第76話 多大な損害 1
亜李須川の説得によりなんとか見逃してもらうことができた
エルフたちが去った後、俺は全身から力が抜けその場へしゃがみこんだ。手は緊張で震え、体中が冷たい汗でびっしょりだ。
大きく息を吸った。長らく息をすることを忘れていたかのようだ。
ポリーンが心配そうに近寄ってきた。だが今は笑い返している余裕などない。
そこでようやく俺はピヨが矢で打たれたことを思い出した。重たい頭を動かしピヨが落下したほうを見る。ピヨはフィリアナに抱えられていた。しかしフィリアナも体中にいくつも傷跡があり、馬体を覆っていたきれいな布はぼろぼろになってしまっている。
俺はポリーンに支えられなんとかその場から立ち上がり仲間のほうへ近寄った。
「ピヨ、大丈夫か?」
刺さっていた矢は抜かれていたものの流れ出た血がオレンジ色の羽を赤く染め上げている。
「う、うぇ、痛いよー、あう、ズズッ」
ピヨの全身は泥だらけで、顔は鼻水と涙でぐしゃぐしゃだ。
「アリスガワ、大丈夫だったか?!」
俺を呼ぶ声に振り返るとシャリンとニーナが立っていた。
「おま、鼻から血が出てるじゃねえか!」
シャリンは鼻から盛大に血を垂れ流している。それだけではなく顔にもいくつも痛々しいあざがあり、ひざの擦り傷からも血がにじんでいる。
ニーナも腕にあざがあり、蛇の尾は泥と土汚れにまみれている。
俺は荷物からタオルを取り出しシャリンの鼻に押し当てた。彼女は特に表情を変えることなく何事も無かったというような顔をしている。
「それよりアリスガワお前肩を怪我しているぞ」
確かに先ほどから痛いがみんなと比べると軽症だ。
「俺のことはいい、それよりひざを洗ってあざを冷やさなきゃ痕が残っちまうだろ」
俺の言葉にシャリンは何を言っているんだというように眉をひそめた。
「そんなことよりさっさと移動するわよ!あいつらの仲間が戻ってきたらどうするの!」
「そうですよ今は安全な場所に移動しましょう」
ニーナとフィリアナに促され俺たちはその場を後にした。