第92話 黒い風 1
突然現れた狩猟犬と男に居場所がばれてしまった一行
男の言葉に今度こそ背筋が寒くなった。エレナーゼを追いかけている冒険者に見つかってしまった。彼らは犬を使って探していたのだ。
「まさかこんなに仲間がいたとはな、それとももしかしてお前たちが捕まえたのか?」
「あんたたちなんなのよ、死にたくなければ下がりなさい!」
ニーナの言葉を無視して男の一人が剣を抜きこちらへ走ってきた。
「下がるのはお前らだ怪我したくなきゃそのスフィンクスをおとなしく渡しな!」
フィリアナが男の前に前足を上げ立ちふさがる。そのまま後ろを向くと怯んでいる隙に強烈な蹴りを食らわせた。
一瞬だったが相当威力があったようであごを蹴り上げられた男はその場に倒れこんだ。
「なによ雑魚じゃない口ほどにもないわね」
ニーナが地面で気絶している男を見て鼻で笑ったそのとき、重たい蹄の音と共に俺たちの目の前にケンタウロスの男が現れた。
毛皮は光すら吸い込みそうなほどの漆黒で肌も若干黒味かがっている。背丈はゆうに二メートルを超え、鋭い眼差しでこちらを見つめている。
「追いかけられたのはこいつか」
俺の言葉と同時にその黒いケンタウロスはこちらに向かってきた。
エレナーゼが先ほど見せてくれた魔法を放つもケンタウロスの男はすばやく左右に避け通り過ぎた後、虚しく火柱が上がるだけであった。
まるで質量を持った黒い風のように重くずっしりとした走りであっという間に目の前まで距離を詰められてしまった。
男は立ち止まると腰から剣を抜いた。言葉は発しないが、巻き添えを食らいたくなければそこをどけと光の無い瞳が語っている。
「彼の目的は私、みんなは先に進んで頂戴」
エレナーゼがおとりになり逃げようとする。しかしそれをシャリンの言葉が止めた。
「また同じことを繰り返すのか。次は逃げ切れるとはかぎらないぞ」
「……わかってる、でもこうするしかないのよ」
確かにシャリンの言うとおり二度も逃がしてくれるとは考えにくい。
「そうですよいつか他の仲間にまで手が及ぶかもしれません。わたくしが彼の注意を引きます、その間にシャリンさんは足をお願いします。おそらくそう長くは持たないでしょうが」
フィリアナは剣を手に前へと進む。静かな森に空気を凍りつかせるような緊張が走る。
彼女がぎゅっと剣を握りなおす。その場にいた全員が息をするのさえ忘れている。
そのときセシリアが黒いケンタウロスの横からスッと現れたかと思うと馬の背に音も無く乗り上げた。そしてそのまま背後から首筋に短剣を当てる。
彼がそのことに気づき目を見開いたときにはすでに遅く、静かに刃は横へと滑った。




