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僕の彼女はパワハラ上司  作者: 香村雪
18/18

18.ずっと一緒に

みんなが帰ったあと、俊輔と舞奈はリビングでゆっくりとコーヒーを飲みながらくつろいでいた。


「みんな舞ちゃんの変わった姿に驚いてたね」

「私って会社にいる時とそんなにイメージ違うのかなあ?」

「違うどころか正反対だよ」

「そっか。ねえ、俊くんはどっちの舞奈が好き?」


いきなりの質問に俊輔は言葉に詰まる。

もちろん優しい舞ちゃん――と言いたかったが、すぐにそれは違うと思った。


「そうだね。どっちとか無いな。舞ちゃんは舞ちゃんだよ。一人しかいない」

「うわあ、優等生的模範回答! 営業部に来て口がうまくなったんじゃない?」

「本心だよ」


その俊輔の言葉に舞奈は照れながらも満面の笑みを浮かべる。


「あの、舞ちゃん」

俊輔は真剣な顔で舞奈を見つめた。

「何?」

「眼鏡、かけてくれる?」

舞奈は驚いて俊輔を見た。


「あの、ここで?」

「うん」

「家ではあまりかけたくないんだけど……」

困った顔で俯いた。

「お願い。今日だけでいいから」


今まで舞奈は家で眼鏡をかけることはなかった。

仕事とプライベートの時間を切り分けるという意味もあっただろうが、やはり俊輔の前では優しい女の子でいたいという思いがあったからだ。


舞奈は仕方なさそうにバッグから眼鏡を取り出した。

「やっぱり……かけなきゃだめ?」

「うん。お願い」

舞奈は気が進まない表情で眼鏡をかけた。


舞奈の表情が見る見る変わり、会社での鬼課長の顔つきになった。

その鋭くなった目つきで俊輔を睨んだ。


「これでいい? どういうつもり?」

「す、すいません」

課長まいなの威圧感に俊輔は思わずたじろぎながら謝った。

「別に謝る必要ないでしょ。会社でもないし」


「あ、それもそうだね」

「で、何よ?」

俊輔はじっと舞奈の目を見つめた。


「舞ちゃんのお父さんに挨拶しないといけないと思って」

「私のお父さんって、この前、実家に行った時にお墓参りに一緒に行ったでしょ?」

「違うよ。君の中にいるお父さんにだよ」

「え?」

「今、眼鏡をかけた舞ちゃんにはお父さんが一緒にいるんだ。ずっとお父さんが君を見守ってたんだよ」

舞奈は黙ったまま俊輔を見つめた。


「お父さん。これからは僕が舞ちゃんを守ります。ずっと!」

「え?」

それを聞いた舞奈の顔がだんだんと緩み始めた。


「僕と結婚して下さい」

険しかった舞奈の表情が優しい舞奈の顔に変わっていく。眼鏡をかけていた時には決して見せなかった表情だ。


「こんな私だけど、いいの?」

「舞ちゃんがいいんだ」

舞奈の目から涙が溢れ出す。


その時、かけていた眼鏡のフレームの取付け部が折れ、そのままポトリとテーブルの上に落ちた。

「大変だ! 眼鏡が壊れちゃった!」

俊輔が慌てて叫んだ。

でも舞奈はゆっくりと首を横に振った。


「もう、この眼鏡はいらないよ」

「だって、お父さんの形見でしょ!」

「きっとお父さんが結婚を許してくれたんだよ」

「え?」

「お父さん、やっと安心したんだと思う。この眼鏡は私にはもう必要ないよ。俊くんがいるから」

「舞ちゃん……」


お父さんの形見の眼鏡を失った舞奈は、それからはずっと優しい舞奈になった。

会社でもとても優しい課長に……。


月曜日、いつものように会社の日常が始まる。


「おい高城、ちょっと来て!」

呼ばれた俊輔がしかめっ面をしながら藍澤課長まいなのところへトボトボと歩いていく。


「あの、何か……?」

「何かじゃないわよ! 何、この見積書? 一桁違うでしょ! いつになったらこういう初歩的なミス無くなるの?」

フロア内に藍澤課長(まいな)の怒鳴る声が響いた。


コンタクトレンズの藤澤課長まいなは外見のイメージはかなり変わったが性格まで変わることはなかったようだ。


「あの時の藤澤課長って本当にこの人と同一人物スか?」 

ぽつりと北山が呟く。


「誰だよ? 眼鏡を外せば優しくなるって言ったヤツ! 見掛けが可愛くなった分、ギャップが激しくなって余計に恐くなったじゃねえか」

「高城さん、かわいそう……」

「ん―、でも高城さん、けっこう嬉しそうだよ」

「そうかな……」


第一営業部、藍澤課長のパワハラはパワーアップしてまだまだ続くようだ。



         ~  完  ~



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