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ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます  作者: 五珠
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
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おはよう

 カインはシャーロットを地下にある隠し部屋へと運ぶと、部屋に置いてあるベッドへと寝かせた。


「さてと、ここからどうすりゃ良いかな」

 

 王女様の言う通り攫って地下に連れて来た。もう一つの依頼は、穢せ……だったな。

全くたいした王女様達だ。

仕事だから、やれと言われればもちろん実行する。

だが、私は眠っている女に手を出すことは好きじゃない。


それに……


「おかしいとは思っていたが、竜獣人の『花』とは聞いて無かったんだよなぁ、あの王女達最初から私の事を捨て駒にするつもりだったのか……」


 ただでさえ強い竜獣人の大切なものに手を出して、無事でいられる訳がない。

レイナルド公爵もガイア公爵も、当主一人で何十匹もの凶暴な魔獣を倒すのだ。普通の獣人が五人がかりで漸く一匹倒すあの魔獣を……。



 逃げ切れればいい方だな。


 彼女の仮面を外し、結われていた髪を解く。

……顔も体も割と好みだ、イヤ結構好きな方かも……。

既に攫って此処へ連れて来たんだ、このままでは碌な目にあわないだろう。それなら少しばかり美味しい思いをさせてもらうか。


 カインは、彼女の真紅のドレスに手をかけた。

腰の辺りまでドレスを一気に脱がせたところで、それ以上出来なくなった。

 

「下着に防御魔法付けるのか?……しかもスゲー強力」


 真紅のドレスを着ていた時は体に触る事が出来たのに、それを脱がせた途端に魔法が発動しやがった。どういう仕組みか知らないが、どちらにしろ今は指一本触れられなくなっている。


……さて、どうするか……






ーーーーーー*





ぶつぶつと誰かが話す声に意識が戻る。


「ん……」


 重い瞼を開いて体をなんとか起こした。


「……ここは?」


 ( さっきまでホールに居たのに……そういえば急に眠くなったんだ )


手元には私が着けていた仮面が落ちている。

まとめ上げていた髪もいつの間にか解けていて肩に触れた。


「やぁシャーロットちゃん、おはよう」


ハッとして声の方を見上げると、さっきまで一緒にいたカイン様が私を見下ろしている。


「うん、いいね。やっぱり私好みだ」

「……何を言っているの?」


訝しげに見る私に、彼はコップを差し出してくる。


「喉、渇いてない?」

「……渇いてません」


( この人、また何か飲ませるつもりなの? )


 彼は疑っている私の顔に気がついたようだ。


「ジュースだよ、今度は何も入れてない。……喉、渇いているはずだよ?さっきのアレ飲んだんだから」


彼の言う通り確かに喉はカラカラだった。

それに何故か体も熱い。

……でも


カイン様はさっきから私の体を見ている様だ。

…………?

はた、と自分の体に視線を移せば、ちゃんと着ていたはずのドレスは腰のあたりまではだけ胸の下着が見えていた。


「きゃあっ、どうしてっ⁈ 」

慌ててドレスを引っ張るが上手くいかず、そこにあった上掛けを体に巻き付けて身を隠した。

いまさらだけど……うっ……下着姿見られた。


「私が脱がせた途端に防御魔法が発動してさ、残念ながら君に触れなくなっちゃった」


……脱がせたと言った?


「どうして脱がせたのっ」

「そりゃあ、脱がせてする事は一つでしょ?」


信じられない! 私は彼に軽蔑の眼差しを向ける。


「ま、そんな顔しなくても未遂だし、魔法で触れなかったんだしさ、ほらジュースでも飲んでよ。ここに置くから」


コップに注がれたジュースをトレーに載せ、ベッドの上に置くとカイン様は少し離れた。


「どうぞ、体の為にも飲んだ方がいいよ。そのままだと息が苦しくなるかもしれない」


 体の為と言われ、私はコップを手に取った。分からないけれど一応匂ってみる。ぶどうのジュースの様で、他には何も変な匂いはしない。

……でも、大丈夫? 本当に?


「正真正銘のジュースだよ、神に誓ってもいい」

カイン様は祈るような仕草をする。



 強い喉の渇きに、私は恐る恐る口にした。

コクリと一口飲む。ちょうどいい甘さが体に沁み渡る。そのままコクコクと飲み進め喉を潤した。


「おいしい……」


「はぁ、良かった。信じてくれたんだ」

「えっ!」

「いや、違うそうじゃないよ、本物のジュースだから! ああ、やっぱり一度でも騙すと信じてもらえなくなるよね」


カイン様は「私も飲もう」と言うと、そこにある樽からコップに並々と注ぎ、ゴクゴクと喉を鳴らして飲み干す。


「それで……どうして私はここにいるの?」

「あー、頼まれたんだ」

「頼まれた?」

「そ、仕事でね」

「仕事? 子爵の?」


私が尋ねると彼はクスリと笑った。


「私は子爵ではないんだ」

「じゃあ……何?」


カイン様は自身の着けている仮面を外し素顔を見せた。短髪な黒髪。赤橙色の目が印象的な整った顔立ちの青年。踊った時は無かった銀の三日月型の耳飾りが、鈍い光を放っていた。


「ある時は子爵、またある時は行商人、偶に貴族の奥様方のお相手もする、いわゆる何でも屋だよ。いなくなった猫を探したりね」


「何でも屋?」

「そう」

「そんな人がどうして王女様のお茶会にいたの?」


「王女様達から依頼が来たんだ、君を攫って悪戯しろって、報酬も多くてさ。まさか相手が竜獣人の『花』とは聞かされてなかったけどね」


「あなた獣人なの?『花』の事どうしてしって……」

「ああ、私? そうだよ豹獣人……って、あれ?さっきのは只のジュースだよ?」


あれ?

あれって何?

なんだろう……体がふわふわしてきた。

ふわふわするけど、体は熱いまま……



それに……何だか楽しい気持ちがする。



「豹獣じん、なの……ね」


「どうかした? シャーロットちゃん、顔赤いよ? 目も蕩けちゃってる……」


 

 うーん、なんだろう……


……急にすごく面白くなってきた。

何が面白いのか分からないけど、カイン様のキレイな顔も面白い。コッチを見てるのも面白い。

髪も短くて面白い。エスターみたいに長くない。

短い……髪


「うふふふふ……かみ、みじかいねぇ……」


カイン様は目を見開いて私を見ている。

どうしたのかしら?


「君、もしかして酔っ払ってる? まさかぶどうのジュースで酔っ払うなんて……プッ……あははっ!」


「なにが……おかしーのっ!」

ぷうっと頬を膨らませ睨む私を見て、カイン様はさらに笑った。

( 何で私はこうも初対面の人に笑われるのかしら )


「ごめん、もしかしたら最初に飲ませた薬が影響したのかもしんねぇ……うはははっ!」


「わーわないでっ!」


カイン様はお腹を抱えて笑っていた。


「体質的に弱いのかも知れないね、偶にいるらしいからジュースでも酔っ払ってしまう人……でもねぇ」


「よってないれす」


ちょっと言葉は変だけど、意識はしっかりしてるもの。


カイン様は私をみて何だか悶えている。


「あー酔っ払ってんのかわいいなぁ! 触りてぇ、でも触るとヤベーしなぁ」

「さわる?」

何を触るんだろう? そう思ってカイン様に聞く。


「うん、楽しいことしてみようか?シャーロットちゃん」

私を見る赤橙色の目が、ギラギラと光っている様だ。


「いやっ!」


何を言っているのかしらこの人。

触っていいのはエスターだけなのに。

私はプイッとそっぽを向いた。


「ふふっ……体は熱くない? 全部脱いじゃえば涼しくなるよ?」


……確かに体は熱い。

全部脱げは涼しくなる?


「ぬぐ?」

首を傾げてカイン様を見る


「……いや」


それまで笑っていた彼はなぜか困惑した様な顔になった。


「うそ、脱いじゃダメだよ」


私に少し近づいて目を細める。


「そんなに純真な顔されちゃったら何も出来ないな、こんな事ならドレスを剥ぐ前にキスぐらいしておけばよかった」


「ダメよ、キチュはエシュターだけらの」


そう言う私にカイン様はクスリと笑った。


「エシュター? エスター令息の事?」

「エシュターはだーいしゅきなひとれす」

「そっかー、そうだね。キスは好きな人とした方がいいね」


カイン様は空のコップに何かを注ぎトレーに置いた。


「これは水だよ、まだ喉渇いているでしょ? 水を飲めば酔いは早めに醒めるから」

「んー」


 まだ喉が渇いていた私はコップを手に取り少しずつ飲んでいく。

それを確認したカイン様は安心した様に微笑んだ。


「それでは、私は帰るよ。この分だと王女様達は報酬をくれなさそうだし、このままではレイナルド公爵に見つかってコテンパンにやられちゃうしね」


「やられちゃう?」

「うん、君を攫ってしまったからね。だから私は行く、実はここに抜け道見つけていたんだ。私の仕事は何が起こるか分からないからね、下調べは大切なんだよ」


カイン様は床の一部を持ち上げた。そこには下へと続く階段が見える。


「じゃあね、シャーロットちゃん」


「どこいくの? あたちは?」


「もうすぐ迎えが来るから待ってなよ。大丈夫、君が一番会いたい人の筈だから」


 彼はじゃあ、と手を振り階段を降りていった。床は元の様に閉じられて、入り口がどこにあるのか分からなくなった。



「なんだったの……かなーっ?」


 注いでもらった水を飲み干しコップを置いた。


喉の渇きは大分収まったみたい。

でも体は熱いまま。

何だかまだふわふわする。

楽しい気持ちも続いているけど……


パタンとそのままベッドに横になった。


ひんやりしたシーツの感触が気持ちいい。





「エシュター……」



 エスターを思いながら、いつの間にか私はまた眠ってしまった。

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