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≪初章:精霊の愛子?1≫

草原を吹き抜ける一陣の風。

一陣の風は煌めく銀髪を巻き上げていく。

そこには抜き身の剣を構えた少女が立っていた。


「はあっ!」


少女が一薙ぎ剣を振るうとその剣先から真空波が生まれ、最後の一体のゴブリンに襲い掛かる。


ザクッ


ゲェッ…!!


ゴブリンがその胴体を二分化され、ドスッと重たい音を立てて上体が地に崩れ落ちた。

その少女はふうっと一息つくと、剣を鞘に収めた。


「ま、こんなものね。」


そう言って西の空を見上げるその瞳は紫。

見上げた西空はまもなく黄昏時に入ろうとしている。少女は手早くゴブリンの右耳と胸元の魔石を6つ採取すると、油紙にくるんで腰のポーチに仕舞い込むのだった。






「よいしょっと。あ、言っちゃった。」

「ようこそ!冒険者ギルドへ!!」


キイッと扉を音を鳴らして入ったのは、とある街角にある木造二階建ての建物。


「アイシャちゃん!おかえり!」


分厚い木の板のバーカウンターを前に出迎えてくれたのは、この冒険者ギルドの受付嬢である。

アイシャ・スターランド。それが私の名前だ。

12歳で運動が大好き。領地内で冒険者をしている。

家族は父と母と兄の4人家族で、お父様はスターランド領を収めるスターランド公爵だ。

ちなみに、私に婚約者はいない。


「ただいま、カツェーレさん。」

「やだぁ、ツェーレでいいって言ってるのに。また散歩に出てたの?」

「ええ、ツェーレさん、これ買取お願いしますね。」


ドサドサッと薬草類やゴブリンの魔石、耳の入った油紙をカウンターに並べる。

はいはーい、とのんびりした声を上げながらツェーレさんは品質に見合った額をカウンターに並べる。

無言でそれを受け取ると、腰のポーチから取り出した革袋に入れた。


「一杯、飲んでかない?」


ツェーレさんはそんな私を見ながら声を掛けてきた。


「悪いけど、もう屋敷に帰らなくちゃ。母さんが心配するからね。また今度ね。」


そう返すと日が暮れる街を尻目に街で一番大きな屋敷へ馬で帰る。


屋敷の前に着くとそれぞれ門番がおかえりなさい、と言い、それにただいま、と言う。

筆頭執事や侍女たちも口々におかえりなさい、と声を掛けてくる。

それらに応じながら馬を預けて屋敷に入ると、母と兄が出迎えてくれた。


「おかえりなさい、遅かったじゃないの。もうすぐ夕食だから着替えてらっしゃい。」

「おかえり、またお前はまた街の外まで散歩してきたのか?まったく、公爵令嬢らしく刺繍でもしていれば良いものを。馬に乗って剣を振り回してばかり…。」

「ただいま。ええ、馬でとなり街の外まで散歩してきたの。帰りが遅くなってごめんなさい。街は今日も平穏、草原も問題なかったわ。これ、食事の席に飾っておいて。」


そんなやり取りをしながら自室へ向かう。

そして軽装から簡易なドレスへと着替えると、食事だ。




カチャカチャ…


「おかえり、アイシャ。それで、どうだった。」


お父様が問う。


「となり街まで視察に行きましたが、今日も平穏。草原も問題なかったです。」

「教会には行ったのか。」

「はい、孤児院も見てきましたが、異常ありません。こちらに飾ったのは孤児院で貰ってきたすみれ草です。皆、私の瞳を見ながらすみれ草みたいで綺麗だねーってそれはそれはもう可愛らしくプレゼントしてくれたのです。」

「あらまぁ。良かったわね。」


軽く微笑みながら談笑する。

私の紫色の瞳は父と兄も一緒で、スターランド家の遺伝だ。

母は、茜色の瞳をしている。

そして私の髪色は母譲りの銀髪。父と兄は紺色の髪色をしている。


こうして、私はこの日も恙無く、平穏無事に就寝したのだった。

こんな毎日がずっと続くと思っていた。

あの日までは。




「アイシャ!アイシャ!!」

「うぇっ!?お父様!?」


バンッと音を立ててお父様が寝室まで入ってきた。そのまま詰め寄られる。

まさか、この前つまみ食いしたクッキーの件がバレたの!?と思いつつ対応したお父様の口からは想定外の言葉が飛び出てきた。


「お前、精霊と契約してるのか!?」

「え、はい。風の精霊一体とだけですけど…それがなにか??」

「馬鹿者!なぜそれを報告しない!」

「うぇっ!?だって、お父様も風の精霊と契約してるじゃありませんか。珍しくもないでしょう。」

「珍しいわっ!馬鹿者!!しかも精霊の愛し子だとっ!?お前、火と水と地の精霊は!?」

「なにそれっ!意味わかんないですって!」

「火と水と地の精霊とは契約しとらんのかっ!!」


お父様にネグリジェの胸元をガッシリ掴まれ、前後に揺すられる。

覚醒してきた私の世界もぐわんぐわんと揺れる。


「…契約してませんよぉーー。」

「あなた、落ち着いてくださいませ。アイシャの首が取れてしまいますわよ。」



お父様、落ち着いて欲しい。

お父様はお母様の声にハッとした様に手を離した。

同時に、私の身体がベッドにボスンッと落っこちた。


私も落ち着こう。一体お父様は何を言ってるのか。

えーと、なんだ?精霊一体との契約は珍しくて、他の精霊と契約してないとだめなのか?だめだ、意味わからないわ。


私は思考を放棄してお父様を見た。


「一体、朝から何事ですか?」


お父様は持ち直した様で、咳払いをしつつ一枚の書状を私に見せた。


なになに、国王からか…。

内容は、教会によれば私が精霊の愛し子だと託宣があり、国に豊潤をもたらす者として王宮に召喚する、というものだ。


「うええぇぇぇぇえぇぇぇぇぇえぇぇええ!?」



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