【5-7】あぁ、身長
父のことを思い出すと、いつもその背中を思い出す。
モニカの父は研究者で、一日の殆どを机と向き合っているような人だった。
(……おとうさん、おとうさん)
ほんの少しだけこっちを振り向いてほしくて、幼いモニカは父の背中に手を伸ばしかけ……そして、その手を下ろす。
父が大事なお仕事をしていることは知っていたから、その邪魔をしたくなかったのだ。
だが、その日の父は、まるでモニカの心の声が聞こえたみたいに書き物をする手を止めて、こちらを振り返ってくれた。
髭だらけの顔に、丸くて小さい眼鏡。眼鏡の奥の目は穏やかで、理知的だ。いつだって、父は穏やかな人だった。
父はモニカが下ろしかけた手を両手で包むように握ってくれた。それが嬉しくて、モニカは口をむずむずさせる。
「…………えへ……おとうさん……」
「うーん、私はそんなに年上に見えるのかな?」
「殿下、この小娘の寝言に耳を貸す必要はありません」
「でも、叩き起こせとは言わないんだ?」
「そ、それは……その……びょ、病人ですから」
聞き覚えのある声は、すぐ真上から聞こえた。
モニカは小さく呻きながら目を開く。
どうやらここは医務室のベッドの上らしい。以前も運ばれたことがある場所だ。
モニカが眠るベッドの横には、二人の人影が見えた。僅かな光を受けてキラキラと光る、ハニーブロンドとプラチナブロンド。
「……でんか……と、あしゅりぃさま……?」
生徒会長フェリクス・アーク・リディルと、副会長シリル・アシュリー。
モニカの手を握り締めているのは、フェリクスだ。
どうしてこの二人がこんなところにいるのだろう? どうして、フェリクスはモニカの手を握り締めているのだろう?
ゆるゆると覚醒し始めたモニカの頭が、ここに至るまでの経緯をぼんやりと思い出す。
(……確か、お茶会で苦い紅茶を飲んだら、目眩がして……)
そこから先の記憶が酷く曖昧だ。ただ、何か酷く怖い夢を見ていた気がする。
「君は、お茶会でノルン伯爵令嬢に一服盛られたんだ。中毒を起こして酷い錯乱状態だった」
「……っ!!」
モニカはさぁっと青ざめると、フェリクスの手から自分の手を引き抜いた。そして、ベッドから転げ落ちるような勢いで下りると、未だ力の入らぬ体を無理矢理に動かして、床に額を擦り付ける。
「おいっ、小娘っ、何をしているっ!?」
シリルがギョッとしたような声をあげ、モニカを立たせようとした。
だがモニカは平伏したまま、ろくに動かぬ唇を震わせて言葉を絞り出す。
「……ごめい、わく……おかけ、して……たい、へん……もうしわけ……ありませ、ん、でした……」
言葉を発すると、それだけで吐き気がした。頭がぐるぐるして目眩が酷い。
それでも、謝らなくてはと思った。だって、モニカはお茶会の席を台無しにして、騒ぎを起こしたことには変わりないのだ。
「生徒会、なのに……ちゃんと、できなくて、ごめんなさい……」
謝罪の声に涙が滲む。なんだか、酷く目の奥が熱かった。いつも以上に緩くなった涙腺から、ボロボロと涙がこぼれ落ちる。
「ノートン嬢、顔を上げて?」
フェリクスが膝をついて、モニカの髪を撫でる。だが、モニカは顔を上げることができなかった。
あぁ、きっと、みんな自分に失望している、呆れている、お茶会でまともな振る舞いもできない人間だと。
自分で自分を責める言葉は、いくらでも思いつく。そうやって際限なく自分を責める言葉を思い浮かべて、自分の心を擦り潰していると、モニカの脇の下に、ニュッと手が突っ込まれた。
その手が猫の子を持ち上げるかのように、モニカを持ち上げる。
「えぇいっ! 殿下に膝をつかせるとは何事かっ!」
モニカを持ち上げたのはシリルだった。
あぁ、またアシュリー様に怒られてしまった。自分が上手に振る舞えないからだ……とモニカがメソメソ泣いていると、シリルは口をへの字に曲げる。
そうして問答無用でモニカをベッドに押し込むと、丁寧な手つきで布団を上からかけた。
「貴様は被害者だ! 被害者が頭を下げる道理があるかっ!」
「で……も……」
「死にそうな顔色の病人が余計な口を利くな! 次、勝手にベッドから下りてみろ。縄でベッドに括りつけてやる!」
シリルが眉を釣り上げて物騒な宣言をしたその時。
「……あら、医務室で何を喚き散らしているの? ……お、に、い、さ、ま」
ベッドを仕切るカーテンが揺れて、そこから美しい顔だけがニュッと現れた。
真っ直な黒髪に瑠璃色の瞳。美しい容姿と鬱々とした雰囲気の令嬢、クローディアである。
(………………おにいさま?)
シリルはギョッとしたような顔でクローディアを凝視し、不機嫌そうに唇をへの字に曲げて黙り込む。
一方、フェリクスはにこやかな笑みをクローディアに向けた。
「クローディア・アシュリー嬢、貴女の応急処置が的確だったおかげで、一人の生徒が助かった。生徒会長として心からお礼を言うよ。ありがとう」
「………………どういたしまして」
この国の王子に礼を言われたというのに、何故かクローディアは嫌そうな顔をしていた。
下手をしたら不敬とも取られかねない態度に、シリルが眉を吊り上げる。
「光栄にも殿下にお褒めの言葉をいただいたのだ。もう少し喜べ」
「……あら、誰かさんみたく、褒められた馬鹿犬みたいに尻尾を振れと?」
クローディアは無表情のまま鼻で笑うという器用な芸当をやってのけた。
大抵の人間の神経を逆撫するような態度に、案の定シリルは青筋を浮かべる。
「誰が犬だっ!?」
「……誰もお兄様のことなんて言っていないわ。あら、そんなに顔を引きつらせてどうしたの? 昏睡状態のモニカ・ノートンを抱き抱えて運ぼうとしたけど体力が無くて途中で力尽きて会長に代わってもらった、お、に、い、さ、ま」
抑揚のない声で淡々と告げられる言葉に、シリルは真っ赤になり、次の瞬間には青ざめ、そして最後はその顔色は真っ白になっていた。ただただ哀れである。
「……わ、わたし……重くて、すみ、ませ……」
モニカが精一杯のフォローをすれば、シリルはバリバリギシギシと歯軋りをした。しかし何も言わない。
どうしよう、とモニカが狼狽えていると、フェリクスがモニカの頬をするりと撫でた。
「君は重くないよ。寧ろ、軽すぎて驚いた。もう少し食事を増やした方がいい」
「は、はい……」
フェリクスはモニカの毛布をかけ直すと、シリルに目を向ける。
「さて、女性の病室に長居をするものでもないね。我々はそろそろ退室しよう」
シリルはクローディアのせいで引きつらせていた表情を戻し、フェリクスの言葉に「はい」と頷く。
そして、モニカをギロリと睨んで告げた。
「モニカ・ノートン。今日は生徒会室には来なくていい。来ても、貴様の仕事など無いと思え」
「寮に戻ってしっかり休むんだよ」
そう言ってシリルとフェリクスはモニカに背を向ける。
クローディアはポケットからハンカチを取り出し、これみよがしにヒラヒラと振って見せた。無表情で。
そんな露骨なクローディアの態度に、シリルがこめかみを引きつらせる。
「クローディア。その小娘が病室を抜け出して、生徒会室に仕事をしに来ないよう見張っていろ」
「……あら、心配ならそう言えば良いのに。モニカ・ノートンの寝顔をやたらと心配そうに覗き込んでオロオロしていた、お、に、い、さ、ま」
シリルは全身をわなわなと震わせながら、フェリクスはそんな兄妹のやりとりに楽しそうにクスクス笑いながら、医務室を出て行った。
二人が出て行くと、途端に医務室は静かになる。モニカは意を決して、クローディアに話しかけた。
「あ、あの、応急処置してくださって……あ、ありがとう、ござい、ました」
「……記憶は、どこまであるの?」
「こ、紅茶を飲んだところまで、です……」
あとは怖い夢を見ていたことしか覚えていない。そうして気がついたら医務室のベッドの上だったのだ。
クローディアは近くの椅子に腰を下ろすと、長い黒髪をかきあげた。
「……紅茶に混入されていたのは、瞳孔拡散作用のある目薬よ」
「め、目薬? ……あっ、だから、明るい場所なのに、瞳孔が……」
中庭のティーパーティでカロラインと向き合った時から、モニカはカロラインに違和感を覚えていた。
通常明るい場所にいると、目に入る光の量を調節するため、瞳孔は小さくなるものである。しかし、カロラインの瞳孔は大きく開いていた。
「あ、あの、カロライン様は……目のご病気、だったんですか?」
「……あの目薬は美容目的。瞳が大きいほど、目が大きく見えて美しいと盲信している馬鹿が、危険性も知らずにああいう目薬に手を出すのよ」
カロラインが所持していた目薬は、本来は眼病の検査などの際に使われるものである。容量を守って使う分には問題ないが、使い方を間違えれば毒となるものだ。
そして、彼女はそれをモニカのティーカップに入れた。
「……あの目薬は色々混ぜ物がされていて、酷く苦い。それを混入した紅茶を飲んで、貴女が咽せるところを笑いものにしてやるつもりだったのね」
だから、カロラインは人の多い中庭を選んだのだ。
モニカが見苦しく紅茶に咽せているところを、大勢の前で嘲笑うために。
ところがカロラインにとって誤算だったのは、モニカがそれを普通に飲み干してしまったことである。
「あの……えっと……苦いけど、飲めなくもなかったので……」
「……生物の味覚が何のためにあると思う? 美食を味わうためじゃない。味を判別して毒物による危険を回避するためよ」
危険回避がなっていない、と遠回しに叱られ、モニカは黙り込む。
確かに警戒心が足りなかったかもしれない。カロライン達が自分に悪意を持っているのは明白だったのだから、なんでも口にするべきではなかった。
クローディアが言うには、モニカは上手く毒を吐くことができなかったので、薄い塩水を飲ませて無理やり毒を吐かせたらしい。そうして胃の中を空っぽにしたところで、胃の粘膜を保護するミルクを飲ませたのだという。
「……吐かせたら胃の中身は殆ど空っぽだった。見たところ年齢の割に低体重だし、生命を維持する気を感じないわね」
「…………うっ」
今日に限っては昼食を食べられなかったのは、クローディアから逃げ回っていたからである。それでも、普段の食事量が充分ではないという指摘は、以前ロザリーにもされていたので耳が痛い。
しょんぼりと項垂れるモニカに、クローディアはやはり鬱々とした声で告げた。
「小柄な人間ほど、毒の致死量は少ない……標準体型の大人なら死に至らないような毒も、幼児体型には致死量になることもあるわ……命拾いしたわね」
「よ、幼児体型……」
モニカはベッドに横たわったまま、クローディアを凝視した。
スレンダーであるが、出るところはしっかり出ている長身の美女である。モニカと同じ年にはとても見えない。
体型にそれほどコンプレックスを感じたことはないけれど、ラナやケイシーと仲良くなってから、モニカはほんの少しだけ自分の子どもっぽい容姿を気にするようになっていた。
密かに打ちひしがれていると、クローディアは身を乗り出してモニカの顔を覗き込む。
「……あら、どうしたの幼児体型? そんなにまじまじと眺めて幼児体型。一応言っておくけど、今日は固形物の摂取はやめておきなさい。吐くわよ幼児体型」
「そ、そんなに、幼児体型、幼児体型って言わないでくださいっ……」
「……だって、貴女に命の恩人だと感謝されたくないんですもの」
クローディアの言葉にモニカは目を丸くする。
そういえば彼女は、フェリクスに礼を言われた時も嫌そうな顔をしていた。
モニカは当然にクローディアに感謝しているし、礼を言いたいと思っている。だが、クローディアは照れ隠しではなく、本気で不快そうな顔をしているのだ。
「その……感謝されたくないのは……わたしが、嫌い……だから……ですか……?」
震える声で問うと、クローディアは姿勢を正した。
人形のような無表情は変わらない。だが、悪意とは少し違う暗い情念が、瑠璃色の目の奥でわずかに揺れた気がした。
「……別に嫌いじゃないわよ……好きでもないけれど」
気怠げにほぅっと息を吐くクローディアに、モニカは思い切って訊ねる。
「じゃ、じゃあ……なんで、この一週間、わ、わたしを……尾行して、たん、ですか?」
それは、クローディアがモニカを〈沈黙の魔女〉と疑っているからだと、モニカはずっと思っていた。
しかし、クローディアは蛇のようにするりと音もなく距離を詰め、モニカの顔を覗き込むと低く囁く。
「……貴女が、私の婚約者を誑かしたからよ」
「……へ? ……え? ……えぇっ?」
口をパクパクさせるモニカに、クローディアは淡々と言葉を続ける。
「……同じ生徒会役員というだけならまだしも、ダンスの練習まで一緒だなんて許せるわけないでしょう。私だってろくに踊ってもらったことないのに」
生徒会役員、ダンスの練習。
この二つのキーワードから、真っ先にモニカが連想したのは、フェリクスとシリルであった。
だが、シリルとは兄妹となると、必然的に答えは限られてくる。
(ま、まさか、殿下の……っ!)
クローディアに正体がバレた訳ではないというのは、安心すべき点である。
だがまさか、フェリクスの婚約者に、フェリクスを誑かしていると誤解されるなんて!!
これは早急に誤解を解かねば。モニカはフェリクスのことなんて「体が黄金比の人」ぐらいにしか思っていないのだ。
どうにか、護衛任務のことを隠して、クローディアの誤解を解かねばとモニカが頭を悩ませていると、医務室の扉が開く音がした。
「モニカーーーっ! お見舞いにきたっすーーー!」
「しーっ、しーっ! 医務室で大声出しちゃダメですよぅ」
聞き覚えのある賑やかな声は、グレンとニールだ。
グレンは声もかけずにカーテンを開けて、大股でベッドに近づく。
「モニカ、大丈夫っすか!? うっわ、顔色真っ青じゃん! あっ、お見舞いなんすけど、肉でいいっすかね?」
「中毒症状起こした人に、肉はダメですよ」
グレンを窘めるニールは、そこでベッドサイドに腰掛けるクローディアに気づくと、どこかぎこちなく笑った。
「あ、クローディア嬢、こんにちは」
「………………」
クローディアは無表情だ。だが、明らかに纏う空気が変わった。鬱々とした空気や、気怠げな空気が綺麗に消えている。
ニールは無表情のままじっと自分を見ているクローディアに、少しだけ困ったような顔をしていた。
「えっと……その……あっ、生徒会長から聞きましたよ。ノートン嬢の応急処置をクローディア嬢がやってくれたって」
「…………」
やはり、クローディアは無言かつ無表情である。相槌一つすらない。
ニールは困ったように眉を下げつつ、懸命に言葉を続けた。
「さ、流石クローディア嬢ですね! すごいです!」
「…………そう」
その時、モニカは確かに見た。
小さく呟くクローディアの口角が、僅かに……ほんの僅かに持ち上がったことに。
フェリクスに褒められても嫌そうな顔をしていたクローディアが、僅かに嬉しそうな気配を漂わせているのだ。
(も、もしかして、婚約者って……)
モニカが漸くその事実に気付いた時、グレンが「あぁっ!」と大きな声を上げて、クローディアを凝視した。
「この女の人! 前にモニカのこと追い回してた……」
「えっ、追い回す?」
グレンの声にニールが驚いたように目を丸くする。
すると、クローディアは蛇よりも静かに立ち上がり、すすすとモニカのベッドにすり寄った。
「……それは誤解よ。だって、私達…………お友達だもの」
初耳である。それどころか、「嫌いじゃないけど好きでもない」「幼児体型」と言われたばかりだ。
だが、クローディアは呆気にとられているモニカの手をするりと握りしめて言った。
「……ねっ? 私達お友達よね? ……モ、ニ、カ?」
なんという鮮やかな掌返しだろう。
モニカが呆然としていると、クローディアは瑠璃色の目でじぃっとモニカを見据える。その無言の圧にモニカは負けた。
「は、はぃ……」
モニカがガクガクと頷けば、クローディアは「ほらね」と言ってグレンとニールを見る。
「……それに、私はニールの婚約者よ。貴方、友人の婚約者を疑うの?」
「えっ、こ、婚約者ぁっ!? ニールに!? 婚約者ぁ!?」
大きい声をあげるグレンに、ニールが曖昧に笑う。
「えーっとですね、婚約は親同士が勝手に決めただけで……」
「……あら、私に不満が?」
クローディアが人形のような顔をニールに向ける。なまじ顔が整っているだけに、無表情でも妙な威圧感があった。
ニールは顔を強張らせて、ブンブンと首を横に振る。
「いいいいいえ、そういう訳ではなくて、僕なんかじゃ不釣り合いで、クローディア嬢に申し訳ないなぁと言いますか……っ、その……えっと……」
ニールの目は、クローディアの頭のてっぺんをチラチラと見ている。
その時、モニカとグレンの心の声が重なった。
((あぁ、身長……))
ニールは同年代の少年たちと比べてやや小柄である。一方、クローディアは女性にしては長身……その身長差は誰の目にも明らかであった。
* * *
廊下を歩くフェリクスは珍しく柔和な笑みを引っ込めていた。そうしていると、冴え冴えとした酷薄な美貌がより一層際立つ。
そんなフェリクスから静かな苛立ちを感じているのだろう。後方を歩くシリルも、神妙な顔をしていた。
フェリクスは歩きながら自分の中の苛立ちと静かに向き合う。
(……あぁ、困ったな。私は怒りの無駄遣いはしない主義なのだけど)
自分の中にある怒りという感情は、然るべき時に然るべき相手に向けられるものだ。こんなところで、無闇に発散していいものじゃない。
……それでも、先ほどのモニカの姿が、フェリクスの中の煩わしい記憶を引っ掻く。
──生徒会、なのに……ちゃんと、できなくて、ごめんなさい……
そう言って、涙を浮かべて小さく震えていた少女の姿が、幼い少年の姿と重なる。
──王族なのに、ちゃんとできなくて、ごめんなさい……
(あぁ、やっぱり、似ているんだ。あの子は………………に)
そのことを静かに確認し、フェリクスは口を開く。
「今回の件、私は少々腹に据えかねている」
いつになく冷たいフェリクスの言葉に、シリルはハッと表情を引き締めた。
「首謀のノルン伯爵令嬢と他二名を、事情聴取のため応接室に待機させています。それと……」
シリルは言葉を切ると周囲を見回し、フェリクスに耳打ちする。
「……ケルベック伯爵令嬢が生徒会室に乗り込んできまして。ノルン伯爵令嬢と、話をしたいと」
「ケルベック伯爵令嬢? あぁ、子リスの妹だっけ?」
「血縁関係の無い、姪にあたるそうです」
ふぅん、と呟き、フェリクスは唇の端を持ち上げる。
「丁度良い。ならば、ケルベック伯爵令嬢にも同席してもらおう」
美しく整った顔にゾッとするほど冷ややかな笑みを浮かべて、フェリクスは宣言する。
「さぁ、楽しいティーパーティをしようじゃないか」
※誤飲、中毒症状の応急処置は、飲み込んだ物によっては吐かせない方が良い物もあります。医師・救急の指示に従いましょう。




