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僕の彼女はパワハラ上司  作者: 香村雪
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7.歓迎会

その日、会社が終わってから同じ営業課のグループが俊輔の歓迎会を開いてくれた。

場所は駅前のチェーン店の居酒屋で、男女合わせて八人ほどの人が集まった。


「お疲れ様でーす!」


係長の拝原はいばらの掛け声と共に乾杯のグラス音が店内に響く。

みんな気さくで優しそうな人たちだったので、俊輔は少し安心していた。

問題なのはやはり課長まいなだろう。


「あの、今日、藍澤課長は?」

「ああ、課長はこういう場所には全然顔を出さない人なんスよ」

北山が当然のように答えた。

「あ、そうなんですか……」


「あ、高城さん。今日、藍澤課長からいろいろ厳しいこと言われてましたけど気にしないほうがいいですよ。あの人、いつでもあんな感じなんで。みんなからも女鬼課長って呼ばれてますから」


女鬼課長?

あの天使のように優しい舞ちゃんが?


「今時、部下にあんなガンガン言うスタイル流行んねえよな」

拝原がビールジョッキを持ちながらボヤき始める。


「そうスよね。でも、藍澤課長って彼氏とかいるんスかね?」

興味津々に北山が言った。

「いるわけねえだろ! 仕事ばっかで男っ気皆無マイムのフォークダンスってな!」

「うわー、出たあ! 拝原係長の親父ギャグ!」

場がどわっと笑いで盛り上がる。


「まあ、でも藍澤課長って美人と言えば美人スよね?」

「まあ美人なのは認めるけどよ。でもお前、藍澤課長と付き合うのアリか?」

北山は唸りながら悩む。

「うーん……ごめんなさい! 俺、Mじゃないんで」

「だろ! あんなのと付き合う男なんてよほどのMだぜ、ドM!」

「結婚でもしたら家でもガンガンに命令ばっかされて大変だろうな」


みんなの笑い声が響く中、俊輔は何も言えずにひそかに青ざめていた。


「あの、大丈夫ですか?」

俊輔に声を掛けたのは隣に座っていた優衣だ。

「あ、う、うん……」

俊輔は言葉に詰まる。


「もしかしてアルコール苦手ですか? ウーロン茶にしましょうか?」

「あ、だ、大丈夫です」

「きっと初日だから疲れたんですね。最初は分からないことが多いと思うので何でも言って下さいね」

「あ、ありがとうございます」

今の俊輔には優衣が天使に見えた。


歓迎会は二時間程でお開きになり、みんなと別れて家路についたのは九時過ぎだった。


―しまった!

俊輔は歓迎会で帰りが遅くなることを舞奈に連絡を入れていなかったことに気付いた。


舞ちゃん、怒ってるかな……。

俊輔はすぐにラインで連絡を入れた。


『ごめん。歓迎会で遅くなっちゃった。今から帰ります。ご飯は食べました』

数秒で既読がつき、すぐに返信が入った。


『大丈夫。みんなに聞いてるよ。歓迎会楽しかった? 先にお風呂入ってます』


よかった。怒ってないみたいだ。

でも俊輔にはもうひとつ大きな心配事があった。


家では優しい舞奈でいてくれてるのだろうか?

あの恐い藍澤課長が出てきたらどうしよう……。


そんな恐怖を予感しながらお土産としてエキナカでプリンを買って帰った。


玄関を開ける。

「ただいま」

「俊くん、お帰り!」

エプロン姿で《《いつもの》》舞奈が出迎える。


よかった。いつもの舞ちゃんだ。

俊輔はその優しい笑顔にホッとする。


「駅でプリン買ってきたよ」

「うわあ、ありがとう。歓迎会どうだった?」

「ああ、楽しかったよ。みんな良くしてくれて」


俊輔にはこの舞奈と課長が同一人物とはやはり信じられなかった。


「みんな私の悪口言ってなかった?」

「え? いや、そんなことは……」

俊輔は思わず答えに詰まる。


「でも、びっくりしたよ。まさか舞ちゃんが課長だなんて」

「あれ、言ってなかったっけ?」

舞奈はお土産のプリンを頬張りながら首を傾げた。


「あの、舞ちゃんは会社ではいつもあんな風なの?」

「あんな風って、どんな風?」

舞奈は不思議そうな顔をしながら俊輔を見た。


「いや、あの……ちょっと恐いっていうか……」

俊輔は言葉を選ぼうとしながらシドロモドロになる。


「私のこと、みんな鬼課長とか言ってたでしょ」

俊輔は思わずプリンを喉に詰まらせた。


それを見た舞奈が悪戯っぽくクスッと笑う。


「しようがないんだよ。うちの会社ってまだまだ役職に男の人が多いじゃない? 女ってことでナメられないようにしないとさ。ある程度虚勢はらないとやっていけないんだ」


“虚勢”……か。


本当に会社での課長の顔が“虚”なのだろうか。

今の舞奈の顔が“虚”で、会社での課長は本当の顔だったらどうしよう。


俊輔はそんな恐怖を覚えずにはいられなかった。



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