第94話 陽気なサテュロス族 1
同族が目の前で殺されたのを目撃し、フィリアナは気分が悪くなってしまった
俺たちは足取りがおぼつかないフィリアナを支えなんとか村までたどりついた。
「とりあえず俺が行って話してみる」
そう言って村へ入ろうとしたとき横から聞き覚えのある声がした。
「あららこりゃあのときのご一行じゃないの、どうしたんだ?」
声のするほうを見るとあのとき出会ったサテュロスの女がいた。茶色の短髪に同じ色の眼、スボンとシャツというラフな格好だ。
「突然で悪いが少し助けて欲しいんだ、仲間の具合が悪くて」
すると彼女は俺たちを見てにやりとした。
「なになになに?まさかこの営業?」
サテュロスの女は小指を立てると指で作った輪の中をくぐらせ下品に笑った。
「違う今はそれどころではなくってだな」
「じゃああれか女の日ってやつか?馬にもくるの?」
無神経な彼女に頭に血が上る。こちらは今そんな冗談には付き合っていられないのだ。
「わーかったよそんな怖い顔すんなって兄さん、さあさあ入ってくださいよー」
彼女は俺の肩をバシバシと叩くと村の中へと案内した。
中では彼女と同じような姿をした人たちがにぎやかに動き回っている。建物は大きな木から作られエルフ族のものとは対照的にどっしりとした感じだ。サイズ自体も大きい。
住人はこちらの存在に気づくとわらわらと集まってきた。
「はいはいさがってさがってこりゃ見世物じゃないんだよ、お客さんなの、帰った帰った」
「なああのケンタウロスの娘名前なんていうの、ほらこれで教えてくれよ」
言ってるそばからちょっかいを出そうとしてくる。
「えーしょうがないな」
「おい、乗るな、今はそれどころじゃないって言ってるだろ」
俺の言葉に彼女はしぶしぶまた案内を再会した。
しばらくして大きめの倉庫へと連れて行かれた。中は農耕具や木の樽、干草などが置かれている。
「こんな場所で悪いな、うちじゃ床がぼろすぎて胸の重みで抜けちまう」
俺は彼女の下品な冗談を無視し、フィリアナを床へと座らせた。顔色は先ほどよりも良くなっている。
「すいませんわたくしのせいでみなさんにご迷惑をかけてしまって。こんなでは騎士失格ですね」
「だれにだって恐怖はある。恐れの無いものなどいない」
シャリンの言葉に俺はうなずいた。正直あのときフィリアナが倒れていたからまだ冷静になれたのだ。飛び散った鮮血の臭いが今でも鼻の奥に残っているようで気分が悪い。
しばらくこの小屋で休ませて貰うことにした。