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ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます  作者: 五珠
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
24/68

心配したんだよ

 頭を優しく撫でる手


今、私に触れている温かい手を


間違える筈はない


……この手は私の愛しい人




「う……ん……」


 私の寝ているベッドに、黒いタキシードを着て仮面を着けた黒髪の男が腰掛けていた。

その人が私の頭を優しく撫でている。


「カ……イン?」

「……⁈ 」


 どうして私を触れるんだろう?

さっきカイン様は防御魔法が発動して触れないと言っていたのに……それから帰ると階段を降りて行ったのに。


「……カイン……しゃま?」

「それは誰⁈ 」


うーん、エスターの声はするのにエスターじゃない。

だって目の前の人は服も髪も真っ黒だ。エスターはキレイな銀の髪だから。


「 ほら、起きて……って、シャーロット」


 黒い人に抱き起こされた。

纏っていた上掛けがハラリと落ちる。

( ……あれ、この人私の名前知ってるのね? )



「なぜ……ちゃんと着てないんだ……」


黒い人は何だか怒っているみたいだ。


「どれしゅ? あーコレはでしゅねー」

「はっ? シャーロット?……酔っ払ってるの?」

「ん?」

「お酒飲んだの?」


違う、と私は頭を振った。

あ……クラクラする。


「のんでないれしゅ、ジューしゅをのんだの……れしゅ」


カイン様はジュースだと言っていた。

確かにおいしいぶどうのジュースだった。


……まぁ、今の状態が正常かと云われたら自信がないけど……何だか上手く喋れないし……



 黒い人は突然自分の髪をぐっと握り引っ張った。


「…………!」


被り物を外したそこから、サラリと銀色の髪が落ちる。

仮面を取ると青い瞳が煌めいていた。


「エシュター?」


 何故黒い人になっていたんだろう?

まるでさっきのお茶会にいた男の人達みたいな格好だ。


「シャーロット、心配したんだよ」


エスターは私の頬を持ちぐいぐいと引っ張った。

「いらい……れしゅ」

「痛くしてるんだよ」

「しどいっ!」

「ああっもう!」


そのまま頬を挟まれ、チュ、とエスターがキスをする。


「なにしゅるのっ」

「かわいい……」

「かわい?」


珍しく彼の目尻が下がっている。


「でもね……」

「でも?」

「なぜドレスがはだけてるんだ 」


さっきの甘く下がった目が、一瞬で凍る様に冷たく鋭い瞳に変わった。


( ……怖いっ! エスターの怒った顔めちゃくちゃ怖いですっ )


「シャーロット」

「は……い」


私はちょっとふらふらしながら、ベッドの上で姿勢を正して彼にキチンと訳を話した。

今の私なりに……ちゃんと初めから話をした。



「あの……れしゅね。おちゃかいが、出あいのばーで、それでダンしゅをおどりました」


「ダンス? 誰と」

「うーん……カインというひとれした。じょうずだって……いってく……れました」


「さっきも言ってたけどカインって誰? 何でソイツと踊ったの? 僕ともまだ踊った事ないのに」

( ああ、やっぱり嫌だったよね )


「ごめんなしゃい、はじめては……エシュターがよかった」

 私は社交界にもまだ出ていない。ダンスもお父様が生きていらっしゃった頃に教えてもらっただけ。最近はローズ様に教えて頂いていて、人前で踊ったのは今日が初めてだった。


「初めて? ダンスが?」

「うん」

「……そうか」


「エシュターは?……おどったことありましゅか?」

( 公爵令息だものね、とっくに社交界には出ているだろうし、 誰と踊ったのかなぁ……)


「えっ、あ……うん……それは」


エスターは気まずそうに私から目を逸らした。


「んんっ? もし……かして、マリアナおーじょしゃまなのねっ!」


「あの、それは仕方なくて」

「はじめて……も?」

「あ……うん練習以外は……そうなるね」


「いいな……マリアナおーじょしゃま……」


 マリアナ王女様は私の知らないエスターを知っている。

当たり前だけど、彼の幼い頃からを王女様は見て来ている。


私はまだ出会ってから三ヶ月にも満たなくて、知らない事が多いのは当たり前だけど……こんな時、やっぱり王女様が羨ましい。


「シャーロット……」


 何だか今度は悲しくなってきた。

さっきまで楽しかったのに……やっぱり酔っているのかな。



 エスターの過去にはいつもマリアナ王女様がいる。

それは仕方ない事。分かってる、分かってるけど、私は自分で思っているよりも心が狭い様だ。

今もまだ、王女様とエスターの過去が気になっている。


 それに私は、マリアナ王女様から多分嫌われている。

突然現れてエスターを取っちゃったから。


でも……だからって攫わせなくても、知らない人に悪戯させなくても……そこまでしたいほど私が憎いのだろうか。


私がもしこの下着を着けていなかったら、今頃どうなって……そう考えて、スッと血の気が引いた。


……本当に何もされてない?

ドレスを着ていた時には触れたのよ?

現にここまで運ばれている。

(カイン)は何もしていないと言ったけれど、それが真実とはいえない。


私は上掛けを纏ってエスターから距離をとる。



「急にどうしたの、シャーロット」


 エスターが急に離れた私に手を差し出すけれど、嫌だと首を振ってしまった。

ゆっくり、言葉がおかしくならない様に話をする。


「あの……ドレスき……るから……」

「手伝うよ」

エスターは優しく言ってくれた。


「だいじょぶ……ひ……とりでしま……す」

「でも」

「おねがい……すこ……しだけ……そとにでて、くらさ……い」

「どうして? シャーロット」


下を向き頼むとエスターは「僕はすぐそこに居るから」と部屋を出てくれた。


少しずつ酔いは醒めて来ている。

上掛けを取り隈なく体を見回した。


……大丈夫そうだ。

下着はちゃんと着ている、どこも緩んでいないし体にも何もない。

ドレスを脱がせた途端に触れなくなったとカイン様は言ったから……。


 けれど赤いドレスを着ている状態では私に触れている。

現にここまで運ばれてベッドに寝かされていたのだ。

私は、何もしていないと言った彼の言葉を信じるしかない。

何一つ覚えていないから……。


ドレスをちゃんと着て、深呼吸をする。



 迎えに来てくれたエスターにまだお礼も言っていない。その上部屋から追い出してしまった。

謝らなくっちゃ、それから来てくれてありがとうって言わないと……私、ダメだな。



 ベッドから降りて下に並べて置いてあった靴を履いた。

少しふらつくが大丈夫。

エスターに声をかけようと、扉へと向かって……足が止まった。


 

 外から、かわいい女性の声が聞こえてきたのだ。

マリアナ王女様の、鈴のような声が。


「エスター、ここにいたのね」

「……どうして僕がいると分かったのですか」


嬉しそうなマリアナ王女様とは対照的な冷たい声でエスターが話をする。


「あら、私があなたを分からない訳がないわ」

「こんな事はもう二度としないで頂きたい」

「こんな事? 彼女は楽しそうだったわよ? 殿方と音楽に合わせて踊って、その後はお酒を飲んで……しなだれかかっていたわ」


「それは彼女の意思ではないでしょう⁈ 」

「そうかしら? 私ならキチンとお断りするわ。彼女も満更でも無かったのではなくて?」


「彼女はきっと断り方が分からなかったんだ」

「あら、そんな人があなたの妻なんて務まるの?」


「彼女は『花』だ、僕は彼女しか認めない」


「そう……あら?」


「何だ?」

「エスターあなたの瞳、金色になっているわよ?」


( ……えっ⁈ )


「はっ?」

「うふふ、もしかして『花』は一人では無いのでは? 今までが、偶々近くに一人しか居なかったというだけではなくて?」

「何を言っているんだ」

エスターの声は動揺している様に聞こえた。


「だって獣人の中には何人も番がいる方達もいらっしゃるでしょう? 竜獣人もそうかも知れないわ、前例が無かっただけなのではないの?」

「違う、そんな事は無い!」

いつもは冷静な彼が声を荒げている。



……そういえば、さっき彼の瞳はずっと青いままだった。

でも、彼は瞳の色をコントロールできるようになっているし……


違う、今いるのはマリアナ王女様だけ、ならば王女様の狂言ということもあり得る。

だって『花』は触れ合えば直ぐに分かるのだから、エスターは今まで……何度も王女様と触れた事がある。

だから、違う……違うはず。


その時また別の声が聞こえてきた。


「まぁ、本当ですね。キレイな金色」

この抑揚の無い話し方は……メイド?




『花』と見つめ合うと金色に変化する竜獣人の瞳。


……もし王女様の言う通り、『花』が一人では無かったら……?



「そんな訳ないだろう!何を言っているんだ、マリアナ! いい加減にしろ!」

( ……マリアナ……また…… )


「うふ、エスターったらそんなに名前を呼ばなくてもよろしいのよ? ()()()もずっと私の名前を呼んでいたものね、寝室でも……」


「アレは!」


( ……あの日……? もしかして……あの『ごめん』はそういう事?)






ーーーーーー*






 後ろからカタンと小さな音がして、振り向くとカイン様がそこに立っていた。

立ちすくむ私に向けて、彼は何も言わず手を差し伸べる。


 どうしていいか分からない。

頭の中は『目の色』の事とエスターが『マリアナ』と呼ぶ声と『あの日』の事で一杯になっている。


 私は、カイン様に差し出されたその手を無意識のうちに取ってしまった。

真紅のドレスをキチンと着たからなのか、エスターに触れてもらったからなのか、下着の防御魔法は止まっていた。


 カイン様は私の手を引いて階段を降りる。

その先にある真っ暗な地下道を、まるで見えているかの様にスタスタと歩いて行く。




「シャーロットちゃん、どうした? 泣いてんの?」


「……ないてない」

「ねぇ、もう酔いは醒めたの?」

「よってない」

「……ふうん」


 そこからカイン様は暫く黙ったまま、私を連れて真っ暗な道を何処かへと進んで行った。

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