第80話 知の聖獣、スフィンクス族 3
スフィンクスの村へと案内された一行
俺とシャリンは案内されたテントの中へ入った。床には毛皮で作られたマットが敷いてあり本や紙、その他のいろいろな生活用品が散乱している。
「ごめんなさいね散らかってて」
そう言うと彼女はランプに火を灯した。
「あらあなた顔色がすごく悪いわよ、大丈夫?」
言葉のとおり先ほどからめまいがひどくなり立っていることすらきつい。傷は熱を持ち、痛みも増している。それに続いて頭も痛くなってきた。
「とりあえずここに座って、猫耳のあなたもよ。ひどい顔ね、ちょっと待てて今なにか食べ物を持ってくるから」
そういうと人面猫の女はテントを出て行った。俺は言われたとおり床に腰を下ろした。正直なところ座っているのもつらい。
シャリンが心配そうにこちらを覗き込む。彼女も水を汲みに行ってくると言ってその場を離れた。
しばらくするとバケツに水を汲んだシャリンと、器用にトレイを前足に持った人面猫が帰ってきた。
トレイにはスープの入ったボウルが二つ並んでいる。
「気分はどう?明日食べる分に余分につくっておいてよかった」
俺とシャリンはボウルを受け取った。スープの中には小さな鶏肉とたくさんの野菜が入っている。
一口飲むと野菜と油の甘味、スープ自体の温かさが疲れた体に染み渡っていくようだ。
食べ終えると緊張感がほぐれ傷の痛みが心なしか和らいだ気がする。ここで俺はまだ彼女の名前を聞いていなかったことに気づいた。
「そういえば名前なんて言うんだ?俺は亜李須川 弘明でこっちがシャリンだ」
隣に座っているシャリンはもう眠そうだ。
「私はエレナーゼ、あなたたちの仲間の治療が終わったら二人も行ってくるのよ」
「なあ失礼なことだと思うが、そのあなたは一体なんていう種族なんだ」
このままずっと人面猫なんて言い続けているわけにもいかないだろう。するとエレナーゼは床に横たわった。
「私たちはスフィンクスよ、聞いたことないかしら知識を与える聖獣だったり試練を与える化け物だったり」
スフィンクス……そう言われれば確かに人の頭にライオンの体、背中には翼が生えている。そして人になぞかけをして、間違えると食べられてしまうと言われていた。
「そうだったのか、だからみんなから狙われていたんだな」
「ええ、どこかのお馬鹿さんは私たちのことをペットにしようとしてるみたいだけど。そんなにかわいいものじゃないのに」
そんな話をしているとポリーンが入り口の隙間から体をのぞかせた。
「あの、ヒロアキさんとシャリンさんも治療してもらってください」
横を向くとシャリンはすでに床のうえで丸くなって寝ていた。