表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マンホールから始まる破滅物語  作者: みんとぶるう
2/4

『テイルオブソード』

 今から丁度一年前。突如として配信を開始し、世の人々を震撼させ一世を風靡したスマホアプリがあった。


 アプリの名前は『テイルオブソード』。剣と魔法のファンタジー世界で、一振りの剣を探すために生まれた無垢なる少女の物語。


 あらすじとしては、平民の身分に生まれた主人公に、重要なアイテムである剣を使う素質があることが判明して、その力を磨くために貴族ばかりの魔法学園に通うことになり、そこで個性豊かなイケメン達と出会って……という、まあよくある王道展開もの。ジャンルとしては乙女ゲームだが、美麗なグラフィックにちょっとした謎解き要素や育成要素、例に漏れず魅力的なキャラクター達が相まって、幅広い層に人気になったゲームだ。


 一時は社会現象とまで言われたゲーム。当然私もプレイしたのだが、残念ながら私の性癖ドストライク!なキャラはいなかった。元来飽きっぽくもある私は、次々と色々なものに手を出すが、ずっと手元に残していたアプリはそう多くはない。『テイルズオブソード』略して『テード』も、そんな理由でアンインストールしたアプリのひとつだった。


 だからというか何というか、私自身そこまでこのゲームについて詳しい、というわけではない。攻略だって、せいぜい2,3人しかやっていない。このゲームの攻略対象は全部で7人だったはずだから、半分いってないといったところだ。しかも、プレイしたのが1年前とあって、大雑把なあらすじしか覚えていない。細かい設定とか選択肢とか、そういうのはもうさっぱりだ。


 けど、そんな私でさえも覚えているキャラがいる。常に主人公の前に立ちはだかり、物語をめちゃくちゃにしようとするやっかいな悪役____リーゼロッテ=フェルマータ。


 ゲーム内での彼女の立ち位置は実にわかりやすく悪役だ。やっかいなことに、例えどのキャラのルートに入ろうとも必ず出張ってきてはヒロインの邪魔をし、そしてなぜか世界を滅ぼそうとしたり悪魔の封印を解いてしまったり物語の舞台であるフォルタリア王国を乗っ取ろうとしたり、色々なことをやらかして最終的には処刑される、はた迷惑なキャラである。


 やることはやたらと壮大なのに彼女本人は小物で、共感要素が何一つとしてない。一部ファンからは「なんであんなくそみたいな悪役にしたんだろうね?」とか、「マジで要らない」とか、「テード運営最大の失態」とか、言われたい放題言われているキャラでもある。そんなにプレイしなかった私ですら「こいつやべー」と思っていたのだから、他のガチ勢にとっては本当に余計なキャラだったのだろう。某笑顔動画では、mvで一瞬流れる彼女の処刑シーンに赤字で「やったぜ」弾幕が流れていたらしい。




 ……どういうわけか、そんなリーゼロッテに。

私は今。なっている。




 何が起きているのやら、現状さっぱりわからない。それに、ひとつ恐ろしいことがある。私は推しの声優さんの声を聞いてここまでやってきた。けど、もしもここが本当の本当に件のゲームの世界、なのだとしたら、おかしいのだ。


 このゲームに、私の推し声優さんボイスのキャラクターは存在しない。

 

それじゃあ一体私は何に呼ばれて、というか何を探しにここにきて、こんな状態になっているのか?わからない。わからなすぎる。ああ神様、私は生前何か悪いことをしてしまったのでしょうか。弟のプリンを毎回食べていたことが原因なのでしょうか?こんなことならもっと真面目に生きておくべきだった。赤点隠したりしなければ良かった。受験期にこっそり動画見まくらなければ良かった。台所に出現したGを始末しなければ良かった。


だってだって、こんなの地獄に他ならない。たいした知識もないゲームの世界で、皆の嫌われ者の悪役の中にはいって生活する?いやいやいや、そんなの悪夢だ。クレイジーだ。しかもこの子、最期には必ず首ジョキン!じゃないですかやだー。



「ははっ……言ってる場合かよ……ジーザス」



 あまりの超展開にふらりとよろめく。ぽすん、とベッドに倒れ込む。手を額にあてて上を見れば、天蓋付きのベッドの天井の裏には見たこともない並びの星座を形作る装飾があった。あまりに精巧なそれに、少なくとも自分が慣れ親しんだ場所ではないということを再認する。



 「……とにかく。とにかく、よ」



 ここはひとつ、シンプルに考えよう。私は前世(この言い方が正しいのかはわからないけど、死んでしまったので仮で)から受け継がれる煩悩で、本来行くべきだったところから逸脱してこんなところに来てしまった。決してまだ確定したわけではない。わけではないが、おそらくここは自分が一時だけプレイしていたゲームの世界。元気いっぱいに仕事をしている私の推しの声優さんはこんなところには当然いないし、そのボイスのキャラクターも記憶では存在しない。そして自分の姿はなんと、ゲーム内で1、2を争うどころか常にトップを爆走する嫌われ者の悪役令嬢になっている。


 ……うん。シンプルに考えた結果、やっぱりわけがわからないし良いことが何もないと言うことだけはわかった!!



 「……そうとわかれば、こんなわけのわからないところで道草を食っている場合じゃないわ。早くこの体を抜け出して、空の上へ行かないと」



 そう結論づけた私は、ぎゅっと体に力を入れる。何をしているのかと言われれば、体から抜け出そうとしているのだ。前世では、死んだ少し後に、吸い寄せられるようにふわふわーっと意識が浮いて、気がついたら空に浮かんでいた。多少勝手は違うが、私がここにいるべき人間でない以上、同じような理屈で体の外に出られると思ったのだ。


 ……しかし、いつまでたってもふわふわするあの感覚は襲ってこない。代わりと言わんばかりに足下のベッドはふわふわしながらも確かに実体を伴っている。



「………………おいおいおいおいおいおい嘘だと言ってよエドモンド」



 何だっけこれ。誰だっけエドモンド。なんて考える予知もなく、すうっと体から血の気が引いて、たらりと冷や汗が流れ落ちた。


 出られない。


 ぜんっぜん、出られない!!!!



「嘘でしょ!?えいやっ!このっ!出ろ!私の魂出てこい!こら!!」



 まずいまずいまずいまずいぞこれは!


 自分死んでるし?いざとなったらファーっと出られるっしょ~楽勝ww……とか脳天気に考えていた数秒前の自分!これはどういうことだ!?まさかお前が余計なフラグを建てたのか!?!?


 慌てて布団から飛び起き、「だああああああ出てくぞこの野郎!!」と叫んでガンガンと頭をはたいたりベッドの上をゴロゴロ転がったりギギギ、と口をつねってみたり、かえって脱力してみたり……


 思いつく限りの出られそうな方法を試してみたが、どれもこれも空振り。いよいよもって焦りが来て泣きそうになる。



 「う、嘘やん……これ、私、空の上いけないじゃん……えっ……?何……?死ぬの……?私、このままここで処刑されるまで過ごして首ジョッキンされて2回死ぬの……?」



 前世はマンホールの下への転落死、後世は度重なる悪事で首ちょんぱで死にまーす!wwって……?



「じょ、冗談でしょ……?っていうか、冗談じゃないっての!!」



 わけのわからないままわけのわからない世界でわけもわからずに過ごす?何回も言うけどそんなの地獄だ。やっぱり神様は私を地獄へ落とそうとしているのだろうか。



「そりゃ天国に行けるって確信してたわけではないしそこまで傲慢じゃないけど……!」



 だとしたってもっとこう、血の池とか針山とか底がない壺で延々と水をくみ続けるとか、そういう地獄や冥界を想像してたのに!何!?ニュータイプ?最近はニュータイプの自学になっているの?働き方改革の余波がそんなところにまで浸透しているというの!?



「でも、だとしたって諦めるわけにはいかないんだよ!頑張れ、頑張れ自分!!お前は出来るやつだ!!諦めたらそこで試合終了だ!!!」



 気合いだーーー!!と叫んで頭を勢いよく天蓋を支えるベッドの柱の一本に振りかぶる。




「リーゼロッテ様、そろそろお目覚めの時間で……えっ?」




柱とおでこがMマジでKくっつく5(5秒前)。部屋の扉がガチャリと開き、メイド服を身にまとった一人の女性が入ってきた。一瞬だけ目が合って、その目が見開かれて……




 カアアアアンッ!!といい音を立てて額は柱にクリティカルヒットした。








「きゃああああああああ!?!?リーゼロッテ様!?!?だっ、誰かきてぇぇええっ!!リーゼロッテ様が!!」





 ああ、どうか抜け出せますように……と祈って、メイドさんの悲鳴とバタバタという足音と共に、私は意識を手放した。


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ