第81話 知の聖獣、スフィンクス族 4
スフィンクスの村で休憩するも調子が悪くなってきた亜李須川
俺はポリーンに言われたとおり傷の手当をしてもらうため先ほどの小さなスフィンクスのいたテントへ戻ってきた。彼がここの村の医者なのだろうか。
彼は俺が入ってくるのを見るとまた嫌そうな顔をした。
「えーなんだまだいるのかよ、おいら疲れたよ。しょうがないな、ほら服脱いでそこにうつぶせになってよ」
俺が床に横たわるとぶつくさ文句を垂れながらも前足を二の腕に置いた。
「うわ結構ひどいな、傷は塞がってるけどこれちゃんと縫ったほうがいいな」
そんなことを言いながら二本の短い前足で二の腕をマッサージしている。いつ縫合してくれるのかと待っていたが彼はそのまま腕をもみ続けている。
「あの……医者ですよね?」
「え?なんだって、おいら医者じゃないよ。治癒士だよ」
治癒士とはなんだろうか。この世界ではマッサージ師をそう呼ぶのだろうか。確かに疲れを癒してはくれるが。
「なんだよあんたら冒険者じゃないの?まさか怪我したことないわけないよね?」
「いえ俺たちは旅人です。それに治癒士ってなんですか?疲れを取る人……みたいな?」
俺の言葉を聞いて治癒士のスフィンクスは信じられないという表情を浮かべた。
「これは魔法だよ、知ってるだろ?光魔法とか白魔法とかその類だよ」
その後の話によるとこれはいわゆる回復魔法というやつで、冒険者たちはこれで疲れや簡単な怪我を治すらしい。ということは俺は今魔法を体験しているということになる。
そう考えるとなんだかわくわくしてきた。もしかしてもといた世界の人類で初めて魔法を体験した人かもしれない。
すると踏まれている箇所がだんだんと温かくなってきた。
今度は俺の背に乗ると四本の足で器用にもみ始めた。体中の筋肉が柔らかくほどけていくようで力が抜けていく。まるで温められたチョコレートのようにゆっくりと、とろとろになっていく感覚だ。
しばらくすると彼は俺の上から降りていった。終わっても体に力が入らない。
「はあ~疲れた、これで傷の治りは速くなるでしょ。おいらもう寝るから行ってくれよ」
俺はふにゃふにゃになった体をなんとか起こしシャリンのもとに帰った。