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ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます  作者: 五珠
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
19/68

蜜月の間に

 俺の弟であるエスターが、『花』であるシャーロット嬢と部屋に籠り出て来なくなったその間、獣人が『蜜月』と呼ぶその時の出来事だ。



 エスターがシャーロット嬢を迎えに行った、その日。

俺は演習を終え、同僚と食事を取り邸へ帰った。すると、父から話があると部屋に呼び出された。


「城の魔獣には『エリーゼ王女』が絡んでいる事が分かった。オスカー、その他の詳しい事はお前が調べろ。エスターは蜜月に入ったからな……」

「えっ……!」


父は薄笑いをし、お前暇だろう?、と俺に全てを押し付けた。


( 暇じゃない!……何故、エスターが蜜月を過ごしているのに俺は働かなくてはならないんだ…… )


 



ーーーーーー*




 城で行われた王妃主催のパーティーの日、魔獣を召喚したのは『魔獣術師』のジークだった。


 彼は、問い詰める間もなく「俺がやりました、ごめんね」と、罪を認めた。

シャーロット嬢を北の塔へ連れて行った事も認めたが、ジークはどちらの件も罪には問われなかった。


 パーティーの時の魔獣召喚には、王女が関与していた事( エリーゼ王女は認めなかったが……) 、コレは秘密裏にされた。


 魔獣によって怪我をしたのが、下働きのメイドだった事。

死んでいないのだから問題無しと判断された。( 人を差別しやがって……)


 北の塔での事は ( シャーロット嬢はあの時はまだエスターの婚約者ではなかった為 )、ただの恋人同士の逢瀬だと判断された。( 魔獣付きで?)



エスターがコレを知れば怒り狂いそうだ……。




『魔獣術師』が貴重な存在であった事も罪に問われなかった一つの要因であった。


 この国に三人しか居ない魔獣術師。

魔獣の中には大人しい物もいて、それを従わせる事が彼等には出来る。ただ、城や塔で呼び出した様な凶暴な物は俺達、騎士団が討伐するしかない。

 呼び出せるのに返せないのか?と聞くと「それが出来たら騎士は要らないでしょ?」言われた。

( なんかムカつく)




 しかし、厄介なのはここからだ。


 北の塔にシャーロット嬢を捕らえたのは、「王女に頼まれたから」と、ジークが話した。それを聞いた王様は王妃と王女達に「竜獣人には『花』というただ一人の愛する人がいるのだ」と、ようやく話をした。


「だからもうレイナルド公爵の息子達の事は諦めなさい」と、優しく言って聞かせたらしい。


王女達 ( エリーゼ王女とマリアナ王女) は、「そうですか……分かりました」と悄然と答えたのだが、それで引き下がる様な王女達ではない。


 彼女達は生まれながらに王女だ。

それも、かなり甘やかして育てられている。これまで、王女達が一言欲しいと口にすれば、目の前に希望の物は置かれた。

チヤホヤされて育てられたのだ。

彼女達に手に入らない物は無い。


それが、例え人の物であろうとも……。


 唯一まともな考えの持ち主であったミリアリア王女は、先日から同盟国に留学しており、今この国にはいない。



今や城は、( 俺から見れば) 無法地帯だ。



 (エスター)が蜜月に入って三週間が過ぎた頃、俺はマリアナ王女に呼び出された。もちろん、エリーゼ王女も一緒にいる。



「私、オスカー様でも構いませんわ」


「は……? マリアナ王女様、何を言っているのですか、竜獣人には『花』がいると聞いて知っているでしょう?」

( 馬鹿なのか?この王女は)


「オスカー様の『花』は私かも知れませんわ」


 そう言って俺の手を握るマリアナ王女。

当たり前だが、何も感じない。寧ろ不快な気持ちがする。


「違います」

「……私はキュンとしますわ」

「キュンでは無いのです。マリアナ王女様」


 この王女はエスターが好きだと言っていた筈だが⁈ 見た目が似ていればそれでいいのか?


そう思っていたが、マリアナ王女は俺をジイっと見つめて、深いため息を吐いた。


「はぁ……やはりエスター様が良いわ」


 もう一度ため息を吐くと、側にいた侍女に手招きをする。

侍女が手袋を嵌め、持って来ていたカゴから何かを取り出し、マリアナ王女に手渡した。


( あれは服?……その服……エスターが北の塔に脱ぎ捨ててきた服に似てないか?)


服をギュッと抱きしめて、スウーッと匂いを嗅ぐマリアナ王女。


「はぁっ……エスター」

マリアナ王女は、恍惚な表情を浮かべ服に頬を擦り寄せている。


( まさかと思うが、あの服はエスターの物なのか⁈ )


「マリアナ王女様、その服は……」


「もちろん、エスターの物ですわ、私の為に北の塔へ置いて行ってくださったのですわ……」

「いや、そんな事は」

「可哀想なエスター、あんな女に騙されるなんて……『花』でしたっけ? ふっ……」


何がおかしいのか、マリアナ王女は肩を震わせ笑い出した。


「マリアナ王女様、俺達は『花』以外は愛しません、それこそ騙されるなんて事はない。それに、もう二人はそれは愛し」

「うるさいのです!オスカー様‼︎ 」


ふんっ、とエスターの服を抱いたままマリアナ王女は戯言を口にした。


「エスターは私と結婚するの、あの女は妾にでもすればいいわ、私は一人ぐらいなら構いませんわ」


「……そんな事をエスターが聞けば、弟は彼女を連れてこの国を出て行くと思いますが……」



「…………出て行く?」


マリアナ王女はエスターの服に顔を埋めて、しばらくの間静かにしていた。


「………ねぇ、オスカー様……ちょっと聞きたいのですが」


悪巧みを思い付いたかの様な顔でマリアナ王女が俺に笑いかける。


「もしも……『花』が居なくなったら、どうなりますの?」


( 『花』が居なくなる? )


「それは、出会った後ですか?」

「そうですわ」

「居なくなるなんて事はあり得ません」

「そう? 事故に遭って命を落とす事も有り得るのでは?」

「今までそんな例は無い、レイナルド家もガイア家も、『花』を失ったなんて話は聞いた事がありません」


 二人の王女は俺の話を聞くと何故か目を細めた。

ずっと、マリアナ王女と俺の話を黙って聞いていたエリーゼ王女が、扇子で口元を覆い隠しながら徐に話し始める。


「今までは無い……という事は、分からないという事ですわね」

「……そう、ですが」

「『花』が居なくなれば、竜獣人は他の女性と一緒になるかも知れませんわよね?」


「それは……」


 分からない、前例が全くないからだ。

 まず、病気や事故で身内が亡くなったと聞いたこともなく、不思議な事に老衰で亡くなる時は殆ど同じ時に夫婦は終わりを迎えている。

( 老衰以外で亡くなる例を俺は知らない……)


 八年前、曽祖父母が亡くなった時も、『花』である曽祖母が亡くなった次の日に、曽祖父はまるで後を追うように亡くなった。大概の竜獣人はそういった最後を迎えるようなのだ。

 最近、『花』を詳しく調べた俺が分かるのはまだ、コレくらいだ。

( 本当は出会い方を調べたかったのだが…… )




「ふふっ、なって見なければ分からない事も有りますわね」


意味深な事を言い、王女達はせせら笑う。


「オスカー様はまだ出会われていらっしゃらないのよね」

「はい、残念ながら」


( 俺も、早く会って見たい……『花』に)


「そう、お会いできると良いですわね……」

 素っ気ない声でエリーゼ王女は呟いた。



「エスター様は『婚約』をされたとか聞きましたけれど」

マリアナ王女がつまらなそうに言った。


「ああ、そうです。先日父が手続きを取って、二人は今、婚約中です。二か月後には式を挙げようと両親は話していましたが……」


「二か月後……それまでに」


「それまでに?」


 何でもありませんわ、とマリアナ王女は冷ややかな笑みを浮かべた。


「『花』が獣人の元から去っていく事はありませんの?」

「は?無いでしょう、互いに惹かれ合うのですから」

「……ふうん……そう……」


王女達はふふ、と一笑すると、

「本日はこの辺で、私達色々と最近は忙しいのです」

と、いつもより早く俺を解放してくれた。

( 呼び付けておいて……なんだよ)




どうやら、王女達はまだ俺達を手に入れようと画策しているらしい……。


気をつけなければ……





しかし、俺はエスターにこの事を伝え損ねていた。

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