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僕の彼女はパワハラ上司  作者: 香村雪
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1.出逢い

イルミネーションが煌びやかに散りばれられたクリスマスの街。


俊輔しゅんすけ舞奈まいなが出逢ったのは、そんな冬の日の夜だった。


「これは運命の出逢いだ」

俊輔はそう確信していた。


昨今、おひとり様がブームになっている。

『おひとり様ツアー』『おひとり様鍋』『ひとりカラオケ』

昔に比べるとおひとり様が暮らし易い世の中になったと思う。


だから、こんなクリスマスの夜でも一人の寂しさなんて感じなくなった。

・・・・・ということはない。


三十歳みそじも見えてきたおひとり様の高城俊輔たかしろしゅんすけは元カノと別れてからもう一年ほど経った。

彼は仕事場オフィスから駅への帰り道、街中に響く定番のクリスマスソングを虚しく感じながら歩いていた。

すぐ横を通り過ぎるカップルを横目で追いながら大きくため息をつく。


「はあ、いいなあ・・・・・」


よそ見をしながらぼーっと歩いていた俊輔は突然の衝撃に襲われた。

「いでっ!」

気が付くと歩道に尻もちをついて倒れていた。

目の前を見ると、若い女性も倒れている。

その時、自分は人にぶつかったんだと認識する。


「ごめんなさい!」

倒れていた女性が泣きそうな声で叫ぶように謝った。

「あ、いいえ。すいません。僕のほうがよそ見をしていたんで」


俊輔は倒れている女性を起こそうとするが、その身体に触れようとした瞬間、女性は怯えるように俊輔を拒絶した。

ーえ?


「あ、だ、大丈夫です。一人で起きれます・・・・」

俊輔はそのあまりにも激しい拒絶反応に驚いた。


何だ? まさか痴漢とかに思われた?


この女性、名前を藍澤舞奈あいざわまいなという。

こちらも三十少し手前のおひとり様だ。


「ごめんなさい。ごめんなさい」

舞奈はそのあともひたすら謝り続けた。


二人をジロジロと見ながら人が通り過ぎていく。

舞奈の怯え方があまりにも激しいので、まわりからは俊輔が女性に絡んでいるようにも見えた。


「あの、すいません。そんなに謝らないで下さい。僕のほうからぶつかったんですから・・・・・」

俊輔はあたふたしながら舞奈をなだめる。


「あ、あの、本当に、ご、ごめんなさい」

そんな舞奈は謝りながら何かを手探りで探していた。


「あの、何か落としましたか?」

「すいません。眼鏡が・・・・・」

「あ、眼鏡?」

どうもぶつかった拍子に彼女の眼鏡が外れてしまったらしい。


あたりを見回すと、三メートルほど横にころがっていた眼鏡を見つけた。

「あの、これですか?」

「はい、ありがとうございます」

しかし落ちた衝撃からだろうか、その眼鏡はレンズが外れて割れてしまっていた。


「すいません。僕、弁償しますから」

「あ、いいんです。私がぼーっとしてたんで」

「いえ、そういう訳にはいかないですよ。確かすぐそこに眼鏡ショップがありましたからそこに行きましょう」


俊輔は遠慮する舞奈を半ば無理やり眼鏡ショップへと連れていった。


舞奈はそこで店員にレンズの交換をお願いした。


「あの、もしよろしければ新品を選んで下さい。もちろん代金は僕が払いますから」

「いいえ。私、このフレームが気に入ってるんでレンズ交換でけっこうです」

「そうですか・・・・・」

俊輔はちょっと申し訳ない気持ちになった。


店員がレンズの仕様の確認をして帰ってくる。

「申し訳ありません。こちらの眼鏡、レンズ交換をすることはできますが、お渡しは明日になってしまいますが、よろしいでしょうか?」


「そうですか。どうしよう?」

「あの、やっぱり新しいのを買いましょう。どれでも好きなのを選んで下さい」

俊輔は困惑している舞奈に言った。


でも舞奈は首を横に振った。

「いえ、大丈夫です。明日でけっこうなのでレンズ交換をお願いします」

「承りました。お預かりします」

店員はフレームを受け取り、伝票を書き始めた。


「あの支払いは先で。僕が払います」

「いえ、本当に大丈夫ですから」

「いいえ、そういう訳にはいかないですよ」

俊輔は断る舞奈を無理やり押し切り、自分で支払いをした。


「あの、ありがとうございました。お金まで出していただいて」

「いいえ。僕からぶつかったんで当然です。それより、このあと眼鏡が無くても大丈夫ですか? 予備の眼鏡とかコンタクトとかは持ってないんですか?」

「私、眼鏡はこれひとつしか持ってないんです。コンタクトレンズは家にはありますが、慣れなくてあまり使ってません。でも、このあとは自宅に帰るだけですから何とかなると思います」

「そうですか。じゃあ、お気を付けて」

舞奈は深々と一礼すると、駅のほうへ向かっていった。


でも、その足取りは何かフラフラしておぼつかない。


「大丈夫なのか? 本当に?」

心配になった俊輔はいけないと思いつつも舞奈のあとを追った。




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