第72話 飲んだくれのサテュロス
町の騒ぎについて近くにいたサテュロスという女の人に話しを聞くことにした
ニーナは箱の上でこちらに足を投げ出しだらんと寝ている人のもとへ行くと大きな声で叫んだ。
「ちょっと起きなさいよ!そこのあんた、サテュロス!」
サテュロスと呼ばれた人はやはり人間ではなく、下半身がヤギのように割れた蹄と長い毛に覆われている。女の人のようだが髪はぼさぼさで四肢を投げ出し近くにはワインの空き瓶が転がっている。
「ちょっと、ねえってば」
ニーナは彼女の肩をつかみ乱暴に揺さぶる。よくみると乱れた髪の間から小さな二本の角がのぞいている。
するとサテュロスはうなり声をあげゆっくりと起き始めた。
「うぃ~、ああー背中がいてぇー。ん?あれここはどこだぁ?」
「やっと起きたわね、この騒ぎは何?」
彼女は顔に掛った髪をかき上げこちらをぼーっと見た。
「さあお水をどうぞ」
フィリアナが水を差し出すとサテュロスはごくごくと飲んだ。
「はああーありがとう、ところでおたくら誰?もしかしてここの土地の持ち主?私またなんかやったかな」
俺は自分たちが旅人であること、そしてここの町にさっきついたことを伝えた。
「なるほどなぁこのにぎわいね、こりゃあれだ、なんて言ったっけなぁ……。なんかとんでもない額の依頼が出されて、隣国のでっかい国あるだろ?あそこのわがまま王子が依頼したんだと」
とぎれとぎれでいまいち意味がわからないが、訳すると隣国の王子によってだされた高額の依頼を狙って冒険者が集まっているということだろう。
「その国って俺たちが目指しているところじゃないのか」
俺は地図を指差した。
「そうそうここの、えっとなんて言ったっけ、なんとか王子」
「まあとりあえず騒ぎの原因はわかったよありがとうな。じゃあ俺たちはこの先の森を目指していくから」
サテュロスに別れを告げ去ろうとしたとき彼女に呼び止められた。
「ちょいおたくらこの先の森を抜けるのか?だめだめここの森はエルフどもが支配してるんだからな」
彼女の話によると冒険者は滅多に近寄らないらしい。だがエルフ族だ、俺のイメージが正しければこの旅の理由を話せば協力してくれるだろう。