アブラカタブラ……ではないんですが
人間、泣き疲れると眠ってしまうらしい。ホームシックの号泣をして、気がついた時には空はすっかり明るかった。泣いていたのが夜だから、どうやら今は朝らしい。
眠って、目が覚めても状況が変わることはなかった。相変わらず私はリーゼロッテの姿のままだし、部屋にも変わった様子は見られない。
「夢じゃなかったのか……」
半ば諦めて、さて、これから一体どうすればいいのだろう、というところで、ふと昨日真っ暗な空間で出会ったウサギのことを思い出した。起きたときにはあのわけのわからないウサギを鍋にして食べることしか考えていなかったが、よくよく思い返せば結構重要なことをあれは言っていた気がする。
『キミの部屋のベッドの横に説明を書いた手紙があるからそれを読んでくれ____』
思い出したウサギの言葉に、あわてて机の上を見ると、はたして手紙が入った封筒がそこにはあった。現世で見たことはないが、流れるように綺麗な筆記体。宛先は“リーゼロッテ=フェルマータ”。つまり、私宛、ということで。
「……」
嘘か本当か、あのウサギは説明だと言った。だとすれば、この中身はなにかの説明書なのだろうか。一瞬逡巡したが、ここまで来たら諦めるしかない。ええい、ままよ!と意を決して手紙の封蝋をパキリと取り出す。
封筒の中から出てきたのは一枚の紙だった。白い紙に、銀色の文字が書かれている。
「えー、何々?これは説明書です。次の言葉を唱えて、正しく利用しましょう。アーブーラカターブーラヒラケーゴマ!」
書いてあるとおりに呼んだ途端、紙に書かれた銀色の文字がまぶしいくらいに発光を始めた。
「おお!?何何々!?!?」
まぶしすぎる光に目が開けていられなくなる。思わず目を閉じ、そして再び開いた時。
私は一人、巨大な劇場のようなところに座っていて、そして目の前のステージではなにか影絵のようなもので作られた劇が始まろうとしていた。