2話 オタクに優しくないギャルとか生徒会長とか
青眼の白龍と真紅眼の黒竜はどちらも最高級にカッコいいデザインだと誰もが認めるところだとは思うが、俺はリボルバードラゴンこそが至高だと考えている。
いきなり脈絡の無い話するなと言われるかもしれんが、つい視界の隅で決闘者達が「通行人はどいてた方がいいぜー! 今日この教室は戦場になるんだからよー!」っとばかりにカードゲームに勤しんでいたのを目にしてしまったからしょうがないだろう。
夏樹ちゃんとデートしたのは二日前の話、日曜日を挟んで今日は登校日のお昼休み、俺はクラスの友人達数人と机をくっつけて弁当を囲み駄弁っていた。
「ねー見てよあれマジキモい、昼休みに机くっつけてカードゲームしてる、キモくない? わざわざ学校でやるなっつーの、キモすぎ……家とかでやれよ」
一呼吸の間にキモいを三度も連呼する彼女の名は曾根田春香。染めた金髪、人を馬鹿にしたような態度、自称サバサバ系、着崩した制服と短いスカート、巨乳、等の特徴がある、一言で言えばギャルである。
「オタクって本当キモいわー、ねぇ宮本もそう思うよね?」
「あんこうの肝臓?」
「それはあんキモでしょ!」
激うまギャグをかました宮本と呼ばれる謎の人物、その正体は軽薄イケ面クソ男、すなわち俺だ。因みに本名では無くあだ名である。理由はかの大剣豪である宮本武蔵から取られている、由来は俺が100人切りしたからだと噂で聞いた。わざわざ中学の同級生と被らない高校に進学したのにどっから広まったのやら……。
「はーキモ、キモいキモい、あんキモだわマジで、マジあんキモ」
「……ちょっと気にいってない?」
別に誰に迷惑かけてるわけでもあるまいし、本人達が楽しいならいいだろ、ほっとけばいいのに。
彼女はやたらと他人を貶めようとする傾向にあった。おそらくクラスのスクールカーストにおいて、自分が上の立ち位置にいると誇示したい思いが強いのだろう。何故なら彼女は高校デビュー系ギャルだからだ。本人に聞いたわけではないが、ほぼ間違いないと俺は確信していた。俺は天然物と養殖物の違いが分かるギャルソムリエなのだ。(あんキモ)
個人的には彼女の性格はあまり好きではない、俺は平穏な学園生活を望む、事無かれ主義主張タイプの男なので、誰かれ構わず悪口と陰口を叩くのは少しどうかと思う。ならそんな女の子と何故一緒に仲良く弁当を食べているか、それは彼女が巨乳だからである。以上。
「てかそんなことよりもうすぐ期末じゃん、ヤバくね? 皆勉強してる? 俺前回の中間ヤバかったから、今回も赤点とるとマジヤバいんだよ!」
一呼吸の間にヤバいを三度も連呼する彼の名は軽部軽男、茶髪、ピアス、サッカー部、無駄にハイテンション、が特徴的なクラスのムードメーカー的存在である。顔も整っているのでかなり女子には人気があるが、スポーツ推薦で入って来た弊害で学力の方は少し低め。
「あ、じゃあまた宮本の家で勉強会するのどう? 前回みたく!」
「それ良い! 春香ナイスゥ! 採用!」
「はい、決定!」
「って、家主である俺の意見は無視かーいっ!」
俺のレベル一ケタくらいのツッコミに、ドッと場は笑顔に包まれる。今日も我が1年4組は平和である。
そんな時、チャイムに似た音が鳴る、ピンポンパンポーン♪ てやつね。校内放送の内容は生徒の呼び出しだった。生徒会長の秋葉さんが職員室に呼び出されていた。昼休みも生徒会の仕事とか、大変だなぁと思う。国語力2の感想。
「秋葉生徒会長って昼休みも仕事とか大変よねー。いつも凛としてカッコいいし正直憧れるわ」
「な? マジでヤベーよな。しかも良家の子女で成績も常にトップとか、実際マジでヤベー」
「あはは、確かに」
三度の飯より人の悪口が大好きな春香も流石に認めるくらいには、うちの高校の生徒会長は中々に凄い人だが、実は結構シャレにならない裏の顔を知っている俺としては苦笑い。知らぬが仏だな、皆せいぜい羨望の眼差しで彼女を見るといいさ。ま、自分は彼女の真の理解者っすけど?(彼氏面)
とまぁ、そんな感じで昼休みも半分程度過ぎた頃、教室に待ち人来たる。ガラッと後ろの扉を開けて入って来たのは隣のクラス在住、夏樹ちゃんだった。
一瞬クラス中の視線が集まるが、直ぐに元に戻る。どーせ達郎のとこになんか用事でもあるんだろと慣れている皆は気にも留めない。
「あ! 夏樹! どうしたの? ってか何で朝起こしてくれなかったんだよ! おかげで部活遅刻しそうだったじゃんかぁ!」
そう発言したのは、黒の前髪が目にかかる程長い中肉中背の優男、達郎君である。彼は雪子他友人達と仲良く昼食を食べながら、彼女にそう言った。
夏樹ちゃんは達郎の言葉を無視し、俺の方へと視線を向けてきた。おう兄ちゃんちょっと面かせや、とでも言うように指をくいっくいっと俺に向けてくる。
俺は机の脇に掛けておいた紙袋を持つと、飯食ってた友人達に「ちょっと呼ばれたから行ってくるわー」と声をかけてから彼女の方へ向かった。
彼らはアンビリーバボーと言いながら信じられない物を見る目で俺を見ていた。学年でもトップクラスに可愛くてガードが堅い上に幼馴染の達郎と良い感じになっている1年3組の夏樹ちゃん(長い)と軽薄男の俺(短い)が接点を持つとは皆が驚天動地だ。はっはっは、気分が良いぞ、もっと俺に羨望と驚愕の眼差しを向けるが良いっ!
俺達は校舎裏へと足を運んだ。呼び出された理由は察してる、告白だろ? 嘘です調子乗りました。俺は紙袋を差し出す。
「はい、この前着てた服洗濯しといたよ。あ、ちゃんとクリーニングに出しといた。勿論下着は見ないように取りだしたから安心して」
まぁ十中八九これだろう、この前夏樹ちゃんは俺の持ってたジャージ着て帰ったからずぶ濡れの私服は俺の家に置きっぱだった、敢えて連絡先を交換しなかったから直接俺のとこ来るしか無かったのである。
教室であの日の話をするのは外聞が良くないので人気の無いところで話したい気持ちは察する乙女心というとこである。
「う……、あんたサトリ妖怪か何か? あの……、その節はなんとお礼を言っていいのやらで……」
「それより、あの後大丈夫だった? 正直凄い心配した」
「私の方はその、もう大丈夫、まだ時間はかかるけどかなりふっきれたと思う。一日付き合わせて本当にごめんね?」
「いやいや、こっちこそ映画と買い物は楽しかったし、親元離れて一人暮らしだからさ、あの部屋広くて寂しいから誰か来てくれるだけで嬉しいんだ」
「……そ、そういうもんなの?」
「そういうもんだよ、良かったらまたいつでも来てよ。てか折角仲が深まったことだし連絡先交換しよ? 友達として」
ぐいぐいぐい、見えない擬音。俺は土俵際の力士の如く押せ押せだった。彼女とこれから友好的な関係を築いていくプランの内の一つ。素直に友達から始める。正攻法開始。
「まぁ連絡先くらい別に良いけど、迷惑かけちゃったし」
「マジ!? 凄い嬉しい! ありがとう!」
「大げさな……」
てれれ~♪ 連絡先入手。文明の利器は偉大。ハッキリ言ってこれ無いと話になんないからね。
交換後、彼女の方も持っていた紙袋を差し出してきた。袋内下の方に貸してたジャージが折りたたまれているけど、中にはもう一つ包みが入ってた。
「あと、これお礼」
「えっ?」
「プリン作ったから、お昼ご飯もう食べたでしょ? お口に合えばだけど……、宜しければデザートにでも……」
「ま?」
おずおずとしながら差しだす彼女から紙袋を受け取る。手作りか、案外女の子っぽい趣味もってるなぁ。可愛い、ありがたく頂きます。
折角だしここで食べて良いか聞こうとしたら(勿論味を褒めちぎる為)、俺らの前に一人の男子生徒が来た。
「夏樹! ここに居たのか!」
「え? 達郎? ……何よ」
息を切らせながら現れた達郎君は俺と夏樹の間に割って入ると、俺の方を軽く睨みつけてきた。
いやいやいやいや……、ちょと待てちょと待てお兄さん。
「宮本、夏樹とはどういう関係だ?」
「待って達郎君、何か誤解してる。ほら俺達比較的仲の良いクラスメートじゃん。ここは一つ冷静に……」
「夏樹も、どうかしてるぞ、宮本の噂知らないのか!? それなのに二人でこんな……、人気のないとこに来るなんて……」
失礼な、俺とて流石に学内で不純異性交遊する程愚かでは無い。中学の頃誰も来ないと思ってた更衣室で行為(洒落)してたら教師にバレて親呼ばれたからね。いやあのときはマジで焦った。人生初の修羅場ってやつだった。それ以来軽はずみな濃厚接触は禁止してるのに! 風評被害だよ!
「達郎には関係ないでしょっ! それに宮本も別にそんな悪い奴じゃないし、噂だけで彼のこと判断しないで! 私のことなんてほっといてよ!」
「ほっとける訳無いだろ! 夏樹は俺の……大事な幼馴染だ! 万が一のことがあったら俺!」
「何よそれ! 私が誰と仲良くしてても私の勝手でしょ! 幼馴染だからっていつまでも私が傍に居ると思ったら大間違い!」
「誰と仲良くしても勝手だけど、宮本は駄目だ! 何でそれが分からないんだよ!」
なんか始まった。
口論してる。
放っておかれてるので、俺は石造りの段差に腰を下ろし、プリンを食べ始めた。スプーンついててくれて良かった。
うげぇ、しょっぱい、さては砂糖と塩を間違えたな。こんなとこでもテンプレを外さないとは夏樹ちゃん本物やでェ……。
いうて食べますけどね。折角の感謝の気持ちですし、料理は味じゃなくて心だから。ぱくぱく。
プリンを食べ終わる頃には、口喧嘩も終わっていた。「勝手にしろっ!」っと達郎君は去って行った。
まぁ彼の意見の方が正しい。普通にこんな屑男と女の子が一緒に居たら誰でも心配する。
「……ごめん、達郎も悪い奴じゃないの。只私の事が心配なだけで……」
「ん? 俺は言われ慣れてるし気にして無いけど。夏樹ちゃんこそ大丈夫? なんか達郎君と喧嘩になっちゃったし」
「大丈夫、じゃ、無いかも、……なんでこうなっちゃうんだろう。別にあいつと、こんな風になりたかったわけじゃないのに……」
目に見えて気落ちする夏樹ちゃん。なんでこうなるか、その問いの答えとしては彼女が素直に会話出来ないからであろう。
もう少し達郎君への好意を分かりやすく表に出せば、簡単に二人の関係性は変化しそうではあるが、敢えて俺は言わない。もし二人がくっ付いたら自室の枕を涙で濡らす自信があるし。
「五限サボる?」
「……は?」
「夏樹ちゃん辛そうだし、カラオケでもボーリングでもゲーセンでも付き合うよ。女の子は笑顔が一番」
サラッと爽やかな笑顔で言った。少女漫画的テク。
彼女は呆れたような顔をしてプッと笑った。
「ほんと、軽いわね、行くわけないでしょ」
「えー……」
「もうすぐ期末だもん。ちゃんと授業出るわよ」
「流石、真面目」
「あんたと違ってね。ちゃんと成績優秀者なの、私は」
「今度勉強教えてよ」
「いいけど、二人っきりは駄目よ。何されるか分かんないし」
「いや、噂と違って本当の俺は紳士でしょ? 何もしませんって……」
そんな軽口を交わしながら俺達は校舎裏を後にした。まぁ少しは元気戻ったようでなにより。
教室に戻った俺は友人達からの質問攻めと、達郎君の敵意満々の視線を浴びることになった。のらりくらりと回避しつつ、ちゃんと授業には出ましたとさ。
放課後、まともな部員は二人しかいない部活に少し顔を出しつつ、この後人と会う予定が在る為、足早に俺は帰宅した。今日のバイトは夜からなので、それまで楽しませてもらおう。
◇◇◇
そこそこ空調の効いた涼しい室内に肉のぶつかる音が響く。ひと際大きな嬌声の後、幾度目かも分からないその行為は終わる。
「宮本君は、この後アルバイトとお聞きしましたが、何時からでしょうか?」
「9時からだから、まだ全然大丈夫。ゲームしたかったらお好きに」
「良いのですか!? 是非!」
先ほどまで俺と不純異性交遊を絶賛繰り広げていたのは、そういうのとは一番縁遠そうな俺の高校の生徒会長、紅葉院秋葉さんである。ちなみに俺が高校で唯一関係を持った女子生徒である。
腰までかかる綺麗な長い黒髪と端麗な容姿、立ち居振る舞いはこれぞ大和撫子というような雰囲気で、住んでる俺が自分で言うのもなんだがこの洒落た近代的マンションには似合わない。
彼女との出会いは二か月前に遡る。
過去回想と暴走トラックは急に来るから注意しとけ。ほんわほんわ……。
二か月前、俺は街でナンパした町子ちゃんを脇に連れながら、夜のホテル街を歩いていた。
何故家に連れ込まないのかと思った人、ワンナイトラブはホテルが基本。お互いにどんな人間か完全に分からない状態で自宅の住所が割れるのは本当危険だから、相手が信頼に足る人物だと確信するまで家に連れ込まないように注意しなさい。
そしていざホテルに入ろうとした時、俺の前方には長谷田高校一美人と呼び声高い秋葉生徒会長がっ!? なんと小太りのおっさんに肩を抱かれながらホテルに入ろうとする瞬間を目撃したのであるっ! ババーンッ!!
まさかの偶然、とんだところを見てしまったと冷や汗を流す中、さらなる偶然が俺を襲う!!
「ちょっと!? お父さん! そんな若い子連れて何してるのっ!!??」
「えぇ!? ち、違うんだ町子!! これは、つまり……!」
「最低! 不潔! 娘くらいの歳の子とホテルに来て何が違うの! この変態親父!」
「ち、違う! 違う! というかお前こそなんだ! こんな時間に若い娘が!」
「はぁ!? どの口で説教できるのよ! お母さんにこのこと言うから! クソ親父!」
なんとおっさんは、俺がナンパ成功した町子ちゃんの実父だったらしい。責める娘、弁解する父、失礼だがちょっと笑ってしまった。町子ちゃんは俺に謝りながら実父を連れて去って行った。
その後、お互い相手を失った俺と秋葉さんは、なんか流れで俺のバイト先のBarに来ていた。俺は内心マジかよと思いながら、いつものごとく、どしたん? なんか辛いことあったの? 俺でよければ話し聞くよ? 等と秋葉さんにカシスオレンジを奢りながら問うた。
「つまり~~……、わらひはこんなこと好きでやってるわけではにんなjvにえかおえお……わかりますかぁ!?」
「成程、秋葉先輩は傷ついてるんだね。それは周りの皆が悪いよ」
「れっしょ~~??」
一杯で酔っぱらった彼女の愚痴は一時間に及んだが、実にありがちだった。
良家の子女として生まれた彼女は紅葉院家の長女として相応しくなるよう家族に押しつけられ、何事も常に一番を求められ続けてきた。生徒会長だとか家のしきたりとか、今の彼女はそれらの重圧に押しつぶされている状況だったのだ。
簡単に言えば、神経集中させて積み上げたトランプタワー、もしくは世界記録挑戦中のドミノ、それが彼女自身であり、そういう綺麗な自分をぶっ壊したくなったらしい。
それで思いついた先が援助交際。汚い親父と肌を重ねることで、いわゆる"悪いこと""取り返しのつかないこと"をしたかったらしい。
うーん、成績良くても馬鹿女だなぁ。と素直に思う。
でもこのまま彼女を家に帰しても、いつかまた同じことが起こりそう。ストレスとかプレッシャーとか、本人しかわからんもんだからね。
てな訳で、ちょうど今晩のお相手が居なくなった者同士、俺は口手八丁で秋葉さんを丸めこみ、自宅に連れ込んだ後、初めてを頂いたのであった。完。
正直中学での失敗のこともあり、同じ高校の人に手を出す気はあまり無かったのだが、どっかのおっさんに取られるくらいなら俺が頂く。もったいない。
事が済むと、彼女にとって俺というのは中々最低の屑男として認識されたらしく、その後も相も変わらずストレスが溜まった時は、破滅願望持ちの彼女は俺の家に来て発散するようになった。ちゃんちゃん。
過去回想終了。
「この殿方、紅葉院家の次期当主である私を悪魔の子ですって!? なんて無礼なっ!」
「あの……、秋葉先輩、ゲームですからね? 感情移入はほどほどに……」
「決して許しません。こんな屈辱、覚えておきなさい!」
どうもゲームとかしたこと無かった彼女は俺の家に来るとこれをやりたがる。ぶっちゃけ俺に会いに来るというよりゲームに会いに来てるような気もしなくはないが、まぁ毎回俺の方も楽しませて貰ってるから良しとします。
「あ、今度来る時期末の過去問コピーとらせてもらっていいですか? というか中間の時同様、勉強教えて欲しいんですけど……」
「何ということですの!? もしかして、私は本当に悪魔の子!?」
「秋葉さーん!! 帰ってきてー!!」
期末試験まであと二週間近く、まだ勉強しなくてもイケるっしょ(過信)。