第1話 お仕事準備はバッチリです
海に面した広大な土地に、その屋敷は建っていた。
元々この土地の領主が住んでいたその屋敷はラクア城と呼ばれており、住人が変わった今も地元の人間からは親しみを込めてそう呼ばれ続けている瀟洒な城であった。
残念ながら現在荒れたその城は、以前の姿を知らない子供たちからは「幽霊屋敷」と呼ばれている。
その屋敷から少し離れた崖の上に、ララは宇宙船を着地させた。
上空から見たラクア城は美しかったが、近づくにつれその荒れ具合が目に付く。
「見た目は古典風だけど、清浄機能は稼働してるって話だったよね?」
何もない空間にララが問うと、フロントモニターに女性の顔が映し出された。
この船の頭脳を人型に変換したものである。
「ええ。ただし、きちんとメンテナンスをしていればの話ね」
船が作り上げた女性の顔は、困ったように眉尻を下げる。波打つはちみつ色の髪に、美しい紫色の目。いかにもコンピューターが作り出した作り物じみた女性の姿。それはけっして生身の人間には見えないが、それでも人工の映像とは思えないほど自然な仕草だ。
辺境の惑星とはいえ、資源と自然が豊かなこの惑星デメテルは、一般的にはリゾート地としてその名を知られている。都市惑星に比べても生活環境になんの問題もない。ただ、都市部に比べて人の手が必要な場面が、多少多いというだけである。
「まあ、とにかく行ってみましょうか」
ララは安全ベルトを解除すると立ち上がり、用意してあった大きめの肩掛けのカバンを肩にかける。最後に柄の長い箒を手に持つと、鏡で自分の姿を前後ろと確認する。
つややかな肌に、猫を思わせるアーモンド形の茶色の目。鼻は低めだが、唇はふっくらと愛らしい。
服は仕事の時動きやすいよう厳ついブーツと、ポケットの多いアーミー風のパンツスタイルだが、耳には大きめのドロップピアスがゆれ、首には丸いカボション(宝石などをドーム型に加工したもの)のついたチョーカーをつけているのが絶妙のバランスで女の子らしさを残している。
背は低めだが、バランスがいいので遠目には実際よりも大きく見られることが常だ。
イチゴミルク色のふわっとした髪はあとでバンダナでまとめることにする。
自分の姿に合格点を出し、ララは少し緊張した面持ちで大きくうなずいた。
戦闘準備は万全だ。
「マミ、お留守番よろしくね」
そう言うと無人の船に手を振り、ララは徒歩でラクア城に向かった。
次は「メイドじゃありませんよ? 家政婦です!」です。
「幽霊屋敷」と呼ばれるラクア城に住んでいるのは、いったいどんな人なのでしょうか?