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僕の彼女はパワハラ上司  作者: 香村雪
2/18

2.運命 ~(1)

俊輔は距離を置きながら舞奈の歩みを見守る。

「これって何かヤバいかな? 痴漢ではないけどストーカーか変質者と間違えられそうだ」


そんな心配をしている時だ。

舞奈の目の前に段差が迫っていた。

―あ、まずい!


案の定、舞奈はその段差につまずいて、前方にダイビングするように転んだ。

「あっ!」

俊輔は思わず声を上げて舞奈に近づいた。


「大丈夫ですか?」

「あっ、さっきの。すいません。ちょっとつまづいたみたいで」

「あの失礼ですが、あなた裸眼の視力は?」

「あ・・・・・0.001・・・・・だったかな?」

舞奈はそう言いながら首を傾げる。


昔から目のいい俊輔は馴染みのない単位の数値だったので実感が湧かない。

視力0.001ってどれくらい見えるんだろう?


「あの、僕の顔、見えてます?」

俊輔がそう言うと、舞奈は目を凝らしながらゆっくりと俊輔に顔を近づけてくる。


目の前に舞奈の顔が迫る。


え? この子、よく見たらけっこう可愛いじゃん。


俊輔の心臓の鼓動が一気に高鳴る。


舞奈の顔が俊輔に10センチくらいにまでにぐっと近づいた時、舞奈がぼそりと呟くように言った。

「大丈夫・・・・・見えます・・・・・」


大丈夫ではなさそうだな。


「あの、もしよかったら家まで送りましょうか?」


俊輔の口からその言葉が出たとたんに舞奈の目つきが急に変わった。

明らかに俊輔を疑っている目だ。


そりゃ、そうだ。

見知らぬ男に家までついて来られたら危ないと思うに決まってる。


「あ、そうだ」

思いついたように俊輔は自分の名刺を取り出した。

俊輔の会社はこの近くの住所だったので信用してもらえると思ったのだ。


差し出された名刺を見て舞奈がびっくりする。

「高城・・・・・さん? あの、高城さんて二友商事のかたですか?」

「はい、ここから五分くらいのところの本社に勤めてます」

「あのっ、私も二友商事です。藍澤っていいます」

「ええ?」


何という偶然だろう。

いや、これは偶然ではない。

これを運命と言わずになんと呼ぼう。


自分と同じ会社ということで安心してもらえたのか、俊輔は舞奈を家まで送ることになった。


電車に乗っている間、舞奈はずっと俯いたまま何も喋らなかった。

警戒しているのか、恥ずかしいのかは分からない。

俊輔もその気まずい雰囲気に押され、ずっと黙っていた。


駅から歩いて三分程度の駅前のタワーマンションが舞奈の住まいのようだ。

エントランスの前で舞奈が立ち止まった。


「あ、ありがとうございます。とっても助かりました」

そう言いながら舞奈は深々と頭を下げた。

「いいえ、大したことしてませんから」


「じゃあ」

舞奈そう言ってもう一度軽く頭を下げた。

「はい、お休みなさい」

マンションの入口に向かう舞奈の後ろ姿を見ている時、俊輔の頭の中で声が響いた。


おい俊輔、このまま帰っていいのか? 

名前すら訊いてないじゃないか。

これは運命かもしれないぞ!


幸運とは向こうからやってくるものではない。

人生の道端に落ちているもの。

だから自分から掴みに行かないといつまでも掴めないものだ。

そう聞いたことがある。


そうだ!

行け! 俊輔!

その心の声に俊輔は素直に従った。


「あ、あのっ!」

舞奈は驚いた顔をしながら振り返った。


「はい?」

「あの、なっ、名前、教えてもらってもいいですか?」

「あ、名前ですか……?」

「あの、でっ、できれば連絡先……ライン、とか……」

「……」


舞奈もびっくりしていたが、俊輔はもっとびっくりしていた。

なんというずうずうしさ。こんなすうずうしさが自分の中になるなんて。


しかし舞奈は戸惑うように俯いてしまった。


「ごめんなさい!」

舞奈はそう言うと逃げるように小走りでマンションに入っていってしまった。


あっさりとフラれた。


「ハハ、何が運命だ? 世の中そんなにうまくいくわけないか……」

俊輔はふっと大きなため息をつきながら思いっきり自嘲した。


でもまあ、よくこんなふうに女性に声をかける度胸があったもんだ。

今夜はがんばった俊輔に乾杯!


フラれた自分を慰めながら駅へと向かった。








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