第90話 華麗な狩人、ファーン族 2
エルフ族の森を抜けようとしたところ、半獣の青年に出会った
俺たちを案内してくれると言った青年は自身をエルデンと名乗った。彼は出会ったときとは違い穏やかな青年だった。まだわずかに表情に幼さが残っており、ほっそりとしたあごと栗毛色の髪、それから短い角が特徴的だ。エルフ族との関係性について聞くと彼は困ったように笑った。
「ああ、そうですねエルフ族とは友好的ですよ。まあ表面上はね、彼らはなんというかその、気難しいんです」
「他の種族を見下してる、じゃなくって?」
ニーナは腕を組み嫌味を言う。それを聞いて彼は肩をすくめた。
「まあそうとも言えますね。仕方ないですよエルフ族は神に一番近い種族だと言われていますから」
「そうだちなみに君たちはなんていう種族なんだ?」
俺の問いかけにエルデンはファーン族だと答えた。皆聞いたことないというような顔をしている。
「下半身が鹿になっています。サテュロス族の親戚ですね」
その言葉で俺はサテュロスがあの女の名前ではなく種族名であるということに気がついた。彼はその晩自分の村へは帰らず一緒に野宿をしてくれることになった。ふとピヨに目をやるとエレナーゼに貰った本を開き一生懸命読んでいる。
「どうだ?読めそうか?」
「うー全然だめだよ」
そこへエレナーゼがやってきた。
「ほら読んであげる」
彼女はピヨの隣に伏せると一緒に読み始めた。始めは文字が読めないという事実に驚いたが、よく考えればそれは当たり前ではないということに気づかされる。自分がいた環境がたまたま良かっただけで世界には文字が読めない人は大勢いる。俺はエルデンのそばへ行くと先ほどの発言についてたずねた。
「エルフ族ですか?彼らは他の種族よりはるかに長生きします。それに身体能力も生まれつきの魔力も違います。長い人だと千歳以上生きるとか」
俺は彼の言葉に耳を傾けた。
「地上に落ちる前、楽園にいた頃は皆すべて同じ形をしていたと言われています。そこで神が創造した地上に降りて支配するように命じたのです。そのときに皆、何かしら力を授かりました」
「ケンタウロスは広大な大地を支配できるよう走る力を得ましたし、ハーピーには空を支配できるよう翼を与えました。そして一番出来の良かった使者に自身を力を分け与え、他の種族を見守るよう伝えました」
一通り話し終わると彼は自分ばかり話しすぎてしまいましたね、と照れたようにはにかんだ。俺は、では人間はどのような存在なのかということをなんとなく聞くことができなかった。