一緒に入るよ
部屋に入って来た彼は私を抱き抱え、廊下に出ると何処かへ真っ直ぐ歩き出した。
「ど、どこにいくの⁈ 」
「浴室」
「お風呂?」
「うん、一緒に入るよ」
………えっ⁈
「ちょっ、ちょっと待って、私」
「待たない」
あっという間に着いてしまった浴室は大人が何人も入れる程広かった。
丸い浴槽には乳白色のお湯が張られ、赤い薔薇の花びらが浮かべられていた。お湯で温まった花びらからか、とても良い香りがする。
「エスター」
「何?」
浴室で、ガウンを脱がせようとする彼の手を私は必死に抑えていた。
「一人で入りたいです」
「だめ」
私はエスターを見上げて
今までやったことはないけれど、甘えたように瞳を潤ませ( 多分出来ていると思う)
彼に懇願した。
「お願い…」
だって、キスもまだしていないのに…
二人でお風呂って、恥ずかしすぎる!
ーーーーーー*
「お願い…」
甘えたように彼女が言う
シャーロット…
どうして…
そんなに一緒に入るのを拒むの?
僕はもう、限界だ…
いや、限界など超えていると思う
彼女に触れたあの日から
心も体も彼女を求めて止まない
見たい、会いたい、抱きしめたい
今も尚、欲求が止むことはない。
父上のように出会ってすぐ攫って行けたらよかったけれど、僕は『花』の事も知らなかったから…
この衝撃が、胸の鼓動の高まりが、体中を駆け巡る熱が何なのか分からずにいて…
どうしてこんなに気になるのか、会いたくてたまらない気持ちになるのか…
出会った時、彼女は怪我をしていて、その上マリアナ王女に邪魔をされ、挙句に魔獣の討伐だ。
この昂る感情を体を動かす事で発散させたが、あんな物は直ぐに終わってしまった。
竜獣人の体力は無尽蔵だ。
疲れることはまず無い。
その上『花』に出会った僕は、何倍も力が漲っている。
会いたい…
会って抱きしめたい…
声を聞きたい…
僕だけのものにしたい……
ずっと願って、
討伐を直ぐに終わらせて、
やっと会いに行けると帰ってみれば、
もう一日我慢しろ……我慢しろ⁈
そんなの出来るか!
…けれど、僕は言われた通り一日待った。
次の日、レオンと一緒に迎えに行って、やっと彼女の姿を視界に捕らえた。古代文字で僕の名前が刺繍されたドレスを纏っている。
似合ってる、凄く綺麗だ……
この世の誰よりも…
必ず連れて帰る
今度こそ絶対誰にも邪魔させない。
そう思っていたのに王女が来た。
つまらない脅しで、僕の恋人として過ごす約束をさせておいて、それを今、果たせだと…⁈
彼女から離されて、夕食を一緒に取らされ、無理矢理…寝室に連れ込まれて…さすがに切れた。
「いやっ!エスター行かないでっ!」
ギュッと抱きついて来て、まだシャーロットからもあまり呼んでもらっていない僕の名前を、何度も何度も呼び捨てるマリアナ王女。
「僕の名前を呼んでいいのは彼女だけだ!」
怒って言うと、マリアナ王女は顔を歪ませ悪態をついた。
「ふん、あの女は今頃、北の塔で魔獣に喰われているわよ」
「北の塔?」
( 喰われる訳ない、あのドレスを着ているんだから)
「そうよ、お姉様の知り合いに頼んで魔獣を呼んで貰ったの。それにあの塔には普通の人は入れないわ、だからあの男に頼んだのよ、アイツお姉様が大好きだから…」
「まさかシャーロットに」
「あら、大丈夫よ、お姉様以外は興味がないそうよ?だからあの女に手を出したりはしないわ……ああ、その手があったわね。彼女を傷物にしてしまえばよか」
ドンッ‼︎ と僕は壁を蹴った。
くだらない話はもう聞きたくなかった。
王女の部屋の壁一面は粉々に砕け落ち、開けた其処から北の塔を見つめる。
確かに魔獣が二匹飛んでいる。が、あんな物どうでもいい。
あそこに居る…
…いる
僕には分かる…
「マリアナ王女、もう半日は過ぎた。約束は守ったよ、だから…もう二度と僕に構うな」
そこからサラにすぐ北の塔に来るように伝え、僕は飛ぶように彼女の下へ行った。
魔獣は直ぐに始末した。
窓から中へ入ろうとすると彼女と一緒に他の男が居るのを見てしまった。
ほんの一瞬だ。
奴は、彼女をまだ僕が見たこともない笑顔にした。
なのに…僕ときたら嫉妬してシャーロットを押し倒し、怒ってしまうし…子供かよ…
その上、王女に付けられた匂いのせいで、嫌って、匂うって言われるし…
それでも
……君を腕の中に抱きしめて
ようやく…
ようやく連れて来れたんだ…
ずっと一緒にいられる
やっと…
二人になったのに
なぜ…
一緒に入浴するのを嫌がるの?
そんな……
思い切り誘う様な顔をしておいて………
シャーロット……
僕の理性を試してる?
そんな物……
…もう
ーーーーーー*
懇願して見上げるけれど
エスターは何も言わず金色の瞳で私を見つめているだけ
「お願い…」
( お風呂は別々に入りたいの )
「エスター」
名前を呼んだ、その時
私を見つめるエスターの顔が、吐息がかかる程近くなり
私の唇に彼の熱い唇が重なった
「ん…っ………」
突然の事に弱く抵抗する私を、彼は離さないように抱え込みキスを落とす。
幾度も角度を変えてエスターはキスをする。
「シャーロット」
唇を離しては、私の名前を甘い掠れた声で呼び、また口付ける
「は…っ……」
私はその間に息をするのがやっとで、エスターと呼ぶ余裕なんてなかった。
重なりあう唇は、甘く優しく…そしてそれはだんだんと深く激しくなっていく…
「シャーロット…」
彼が名前を呼ぶたびに体の奥底が甘く痺れた。
私は、いつの間にかしがみ付くように彼のキスを受け入れていた。溶け合ってしまいそうな口付けを、私達はどれくらいの時間交わしていたのか…
…ようやくエスターが唇を離した。
名残惜しそうな顔で私の頬を撫でながら、先程迄と変わらぬ甘く掠れた声で囁く。
「お風呂、今は別でいいよ…ゆっくり入って…僕は少し落ち着いたから…。それに、このままだと抑えが効かなくて…君を壊してしまいそうだ」
エスターは私の額に軽くキスをして、浴室を出た。
パタンと閉まる扉の音で、私の体の力は抜け落ちてその場に座り込んでしまった。
( ……すっ、凄かった……… )