第77話 多大な損害 2
エルフたちから逃れられたが皆深い傷を負ってしまった
エルフ族の森を後にしたときもうすでに日は落ちかけていた。辺りがだんだんと暗くなり周囲の森が狭まってくるような錯覚におちいる。
とりあえず夜を安全に過ごせる場所を探す。
アラクネのローレンはどこかに隠れていたらしく無傷だった。今は蜘蛛の背にぐったりしているピヨを乗せている。
俺はというと切られた肩の傷がなかなか塞がらず血が未だににじみ出ている。そのせいなのか先ほどから気分が悪く次第に足に力が入らなくなってきている。
「あの、ヒロアキさん大丈夫ですか?」
ポリーンは黒い瞳でじっとこちらを心配そうに見上げた。
「いや俺は平気だニーナを支えてやってくれ」
「馬鹿にしないでよね!こんなのなんともないんだから!」
前を進んでいたニーナの大きな声が聞こえる。
「皆すまないな俺が森を抜けていこうなんて言い出したから……」
もとはといえば俺のせいだ。以前町で出会ったサテュロスの忠告を聞いておけばこんなことにはならなかったはずだ。皆の足手まといになるだけでなく命の危険にさらしてしまうなんて。
そう思っていると隣にいたシャリンがこちらを横目で見つめてきた。
「やめろアリスガワそんなこと無意味だ。だれの責任でもない」
だが、と言いかけたのをフィリアナが遮った。
「そうですよもしかしたら彼らに協力してもらえたかもしれないんです。まあ私たちが想像していたような方々ではありませんでしたけどね」
俺はそれ以上言葉を発しなかった。
こうしている間にも日はどんどんと沈みかけている。どうにか夜になる前に休憩できる場所を探さなくては。
そう思い辺りを見渡すがあるのは太い木ばかりだ。
ふと地面のくぼみになにか動物が倒れているのを見つけた。よく見るとそれは雌のライオンのようで背中には翼が生えている。何者かに襲われたのか、きれいな白い羽は土にまみれひしゃげている。
その動物は肩を動かし小さく息をしているようだ。俺は皆から離れ動物の様子を見に行った。
今はこんなことをしている場合ではないのはわかっているが、どうもこのかわいそうな動物が自分と重なり見捨てることができなかった。
ちょうど地面にあいたくぼみにすっぽりと体を納めている。俺は身を乗り出してその不思議な生き物の全身を観察した。
土ぼこりに汚れたぼさぼさの毛並みに白い翼、そして頭部には長い髪の生えた女の顔がついていた。