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≪4章:訪れ≫

14歳になるアイシャは虫の居所が悪かった。

いまは華の国フィオレ国から、北東にある鉄の国ジーザレスにいる。


愛剣を研ぎ直しに出しているため、いつも腰にある重さが、微妙に違う。代剣なのだ。

代剣なためか、柄を握ってもしっくりこない。

そんな状態のため、依頼を受ける気にもならない。

いざとなれば、精霊術の行使も厭わない。


鉄の国は建物まで鉄で出来ている。

だが流石に公園の噴水は白かった。

何となく、その公園のベンチに座りボケーっとしてみる。


空が青いなーー


そう思っていると、バシャーンッと凄い音がした。

正面の噴水から水柱が立っている。


くすくすっ


「あらごめんなさい、存在感が薄くて見えなかったもので。おほほほ、ご機嫌よう。」


高飛車そうな派手な令嬢が、噴水の中に沈んでいる人に向けてそう言い放った。


って、噴水の中の人うつ伏せで気絶してない!?


私はダッシュで距離を詰め、重いドレスを引っ張り上げた。ただでさえ重そうなドレスが水を吸って更に重くなっている。

水を吐き出す様にバシバシと背中を叩く。


「あなたっ、だいじょうぶ!?」

「...ッゲホッ、ゴホッ!な、なんとか...。」


落ち着く様に背中を撫でると同時に、一本の指を立てる。


「水よ、此処にあれ。」


ザアアッ


びしょ濡れの私達の服から水分が抜けて指先に集まる。

そして指先を噴水に向けると、ピューッと弧を描くようにして水が噴水に返っていく。


おぉーーっ!

わぁあーーーっ!!


それは虹を作り出した。周りにいた大人や子供たちは歓声を上げた。

ホォッ...としていたどこかの御令嬢は、すっかり乾いた。

私は彼女を立たせると、それじゃと言って立ち去ろうとした。


ガシッ


「お待ちくださいまし、貴方様のお名前は?」

「名乗るほどの者でもありませんよ。」

「ではこの後お時間ありますこと?」

「えぇ、まぁ...。」

「では、私の家にいらっしゃいませな。」


パチンッ

ヒヒーンッガラガラガラ


「いや、そんな、こんな格好でお邪魔するわけには...。」

「良いのですわ。貴方様は私の命の恩人。服装など、取るに足らないことですわ。」


御令嬢とは思えない力で私の腕を引っ張っていき、私は馬車に押し込められた。



彼女の名前はユーリ・ラゴンツェリ。

ラゴンツェリ侯爵家の長女。16歳。婚約者はこのジーザレス国の第1王子。

うっ、なんか親近感あるっ。

第1王子と結婚ももうすぐなのだが、最近すれ違っている、らしい。


「なんだか、彼を見ていると胸が痛くなるの。だからあんまり視界に入れない様にしてたら彼が怒りだしちゃって。」


ちなみに、私はまだ自分の名前すら名乗っていない。彼女が勝手に話しかけてくるのだ。

ちなみに、服装は既にドレスに着替えさせられ、いまはお茶のテーブルで紅茶片手に苦笑している。あっという間に捕まってしまった。

私はひとつ、ため息を吐いた。


「お嬢様。それは"恋"というものですよ。」

「こい..??」

「お嬢様は、その第1王子のことが"好き"なのですよ。」

「すき...?彼のことを?分からないわ。」


いまいちピンときていない様だ。

ま。どうせ、暇だし?少しくらい付き合ってもいいか?


「改めまして、私の名はアイシャ・スターランドですわ。ユーリ様のご心配、私が確認してみましょう。」


そうして私はいくつかのアドバイスをした。

そうだ、他国の王族に貸しを作ろう。



====


ジーザレス国の質実剛健な王城。

国が違えば、城も違うなーー。


「それで。そちらの御令嬢はどちら様でしょうか。」

「フィオレ王国のアイシャ・スターランド様ですわ。私の命の恩人ですの。ね。」

「ご拝顔奉り、至極光栄です。アイシャ・スターランドでございます。」

「アイシャ嬢はどう言ったご用件で?」

「いえ、私はただの見届け人の様なものですので、お気になさらず。」


そう言って、ほほほと笑う。

第1王子は一瞬警戒したような表情をしたが、次の瞬間には笑顔でそうですか、と笑っていた。

ここまではアドバイス通り、しっかり目を見て話せているようだ。あとは、自分の気持ちを素直に話せるか。


「アイシャ嬢は何故この国へ?」

「私、冒険者の真似事の様なものをしておりまして。」

華の国や熱砂の国、陽の国の話を面白おかしく話した。

ユーリもすっかりリラックスした様だ。


「少し話疲れてしまいましたわ。ではお二人で庭園でも散歩されては如何でしょうか。」

「そうしましょっ?」

「ああ。」



ふぅー。肩が凝る。

最近冒険者しかしていなかったせいか。

しかし、後は貴方を見ると胸が痛くなってしまうので見れませんでした、と庭園で話してくれれば上手くいきそうだ。


私は茶菓子を手に紅茶をズズーっと飲んだ。




「ただいま、戻ったぞ。」 

「ただいま戻りました。」

「おかえりなさいませ。」


戻ってきた2人の手は繋がれていた。

そして、ユーリの顔が少し赤みを帯びている。


よし。うまくいったなーー


私はすまし顔のまま、内心ガッツポーズをした。


後日、ユーリに庶民の格好をさせて街へ繰り出した私。愛剣を手にした私は意気揚々とユーリと買い食いをした。

そのままユーリに懐かれた私は、数ヶ月間ユーリ家に客人として滞在させてもらった。


その間にフィオレ王国とジーザレス国間の平和条約に一役買うことになった。そこで偶然、お茶会の帰りにレオン王子とジーザレス国で遭遇しちゃって居場所がバレちゃった。この国も頃合いね。


「これは、アイシャ嬢。異なところでお過ごしでらっしゃる。それで、我が国へはいつご帰国のご予定ですか?」


王城の廊下。

そこで獲物に狙いを定める様な瞳で見つめてくるレオン様。


「いえね、ジーザレス国の機械仕掛けが大変興味深くついつい長居してしまいましたわ。おほほほほ。」


都合の悪いことは全て笑い飛ばす私。

だが実際、嘘は言っていない。

ここ最近はキューブを守るからくり仕掛けの箱を職人たちと創るのに夢中だったからだ。




ーー拝啓、お父様。

いま私はジーザレス国のユーリ・ラゴンツェリ侯爵令嬢と仲良くなり、彼女の家に滞在しています。彼女はとても好奇心が強く、素直なのですが、恋愛方面には鈍感な子でした。ですが、第1王子との恋仲成就させた立役者は私。平和条約の架け橋となったのも私。お父様は褒めて下さるかしら。

追伸.

下着の上に小型のポーチを下げて、その中にからくり仕掛けの箱、中身にキューブを入れて日々肌身離さず持ち歩いております。偉いでしょう??


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