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5話 屑男の独白及び解説回

 "急にごめん! 今日、泊まりに行っても良いかな?"


 夏樹ちゃんからのメッセージ、これを読んで「よし、今晩の俺は3Pシューター三井寿だ!」などと有頂天ホテルになる程俺は馬鹿では無い。


 秋葉さんが来てる中夏樹ちゃんを俺の家に連れてきて、仲良く川の字で寝ましょうめでたしめでたし。とはならないのは明白である。


 泊まりたい? だが断る。なんてことも却下。これは夏樹ちゃんからのSOS、世界のどこかに泣いている子がいたらアンパンを届けに行く。それがナンパンマンのナンパ道だ。


 よって俺のとる選択肢は最初から一つ。いかにして印象を良くしたまま夏樹ちゃんを家に帰すか。この一点に尽きる。


 ダブルブッキングが起きてしまうのは事故だから仕方ない。その後出来ることをきちんとやる。これが大事。


 秋葉さんとのパジャマパーティーは誰にも邪魔させない! それがたとえ、愛する夏樹ちゃんでもだ!



「……どこかへ行かれるのですか?」


 制服から私服へ着替えると、秋葉さんから呼び止められる。ちょっと輪ゴム買ってきますとか適当な嘘は逆効果だ。多分女関係だろうと、彼女も察している。


「ちょっと、出てきます」

「もし、私が邪魔でしたら帰りますよ……? 宮本君の予定も知らないのに、急にお泊りだなんて、私らしくも無く浮かれてしまいましたね」


 淋しげに笑いながら思っても無い事を言う秋葉先輩、そんな彼女を安心させる為、力いっぱい抱きしめる。


「あっ……」

「一時間で戻ります。安心して下さい、只の別れ話です」

「え、そう……なのですか?」

「過去を清算してきます。秋葉さんの事、本気で好きだから」

「……分かりました。折角ですし、お夕食を作ってお待ちしています」


 あ、折角着替えたのに秋葉さんの香水の匂い移っちゃったかも、まぁいいや出る時リセッシュしとこ。



◇◇◇


 

 ブランコってこの歳になっても普通に楽しいの凄いと思う。そんな事を考えて漕いでいると……。


 目に見えて気落ちしている少女が公園に入ってくる。夏樹ちゃんだった。


 あら、すっごい落ち込んでる。元気が無いのも可愛いなぁ。挨拶を交わした後、事の真相を探る為調査団はアマゾンの奥地へと……。


「……お父さんが、私が最近夜遅いのは、男と会ってるからだって決めつけてさ。それと、まぁ色々口論になっちゃって……」


 夏樹ちゃんはまぁありがちな喧嘩理由を語った。表情は暗く、言葉も濁し気味だ。


 親と喧嘩した系家出少女を慰める場合、おおよそ男の取るべき行動は2パターンあってそれは相手の性格に依存する。


 相手の性格が屑な場合は簡単、その人の言う悪口に乗っかるだけである。「お父さんが悪い、私は悪くない」「そうかそれはお父さんが悪い」「でしょ!? この人私のこと分かってくれる! 素敵抱いて!」ってなもんだ。


 相手の性格が真面目で良い子な場合、そういう子は大抵他責にしないで自分が悪いと責め続ける。夏樹ちゃんはもろにこっちのタイプ。ブラック企業でひたすら頑張って押し潰されちゃうけど、会社や上司のせいにしないで自分が悪いんだと抱え込むタイプだ。


 そういう人は、玉虫色の答えで責任の所在を誤魔化しつつ、ひたすら肯定。褒める。ねぎらう。優しく接する。


 実際夏樹ちゃんは頑張り過ぎだ。連絡先入手してから彼女の私生活は少しずつ知ったけど、週6で部活、勉強もきっちりやって、家事もこなして、それを大変の一言で済ますのは普通に尊敬する。


「それは達郎……って、ぁ……」


 話していくと、おおよその流れは摑むことは出来た。


 俺が昨日夏樹ちゃんと雪子と勉強会したことが、達郎君に伝わって、それがお義父さんに伝わっちゃった模様。(超速理解)


 ちなみに誰が悪いのかはハッキリした。そう、雪子である。


 雪子め……、口を滑らせやがったな。昨日3人で俺の家で勉強会したのを達郎君が知っている理由、あの猫かぶり女から漏れたな。場を混乱させたい等と言う意図はないだろうけど、お義父さんに俺の印象が悪く伝わるのは勘弁。


 男勢二人組は夏樹ちゃんが心配だっただけだろう。まぁ気持ちは分かる。相手が俺だもの。みつを。


 男親ってのは娘が可愛いもんだ。しかも夏樹ちゃんちは父子家庭、変な虫が娘に摺り寄ってきたらそれは気が気でないだろう。でも下手に警戒されて、今後夏樹ちゃんとの仲が進展しても、彼女の家に行き辛くなるのは勘弁やでぇ!

 

「まぁ何となくは流れが分かったし、泊まるのは全然良いんだけど、夏樹ちゃん本当はそんなことしたくないんじゃないの?」


 俺は彼女の肩に手を置いて一篇の曇りも無い綺麗な目で見つめながらそう言った。泊まるのは全然良くない。


 人狼ゲームで例えると「俺市民だから役職無いし全然吊ってもいいよ?」って言う人狼の気分だった。


「うるさい。泊めたくないならそう言えば? どうせ家に他の女でもいるんじゃないの? ……あっ」


 一瞬焦った。もしかして秋葉さんの残り香ついてたか!? しまった!? っと思ったが、言った彼女の方がしまった、という顔をしているのでホッと一安心。


 ハリネズミのように誰かれ構わず近づく人を傷つける彼女をぎゅっと抱きしめる。大丈夫、怖くない……。


 今日が肌寒い日で本当に良かったと思う。


 寒い時というのは人肌しかりココアしかり、温かい物というのは安心感を与えるものだ。クソ寒い冬の日、布団とか炬燵とかと結婚したいと思う時があるやん? それと同じで安心感と恋愛感情を誤認させるのはテクニック。


 ちなみに以前彼女が俺の家でシャワーを使った時、なるべく彼女の体温を下げようとしてたのもそういうとこが関係している。


 あとこの抱擁。実はドキドキ好感度チェックも兼ねている。拒否られるか、為すがままか、抱きしめ返されるか、実際告白と何ら変わりねぇ、拒否られたらこっちも泣いちゃうからね? 内心びくびくしながら俺は彼女を慰め続ける。


 やがて彼女は抱きしめ返しながら泣き始めた。嬉しい。泣き顔を出来るだけ見せないようにしているのがとても健気で可愛い。くそう家に持ち帰って慰めサックス(吹奏楽)したい。


 誰だって一度くらい近所の公園のベンチとかブランコでイチャついてる謎の男女学生達を見たことがあるんじゃなかろうか。それはまさに今の俺達の姿だった。


 彼女が落ち着くまで、泣きやむまで、俺は赤子を寝かしつけるように優しく背中をさすりつつ言葉を紡いでいく。


 よしよしって言いながら頭撫でるのは流石にキモいかな? やめとくか。



◇◇◇



 俺は親から譲り受けた魂のカタナ(車種)に乗りながら、密着した夏樹ちゃんを乗せて道路を走っていた。


 彼女の身体が俺とくっついている。柔らかな二つの膨らみを背中で感じる。早く家帰って先輩とスケベしたい。


 え? 免許取得後一年は二人乗り駄目だろって? 事故らなきゃええねん。今の彼女は心に深く傷を負った病人と同じ扱いだ。一刻も早い治療が必要なんだ。しっかり掴まってなぁ! 飛ばすぜベイベー!


 てか急がないと秋葉さんと約束した1時間が過ぎる。もし遅れたら俺が俺を許せない。時間に遅れる奴、女を泣かせる奴、子供に暴力を振るう奴、それらは俺が許せない3種の神器、だもんでタイムイズマネーだ。


 家までじゃ無く駅まで送る? それは薄情。いくら多少落ち着いたとはいえ泣きやんだばかりの彼女を一人放置するなんて極悪人である。


 やがて目的地近くに到着する。帰りのことを考えても、時間は大丈夫だ。問題無い。


 夏樹ちゃんからのお礼の言葉を受け取り、俺はクールに去って行った。その言葉と、君の笑顔が見れるなら、どんなことだって苦労とは思わないさ。




 家に帰ると、某文芸部部長が書くエロ小説に出てきそうなド変態生徒会長が裸エプロンで味噌汁をかき交ぜていた。


 エントリープラグが外れた俺は暴走した。幸せザックス(F○7R)が始まる。


 秋葉さんとのMIX(あだ○充著)は結構自分の立ち位置が難しい。彼女はSだったりMだったりと二転三転七転八倒、ころころ変わるからである。


 格式高い家柄で皆の見本になってる清楚で立派な自分が、俺みたいな屑男に壊されるのも、または彼女自身で壊すのも好きなんだろう。芋っぽい子が大ステージで踊るアイドルにあこがれるのとは真逆の欲求が彼女にはあるのだ。違う自分になりたいと思う事は誰にだってある。特におかしい話じゃ無い。


 磁石のS極とN極のように、S女はM男を求めるし、その逆もしかり。同じ性癖同士、反発し合うのは良くないので、俺達はオセロの石のように、状況によってお互いの色を変えていく。


 なんの話をしているんだって? つまりは只の惚気である。


 ふはは! これが皆の上に立つ生徒会長の顔か? ほらもっと鏡でよく自分を見てみろ! あぁそんな……嫌っ嫌っ!


 ふふっ! こんなに大きくして、期待してるんですか? ならちゃんとおねだりして下さいね? あぁ先輩こんなのらめっ! らめっ!


 そんな感じです。



◇◇◇



 やがて遊び人から賢者へとジョブチェンした俺は、就寝中の秋葉さんを見ながら物思いにふけっていた。


 議題は、幾度も世界を救ったり滅ぼしたりする元凶、すなわち愛についてだ。


 誰かを嫌いになるっていうのは分かる。何故ならそれは減点式だから。悪口言われたから-1点、暴力振るうから-1点、そんな風に第一印象から引いていけばいい。多分どっかのラインまで来たらこいつは嫌いだって簡単に分かる。


 逆に誰かを好きになるっていうのがどこからが恋愛なのか、いまいち分かり辛い。多分それは加点式だから。優しいから+1点、可愛いから+1点、好きって気持ちに天井は無くて、俺は秋葉さんと会う度に好きって思うし、夏樹ちゃんと言葉を交わす度にもそう思う。じゃあそれはどのラインから恋愛感情なのか、それが未だに難しい。


 らしくないこと考えた。まだ俺若干16歳だしね。たまにセンチになる時もある。


「今晩の月はとても綺麗ですね」


 夜、ベランダで風を感じながらそう一人ごちた。


 夏樹ちゃんがお義父さんと仲直り出来ますように、俺は願いを込めて空の星をしばらく眺めたのであった。


 なんやかんやで勉強もしてるし、休み明けからの期末試験もなんとか乗り切れそうである。まる。



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