」


 本当に寂しそうな顔をしているシャーロットに言われては、エスターも無理に帰れとは言えなくなった。






 夕食はエスターとシャル、シャーロット令嬢の三人でとることになった。


 シャーロット令嬢は昼間と同じ様に、『シャーロット』の席に座ろうとする。

それに気付いたエスターは冷たい笑みを浮かべてシャーロット令嬢に告げた。


「すまないが、そこは僕の妻が座る席なんだ」


 エスターはそう言うとシャルを優しく抱き抱え椅子に座らせる。

突然エスターに抱き抱えられたシャルは、シャーロット令嬢をチラリと見て、怯えたように下を向いた。


「あら、私とした事が……申し訳ございません……ふふふ」

引き攣った顔をしたシャーロット令嬢は、その向かい側に座る。


 夕食時はエスターが甲斐甲斐しくシャルに食べさせ「美味しい?」と甘い声で聞いている。

シャルは真っ赤になりながら「は、はい」と返事をしている。その様子を苦々しくシャーロット令嬢が見つめていた。

夕食を終えると、終始不機嫌だったシャーロット令嬢は客間へと戻った。


 ドロシーがシャルを連れてお風呂へと向かう。それを見届けたエスターは、ジェラルドとダンに「ちょっと僕の部屋に来て」と告げた。


 二人が部屋に入ると、長椅子に座って待っていたエスターは見上げるようにして、ジェラルドに聞いてきた。


「シャルの手が少し赤くなっていたけど、何があった?」


冷然と言い渡すエスターに、ジェラルドは目を見開いた。

 私はドロシーに聞くまで分からなかった、いや、聞いてから彼女の手を見たが全く分からなかったのだ。さすが竜獣人だな……


「実は……」


 今日昼間にあった事を話すと、エスターは顔を顰めた。


「やっぱりシャルが嫌だと言っても無理に帰せばよかった……あの人僕の事嫌いだからって、シャルに当たっているのかな⁈ 」


「……は?」

「えっ?」

ジェラルドとダンはエスターが言った事が分からなかった。 二人ともに間抜けな顔をしている。


「だから、バート侯爵令嬢は僕の事が嫌いだから、妻のシャーロットを代わりに虐めているんじゃないのかって事だよ」


分からないのか? 二人とも僕より大人だろ?とエスターは呆れている。


「お言葉ですが、エスター様、なぜバート侯爵令嬢がエスター様を嫌われていると思われておいでなのですか」


「それは……いつも睨まれているからね」


以前からだけどね、見上げるように睨まれるんだ、目が合うとさらに強く睨まれるんだよ……とエスターは言う。


 ジェラルドは唖然とした。横にいるダンは頭を抱えている。


 ローズ様から聞いていた通りだ。この方はシャーロット様以外の女性は認識されていない。


 マリアナ王女様がエスター様をお好きな事は有名だったが、バート侯爵令嬢様もカタルチア侯爵令嬢様もエスター様に夢中だと誰もが知っていたと云うのに……


それに、バート侯爵令嬢様は睨んでいらしたのではなく、見つめていらしたのではないだろうか……



「僕がいない時はシャーロットから目を離さないで」

「はい、それはどちらの?」

「シャーロット、くそっ紛らわしいな、シャルだ、僕のシャーロットの方。頼んだよ、僕最近休み過ぎて父上にもう休むなと言われているんだよ」


「ですが、エスター様が出掛けられると、シャル様を連れて客間に入り、鍵を掛けられてしまうのです。中には入れて貰えず、強く言うことも出来ません」

「……何で」

「いろいろ教えてくださっているらしいのです。時折笑い声も聞こえてきますから、問題はないかと思うのですが」

「……分かった」


 それだけ話すとエスターは部屋を出て、何故かジェラルドの部屋へ行こうとする。


「エスター様? そちらは私達の部屋ですが」

「……一人で寝るのは嫌だ」

「はっ?」

「……シャルと一緒に寝たい」


 青い瞳を潤ませるエスターに、ジェラルドは「分かりました」と言うと、二人を引き連れてダンの部屋へと向かった。


「なんで俺の部屋に行くんだよ!」


 ダンが騒いでいるがジェラルドは気にも止めない。

部屋にいたクレアにドロシーのもとへ行くように伝えると、男三人でダブルベッドに横になる。

細身に見えるが、共に体格のよい三人が横になるとかなりベッドは狭くなった。


「男と寝るのは嫌だ」


 エスターがベッドから出ていこうとするその腕をダンが捕まえた。


「うるさい、お前のせいで俺までクレアから離されたじゃないか!」

屋敷の主人に上からものを言うダンは、今はエスターに雇われているが、騎士としては先輩だった。


「エスター様もダンも静かに寝なさい」


一番歳上のジェラルドが目を瞑ったまま低い声で言う。


「嫌だ、僕は別に寝なくてもいい」

「ねろっ、一人で寝るのは嫌だと言ったのはお前なんだよ!」

「ああっシャーロット……シャルゥ……」






ーーーーーー*




 その頃、ドロシーとクレアと共にベッドに入っていたシャルは、すっかり夢の中にいた。


「ねぇ、クレアどう思う?」

「……シャーロット令嬢ですか?」

「うん、それもだけれどシャーロット……シャル様よ。昼間、バート侯爵令嬢にあんなに叱責されたのにその後も嫌がる事もないし……それに、どうしてご両親の事を聞いて来ないのかしら」


 六歳にしては聞き分けが良すぎるのではないか……ドロシーは思っていた。

もっと親を恋しがってもおかしくはないのだ。昼間のシャーロット令嬢のような怒る大人を怖がって泣いても……



「そうですね、『時戻り草』を使った人に会ったことがないので何とも言えないのですが……本当は記憶があったりしませんよね?」


「えっ⁈ だって、起きてすぐに聞いた時は私達の事もエスター様の事も分からないって言っていたわよ?」


「もしかして後から思い出した……とか、無いでしょうか」

「まさか……」


 二人は寝ているシャーロットの顔を見る。

うつ伏せでスヤスヤと眠る彼女はただの子供にしか見えない。


「もし思い出していたとしたら、私達に教えるでしょう? それにバート侯爵令嬢を引き留める理由も分からないわ」

「やはり、覚えていらっしゃらないということですか」


「そうね……」

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