≪3章:火山の麓≫
ガチャン!パカッ!
ごくごくっ!!
「ぷはぁーーっ!!」
牛乳瓶片手に息をつく。
いま私は温泉街の旅館にいた。
「旅の疲れも吹き飛ぶってものよ、ねぇシシリー。」
あれから私は13歳になった。
温泉宿で友達も出来た。シシリー、16歳である。冒険者で弓術が得物だそうだ。
「そうねえ、あと数泊したくなっちゃうわねぇ。」
肌を一撫でしながら、答えるシシリー。
既に3日この旅館に泊まっている。
このときは、夕食の際女将が衝撃のニュースをもたらすなんて、思っても見なかったーー。
「入浴禁止!?なんで!?」
温泉に突然入れなくなってしまった。
女将に理由を聞くと紅蛙がダンジョン内で大量発生した影響で湯温度が高くなりすぎてしまったためらしい。
いま、温泉街の代表者が冒険者ギルドに討伐依頼をしているらしい。
私は自らの平穏と癒しの為に冒険者ギルドに向かうことにした。
ガチャン、ガチャン
「ようこそ!冒険者ギルドへ!!」
「おい、聞いたか紅蛙の異常発生だとよ。」
「おお、聞いた、聞いたぜ。スタンピードの前触れなんじゃねーか??」
温泉街の冒険者ギルドに入ると、早速そんな声が聞こえてきた。
冒険者間ではスタンピードの前触れかと騒ぐ者もいる中、アイシャは依頼ボードへと向かう。
そこには紅蛙の討伐依頼は張り出されていなかった。
「シシリー、受付行こう。」
シシリーに声を掛けると、依頼ボード右隣にあるカウンターへと並んだ。
「紅蛙の討伐依頼を受けたいのですけど。」
「君たち、ここら辺じゃ見ない顔ですね。冒険者証を提示してください。」
「...AランクとBランクですね、暫くお待ち下さい。」
冒険者ギルドのランクは、S、A、B、C、D、E、Fの7種類ある。EやFは街中のお手伝い程度の依頼で、CやDからは採取依頼には魔物討伐や護衛依頼、盗賊退治となり、国外移動が認められる様になる。更に、Aや Bになると高難度依頼を任される。
Sランクは世界に5名しかいないが、ドラゴンと戦ったりと英雄伝の様な超高難度依頼を任されるらしい。
「はい、アイシャさんとシシリーさんは実績も問題ないようですね。まだ紅蛙は商談中ですので受注前になります。決まり次第、ご連絡する形で宜しいでしょうか。」
「じゃあそこのテーブルで昼食取ってるわね、それで良いかしらアイシャ。」
「良いわ。」
こうして、即興パーティーでダンジョンに潜ることとなったのであった。
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暑い...。けど砂漠に比べたら、なんかやっぱ暑い...。
そこには革鎧を着た私と、同じく革鎧を着たシシリーが立っていた。
ただ、そこに立っているだけで革鎧の下が蒸れてくる。
何故ならば、ここは火山ダンジョンだからだ。
「胸の谷間が汗で気持ち悪いーっ。早く倒して温泉入りましょう。」
シシリーは胸が大きい分、暑さもひとしおだ。
私?私は平均よ。大きかったら剣も振りにくいしいまくらいがちょうど良いわね。
「もうすぐ紅蛙の生息域だから、頑張って弓構えてて。」
私は風精霊術で護りの術を私とシシリーに掛けた。これで火球はノーダメージも同然だ。
あとは舌に巻きとられない様にお互いに動きつつ、私は剣術と精霊術で、シシリーは目を射抜くだけ。
と、そこで私達は奇妙なものを見る。
紅蛙が妙に奥の壁の1点におしくらまんじゅうしている。
シシリーと私は顔を見合わせてみるも、そんな紅蛙の習性は知らない。
50体は、いる。
私は、開幕ラッシュを決めることにした。
風と水の精霊術で...エリア攻撃、氷の氷野!
パチンッ
ガラガラガラ...フシューーッ
「お見事ですわ。」
そこには見るも無惨な紅蛙だったものの、氷漬けが倒れていた。
トドメを刺す必要もない。既に彼らは死んでいる。
冷たいドライアイスで急速冷凍されたようなものだ、心臓は停止する。
さてはて、1点集中していた壁には何があるのやら。
コンコンと壁を叩いてみると...特になんら変わりないただの石壁だ。
辺りを見回してみると...右足あたりに小さな凹みがあった。
「これは、回転式扉の仕掛けですわね。」
シシリーが盗賊役を買って出てくれたので、任せると、確かに回転式扉が現れた。
その奥にはーー
「キューブ??」
金属製で見た目歯車が沢山ついた立方体が台座に置かれていた。
「これはっ!魔王の鍵だよ!」
「でもまだ不完全ね..,。とはいってもほぼほぼ完成だわ。」
唐突に現れたシャルルとミーケ。それにも驚くが、魔王の鍵ですって???
「魔王の鍵?いったい何ですの、それは??」
シシリーさんも疑問を抑えきれない様だ。
シャルルとミーナ曰く、数百年前に人類を滅ぼそうとした存在がいたらしい。だが、異世界からの勇者によって封印された。勇者はその封印の鍵をバラして世界各地に隠したらしい。その封印の鍵が目の前のキューブで、ほぼほぼ完成している。
「だから、これがここにあったことで魔物の活動が活性化したんだろうね。キャハハッ」
「その結果が、紅蛙の大量発生に繋がったと。じゃあこれ持ち出さないと元の木阿弥なんじゃない。」
「ちなみに、これが完成したらどうなるの?」
「完成したキューブをとある場所に安置すると、魔王の封印が解けるよー。」
「それって、何処??」
「それは禁則事項よ。いくらマスターでもトップであるシルフィーかウンディーネの許可が無ければ教えられないわ。」
ふむ、つまり何百年も前のことを精霊たちはしっかり覚えていて、場所もいざとなればわかるのね。
しょうがないから、私はそのキューブを腰のポーチに入れた。
そのとき、謎の獣人族の一味が現れた。
「何者だっ!」
シシリーさんのお腹の底からの裂帛の誰何が飛ぶ。
「そのキューブを寄越せっ!!」
「それはできないっ!」
「交渉決裂だなっ!!」
現れてから交渉決裂まで5秒。早すぎる。
このキューブを狙う敵は4人。
前衛2名の武器は長剣。後衛が弓術と無手。無手が引っ掛かる。
私は隠し部屋を出ると同時に一気に距離を詰めた。
(シャルル。かまいたちっ!!)
相手がかまいたちを防ぎきれずあっさりズタボロになる。どうやらそこら辺のごろつきと変わらない様だ。
「ふっ,.,!」
前衛が崩れたところに真空波を放つ。
真空波は弓術の男に当たって胴体を二分割した。
無手の男はどうやら魔術師だったらしい。詠唱を腹パンで止めた。
「ふう...こんなものかしらね。」
振り返れば、シシリーが前衛2名をぐるぐる巻きにしていた。
私も魔術師の男をぐるぐる巻きにすることにした。
「水よ、集まり給え。」
バシャッ
「うっ,,,」
「ほら、起きろ。お話し合いの時間だ。」
珍しくシシリーの語調が荒い。
きっと舐められない様にだろう。
お話し合いの時間が始まったーー。
ザグッ
「お、おまえらぜったいに...ゆるさねぇ...っゴフッ」
バタリ
前衛2名の命も絶たれた。内容が内容だったからだ。
まず、彼らの正体は”ヴァイア”の一員。魔王復活による獣人の地位向上のため、人族に恨みを募らせながら世界中に散らばった鍵をかき集める活動をしていた。どうやら紅蛙が増えたのはかき集めたその鍵の影響。彼ら自身も隠し部屋からキューブを取り出せなくなったのだとか。そこで、紅蛙を倒した後にゆっくり回収しようとしたら、なんと私達が隠し部屋を見つけてキューブを持ち去ろうとしているところにでくわした、と。
つまり、ヴァイアのメンバーは他にもいるのだ。そんな中、キューブを彼らからしたら横取りした私達のことを知られるわけにはいかない。よって、口封じするしかなかったのだ。
獣人を奴隷とする国も多い。彼らは見てよし、嗅いで探知してよし、戦わせてよし、力仕事を任せてもよしの扱いを受けているのだ。そして奴隷の子は奴隷。ずっと負のループを抜け出せない者が多いのは事実だ。だから、彼らは世の中を変えたかったのだろう。ただ、やり方を間違えているだけで...。
ブオンッ
シャンッ
私は剣を収めると、一歩踏み出そうとーー
「お前ぇ、面白えやつだな!魂も見たところ綺麗だし??風と水の精霊まで連れてるのか!」
なんか火の色の半透明な小人型が上から降ってきた。
「私は忙しいのだけど。」
「そんなツレないこと言うなよなぁー。で。どうすんだその鍵は。」
「どーしよーねぇー??とりあえず一番安全そうなところを探して持っておくわ。」
「俺の力が必要だったら、手を貸してやるぞ?俺の名はグレン。契約しよう。」
「アイシャ・スターランドですわ。」
チュッ...
ーー拝啓、お父様。
私、陽の国のノリス温泉街で休んでいたら、魔物討伐の末に魔王の鍵なるものを手に入れてしまいました。至急、"影"を動かしてください。”ヴァイア”の一員を捕らえるのです。彼らは魔王復活による獣人の地位向上のため、人族に恨みを募らせながら世界中に散らばった鍵をかき集める活動をしているそうです。幸いなことに大体の鍵が集まったキューブを私が手に入れました。
追伸.
火山のダンジョンで火の精霊との契約を結びました。